22 -重い荷物-




どうしてしまったんだろう。



大切な何かを失ってしまったような


そんな感じに襲われた――











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(side:彩愛)













『大海さん、ちょっと良いかな…?』

「…う、うん…」



白井さんに呼ばれ、渋々ついて行く私。

もう、思い出したくも無いのに…。

今更何を話すって言うの?



『大海さん、お願い…テニス部に戻ってきて』

「え…?」



彼女からこんな頼み事をされるとは思ってもなかった。

私が居なくなって、清々した筈でしょ…?



『テニス部にはアナタが必要なの』

「――…」



やめて…やめてよ…。

もうあんな思いをするのは嫌なの…。

あんな目を見たくないの…!


また、私に傷付けって言うの…?




『ねぇ、戻ってきて!』

うるさいっ…!




私が必要?

そんなの綺麗事じゃない。




「丸井先輩のあの目見た…?何処が私を必要としてるって言うの!?」

『ま、丸井先輩は誤解して』

今まで何年も一緒に居たんだよ!?



それなのに、丸井先輩は牧原先輩を選んだ。

みんなも…精ちゃんだって。



誰も私なんて必要としてない…!!

してるよ…!!



白井さんは私の肩をガッシリと掴む。

真っ直ぐなその目は、少し赤くなっていた。



『私も、赤也くんも…大海さんが必要なの…。柳先輩も、仁王先輩だって…』

「…ッ…」

周りを見たら、アナタを必要としてる人なんてたくさん居るのに…!



涙を堪えて必死に訴える白井さん。


なんで…?

何で、私の為に…。



『アナタの場所はちゃんとあるのに、どうして必要ないなんて言うの!?』

「白井さ…」

白井?

「――…!?」



丸井先輩がヒョコっと顔を覗かせる。

私は条件反射で丸井先輩から目を反らした。



『お前…どうした…?』

『なっ…何でもないです!』



白井さんを心配する目と…私を睨む目。

丸井先輩は上手に使い分けた。



『まさか…また何かしたんじゃねぇだろうな?』

『丸井先輩、違うんです!』

だったら何だって言うんですか?



こうなることは分かってた。

また、罠にはめられたんだ…私。


危なかった。


今、彼女を信じるところだった――。















「…!!」

『あ…』



教室に戻る途中、赤也に会った。



『俺はもう、お前の事なんか助けねぇからな』




彼は…私の敵なんだっけ。

なんだ、段々減っていってるんじゃん。

私の味方。

その内一人も居なくなって、本当に必要のない奴になるんだろうな。




『彩愛…』



赤也は心配そうに私の名前を呼ぶ。


赤也、私のことが嫌いなら

そんな悲しそうな顔…しないでよ。



「どうしたの、切原くん?」

『えっ…?』



何、その反応は。

そっちが言ったくせに。




『気安く名前で呼ぶんじゃねーよ』



って。

意味わかんないよ、アンタ…。



私はそのまま赤也の隣を通り過ぎた。





















『――悪かった…』





赤也が小さく発したその言葉で、私の足が止まる。




「なんで…謝るの?」

『悪りぃ』

「私のことなんて、助けないんじゃないの?」

『まさか…あんなことになってるなんて、思わなかったんだよ』



どうしてこんなに、素直になれないんだろう。

赤也から話し掛けて貰って嬉しい筈なのに…。

モヤモヤした思いが、私の心を汚していく。



『お前が部長のことどんだけ好きか、分かってた筈なのに』

「でも、私が蓮二先輩に抱き付いたのは、紛れもない事実なの」



私の口から出るのは、赤也を突き放すような言葉ばかり。

こんなこと言ったら、赤也が離れていっちゃうなんて…分かり切ってるのに。





『…辛かったんだろ…?』

「――え…?」



意外な返事が返ってきたので、私は驚いて赤也の方を振り向く。



『誰かにすがらなきゃいけないくらい、どうしようもなかったんだろ?』

「……」



その優しい言葉に、私は言葉が出なかった。

私は赤也を、裏切ったのに…。



「…怒って、ないの…?」

『別に、もう怒ってねーよ』

「本当に?」

『あぁ。まぁ強いて言うなら…』







――グイッ…


赤也は私の手を引っ張り、抱き締めた。







そんな時は、俺を頼れよ

「…赤也…」



ずっと独りで背負ってた荷物が、いきなり軽くなったような気がして。

涙が止まらなくなった。


ごめん、白井さん…。




1分、いや30秒だけ…


赤也を借して下さい…。

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