31 -田中太郎-




ほっとけない。


だからまた、俺は君に惹かれてく――。

















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『精市、ちょっと良いか』



放課後、俺はまた蓮二に呼び出される。

一日に2回も呼び出されるのは、今回が初めてだ。



「なんだい?」

『彩愛に、恋人が出来たらしい』




…彩愛に?


まさか赤也と……それは無いか。

だとしたら仁王辺りか…?



『考えるな、精市』

「え?」

『恐らく、お前の知らない人物だ』

「俺の知らない…」



彩愛のクラスメート、かな?

学校外での彩愛の知り合いは、ほとんど俺も知ってる筈。



「名前は?」

『田中太郎、と言うらしい』

「…冗談だろ?」

『断じて冗談では無い。本名だ』



如何にも日本人を代表するような名前だな。



『情報によると、白井と同じクラスのサッカー部員らしいが…』

「彩愛のクラスメートじゃないのか?」

『接点までは分からないが、クラスメートでは無いのは確かだ』



もしかして…彩愛…




『ヤケになったのかもしれないな』

「まさか…」



そんな軽率な行動をするとは思えないけど…昨日の彩愛を見ている限りでは、十分有り得る話だ。


…バカ彩愛。



「とにかく会ってみるしかないな…彩愛に」

『恐らく部活には顔を出すだろう』



と言うことになり、俺達はテニスコートに向かった。

彩愛の姿は…………あった。



『限り無く魂の抜けた顔をしているな』

「彼氏が出来たって言うのにね」



そんな方向に行って欲しかったわけじゃないのに…。

まだ蓮二か仁王なら納得も出来た。

赤也は…まぁ、名前を知っているだけ有りか。



『あ、お疲れさまです!!』



白井さんが笑顔で挨拶をしてきた。

俺と蓮二は顔を見合わせる。



『白井、少し良いか?』

『は、はい…?』



俺達は白井さんの面を借りた。

これは聞いておかなくっちゃね。



『な、なんでしょう?私…何かしましたか?』



俺達が余りにも険しい顔をしていたのか…彼女は怖がっていた。

蓮二を見てみると、いつも以上に眉間の皺が目立っている。



「蓮二、顔が怖いよ」

『…お前もだ、精市』

「ふふ」



少なからず、蓮二も心配してるんだろうな。

危なっかしい彩愛の事を。



「白井さん、田中太郎って子…知ってる?」

『えっ…?田中くん?同じクラスですけど』

「その田中くんって…どんな子なのかな?」



白井さんは深く考え込む。

田中の事をそんなによく知らないのかな?

なんとしても情報が欲しいんだけど…。




『あの…ひとつ聞いて良いですか?』

「なんだい?」

『もしかして…彩愛ちゃんの事で…?』



ストレートにそう聞かれると、何だか少し恥ずかしくなった。

彩愛の恋人の事をこそこそ嗅ぎ回って…何をしてるんだろう…。



「そう、彩愛の事で…だよ」



言うと更に惨めになるな…。

もうこれ以上の干渉は止そう。



やっぱり!先輩達からも何とか説得してあげてください!!

「……え?」



彼女の口からは意外な言葉が返ってきた。

勿論、俺と蓮二はまた顔を見合わせたよ。



『彩愛ちゃんがなんであんな奴と付き合ったのか…私ホントに分かりません!』



まさかの展開だな…。

名前からしてふざけてると思ってたけど。



『一体、田中太郎はどんな人物なんだ?』

さいっっっていな奴です!顔は確かに、ちょっとカッコイイんですよ!…まぁ、赤也くん程ではないけど!』



いやいや、最後の一文は要らないよ。

カットでお願い。



『何かされたのか?』

『私、田中君に1ヶ月ほど前まで、すっごいアプローチ受けてたんですけど…』



1ヶ月で彩愛に乗り換えたってことか…。

もうその段階で最低な人物って言うのは分かったよ。



『メールも電話も“彼氏か!”って言うほど酷くて、やめてって言っても全然やめてくれなかったんです。それで、断り続けてたら最終的には“ただの遊びだ、アイツはやりたかっただけだ”って言い出して!あーっ!!!思い出しただけでも腹が立つ!!!!

「ま、まぁ…落ち着いて」



要らない事を思い出させてしまったみたいだけど…とりあえず彼女の情熱で“田中太郎”って男がどんなに酷い奴か伝わってきたよ。



『精市』

「何が何でも別れさせないといけないね」

『…そのようだな』



ホント、昔から手間の掛かるお嬢さんだな。

だから…ほっとけないんだろうな、俺もみんなも…。



『あのっ…!幸村部長!』

「?…何?」

『どうして彩愛ちゃんの事が気になるんですか?幸村先輩は…亮子先輩の彼氏さんじゃ、ないんですか?』



こう言う事をみんなに言われる度に思うよ。


思い出させないでくれ。





「そうだよ」



それだけ言って、俺は白井さんに笑顔を向けた。


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