33 -忘却-
新しい恋をすれば…
貴方の事も、貴方を想う気持ちも全部
忘れられるのかな――?
Link.33 -忘却-
「えっ…な、なんで…?」
何処まで知ってんの?この子…。
『君がマネージャーしてるとこ、部活中チラッと見えるんだ』
「あ、ああ…そうなの…」
『幸村先輩に告白してるの、よく聞いてたし』
あぁ、私が一方的に言ってたやつね。
告白というか…好き好き攻撃だけど。
その度に“ハイハイ”って流されてたっけな。
『好きな人いるんだ――って思ってたら、いつの間にか目で追うようになって、いつの間にか好きになってた』
「そ、そっか…。でも私まだその人のこと好きで」
『
でも彼女出来たんでしょ?』
「……ッ…」
もう思い出させないで、頼むから。
『ねぇ、もう忘れようよ。彼女がいるんなら無理だよ』
「…それが出来たら苦労はしないよ」
『だから、忘れる努力をするんだよ』
忘れる、努力…。
忘れたい忘れたいって思いながら、私は結局行動に移せなかった。
それは、私が精ちゃんを忘れようとしなかったから…。
『今すぐ忘れろとは言わない。オレ、大海さんが幸村先輩を忘れられるように、協力するから』
「………」
『だから、オレと付き合って!』
忘れられる筈がない、そう思った。
でも、何もかもがどうでも良かったんだろう。
「………わかった」
そう、返事してしまった。
ある意味、知らない人だったから良かったのかもしれない。
私はこの子を、精ちゃんを忘れる為だけに、利用しようとしてたのだから…。
「名前は?なんて言うの?」
『オレ…田中太郎!』
思わず心の中で吹き出してしまったのは、当然内緒である。
『彩愛ちゃん、おかえり!何の話だったの?』
「………告白された」
『えぇ!?…も、勿論断ったよね…?』
「ううん、オッケーしたよ」
そう言うと、梨華ちゃんは私に掴み掛かってきた。
『な、なんでオッケーしたの!!?』
「え?いや、…なんでだろ…?」
『ダメだよ、彩愛ちゃん!!
あの子だけは絶対ダメ!!』
梨華ちゃんが珍しく熱くなっている。
大丈夫大丈夫、と言いながら私は部室に向かった。
『彩愛ちゃんのバカ……』
彼女がそう呟いているのを、聞かないフリをして。
もうホントに、どうでも良いんだ。
恋人が誰でも、どうでも良い。
もう私の生きがいは…部活だけ――。
『彩愛、話がある。部活が終わったら、コートに来て』
部活中、精ちゃんにそう言われたものだから、私はまた怖くなった。
また部活を辞めろと言われたら…
それこそ私に残る物なんて何も無い。
不安と恐怖を抱えて、私は精ちゃんの待つテニスコートに向かった。
「話って何?部活なら辞めな」
『田中太郎と付き合ってるって言うのは本当かい?』
「
…へ?」
精ちゃんの口から意外な言葉が出てきた。
ってゆうか、何でその事を知って…。
「だ…だったら何?部活には支障出さないし、別に良いでしょ!」
『部活に支障出るなら彩愛を辞めさせてるよ。ただ、その子はやめた方が良いってだけの話』
その言葉に、無性に腹が立った。
精ちゃんは…私が精ちゃんを忘れようとするのも許してくれないの?
じゃあ…
私はどうすれば良いって言うの…!?
「私が誰と付き合おうと、精ちゃんには関係ないでしょ!?」
『関係無いよ。俺は彩愛為に忠告してるだけ』
狡い…狡いんだよ、いつも……精ちゃん…。
私にとって精ちゃんは“絶対”なんだよ。
精ちゃんに言われたら、私の決意が揺れてしまう…。
彼女の方が大切なら…私のことなんて、もうほっといてよ…!
『せめて付き合うなら、蓮二とか仁王とか…まぁ、お勧めは出来ないけど赤也とか、もっと良い人はいっぱい居るだろう?』
「……!!」
そっか…精ちゃんは、私に彼氏が出来た事を反対してるわけじゃなく
田中太郎と言う人物に反対してる、って事なんだね…。
私が誰と付き合っても、本当に関係無いんだ…。
「大切だもん……みんな…」
『………』
「蓮二先輩も、雅治先輩も、赤也も…今は嫌われてるけど、テニス部のみんなも……」
大切だから、こんな中途半端な気持ちでは…付き合えないんだよ。
『だからって、好きでも無い人と付き合うのかい?』
「…なんで精ちゃんにそんなこと言われなきゃなんないの?関係ないならほっといてよ…!」
『だから彩愛の為に』
「
じゃあ私も精ちゃんの為に言うよ!牧原先輩と別れたら!?」
『………』
精ちゃんこそ、女見る目無いくせに…。
なんで牧原先輩なんて……精ちゃんのばかっ!
『…分かった、それならもう忠告しないよ。どうなっても知らないから』
精ちゃんの後ろ姿を見て、内心ちょっと寂しくなった。
どんなに精ちゃんに言われたくない言葉でも、精ちゃんが私に構ってくれるだけで嬉しいのに…。
「精ちゃんの言葉が、どれだけ私にとって重いか…知ってる?」
私が呟くと、精ちゃんの足が止まった。