27 -柳蓮二の賭け-





私のために

こんな真剣になってくれる人が居ると言うこと。

きっと以前の私じゃ

気付けなかった――













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『牧原は大富豪家の娘だ。故に、"金には金を、権力には権力を"と言う方法も考えているんだが…どうだ?彩愛』



私の白井さんを握る手が強くなった。

どうして蓮二先輩がその事を知ってるの?

精ちゃんしか、知らない筈なのに…。



「…精ちゃん、ですね…」

『ああ、精市から聞かせて貰った』



どうして精ちゃんはそのことを話したんだろう。

私の叔父さんが、お金持ちだって…。



「蓮二先輩、ごめんなさい。他人の権力は借りたくないんです」



私がこうゆう性格だって知ってるくせに。

そんな簡単に聞かれたくない事話しちゃうんだ。

私に対しての…嫌がらせ?



『そう言うと思っていた。ならばこの作戦は排除と言うことだな』

「ホントにごめんなさい」

『構わない。しかし、その分他のところでお前は多大なリスクを負う。そこは覚悟しておかねばなるまい』

「分かってます」



精ちゃんはもう、私の敵でしかないんだ。

牧原先輩の…味方、か。

いやいや、何を贅沢言ってるの?

私にはこんなに自分を大切にしてくれてる仲間が居るじゃない。

それだけで十分でしょ…?



『ちなみに詳しくは話せないが、精市が牧原と付き合っているのは精市自身の意思では無い』

「え…?」

『どうゆう事ッスか?部長の意思じゃない、って…』

『そうゆう事だ。詳しくは話せないと言っただろう』

『でも…気になるじゃないッスか!』



う…嘘、だ……嘘だ嘘だ嘘だ。


じゃあさっきのキスは何だったって言うの?

精ちゃんが好きじゃない人にキスする筈ないじゃない。

私を牧原さんと間違えるくらい好きなんでしょ?

牧原さんと付き合ってるのは精ちゃんの意思だよ。

それ以外に二人が付き合ってる理由なんて、見つからないよ…。



『精市との約束だ。言えないものは言えない』

『うわっ、ズッリー。二人だけの秘密ってやつッスか?』

『ところで、彩愛の誤解を解く件なのだが』

『………』



赤也は唇を尖らせてそっぽを向いた。

仕方ないよ、赤也。

君はそんなキャラなんだから。



『俺は立海テニス部に賭けてみたい』

『あの…それってどうゆう事ですか…?』

『もし彩愛を本当の仲間と思っているならば、術を施さなくとも誤解は解ける』

『凄い賭けをするのう、参謀…。もし奴らが諸悪の根源に気付けなかったら、どうするんじゃ?』

『その時は、立海テニス部を去ろう』



蓮二先輩は何の曇りも無く、そう言い放った。

流石蓮二先輩…言うことが違うね。

カッコイイよ、今キュンって来たよ!



『なるほどねぇ…』

『なら、私達は何もしなくても良いんですか?』

『あぁ、この件に関しては何もしない方が良いだろう。強いてする事を言うならば、他の部員によって彩愛が傷付けられた時に、励ます事くらいだ』

「大丈夫ですよ」



こんなに信用出来る仲間がいることだし。

多少虐められたくらいじゃへこたれないからね。



『と言うことで作戦会議は終わりだ』

『あっ…早く部活に行かなきゃ…!』



白井さんは急いで立ち上がる。



『待て。俺達が集まっていたと悟られないように、時間をずらして行くべきだ』



徹底してるなぁ、蓮二先輩。

私とか赤也では有り得ない徹底さだ。



『まずは白井は校舎方面からコートへ向かう。その約十分後に俺と赤也が部室方面から行くことにしよう。仁王は五分後に何処からでも良い、とりあえずコートに来ることだ。彩愛は…帰れ』

「はいぃ…?」



か え れ なんて…酷い…。

私だけ仲間外れですか。



『今日中に精市に話をつけておく。来るなら明日からだ』

「うぅ…ハイ…」

『一応言っておくが、辞めたのはお前の意思だ。俺達は止めた筈だ』

「…そうでした…」



確かに、貴方達を裏切って辞めたのは私でございますよ。

面倒なことをさせたのは他でもない、この私ざあますよ。

…わかっては、いるんだよ。



『じゃ、私は一足先に行ってますね!』

『あぁ』

「頑張ってね」



白井さんは可愛らしくニッコリ笑って軽く手を振ると、走ってコートへ向かった。

今更だけど、真面目な良い子だ。



『………』

『…赤也、いつまでその顔をしているんだ』

『別に…したくてしてるわけじゃありませんよーだ』



まったく…子供かお前は。

いや、大人では無いけどさ。

子供でも無いお年頃だろ。



『しかもなんで俺が柳先輩と戻ることになるんスか』

『俺が赤也を探しに来たからだ』

『仁王先輩は?』

『仁王を捕まえる事は、雲を掴むような話だ』

『ちぇ…』



雅治先輩って…ホント、自由奔放な人だ…。

ビッグ3も黙認してるってわけか。

赤也においては異常なまでに真田先輩に気に入られてるからな、仕方ないことなんだろう…。

喜ぶに値すること…とは言えないけどね。

相手が真田先輩なだけに…。


『参謀』

『どうした?仁王』

『参謀がテニス部を辞める時は、俺も一緒に辞めるぜよ』

『仁王…』

『キョーミないんじゃ、人を見抜く力もろくに持てない奴らの居る部活なんてのう』



雅治先輩は手を頭の後方に持って行くと、そのまま背中を地面に付けた。



『なら俺も辞めよっかな〜。副部長から離れられるし』

『…弦一郎に伝えておこう』

ちょっ…!今の無しッス!冗談ですよ、察してください!



赤也が異常にオドオドしてるその姿が面白くて、私は笑った。

蓮二先輩も、雅治先輩も、声には出さなかったけど、静かに笑っていた。

私の好きだった空間は、こんな空間だったんだな。

久しぶりに感じたのほほんとした雰囲気に、何だか和まされた。


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