39 -孤独の果て-
仲間との絆なんて
何年かかって積み上げても
脆く崩れ去るだけ…――
Link.38 -孤独の果て-
昨日、精ちゃんと帰った後、田中くんからメールが来た。
“お前なんてただ遊んでただけだし、別れてやるよ”
何とも腹立たしい内容なんだろうけど、不思議と腹は立たなかった。
それより、別れられたことに安心しきっていた。
その矢先に起こった事件…――。
ガチャッ。
いつも通り、部室の扉を開ける。
そこに勢揃いしている部員の姿。
いつもより人口密度の高い部室に、驚きを隠せなかった。
一体、何があったの…?
『大海…そうだ、コイツがやったんじゃねーの?』
『有り得る話だな』
な、何…?
何の話をしてるの?
『私、昨日彩愛ちゃんが部室の前でウロウロしてるの見たわ!』
『マジかよ、牧原!』
話の内容が一切掴めないんだけど…。
でも、この重苦しい空気は…また私に嫌な予感を匂わせた。
『大海。昨日は部活の後、何をしていた』
真田先輩にそう尋ねられる。
疑いが掛かるのは仕方ないけど、正直に話すしかない。
「昨日は…この部室の前で、人を…待ってました」
『ハッ、決まりだな!』
『今すぐ退部しろよ!』
私を罵る声が重なり合う。
味方の居ない…孤独な空間。
「何が…あったんですか…?」
『とぼけんなよ!テメェがやったんだろ、このトロフィー!』
「…トロフィー…?」
真田先輩の手元を見ると、そこには無惨にも割れたトロフィーがあった。
それだけじゃない…棚に並べられていたトロフィーも…。
「うそ…」
そのショックは私にも大きかった。
今までみんなと手に入れてきた勝利の証。
それがこんなことになるなんて…。
『お前がここまでするなんて、想像してなかったぜ…』
丸井先輩が、悲しそうな目で訴える。
何言ってるの…?
私が、こんなことするわけないでしょ…?
「違う!私じゃないです!」
『
うるせぇ、黙れ!!』
誰かに肩を押され、そのまま棚にぶつかる。
棚から落ちたトロフィーの破片が、私の手を傷付けた。
タラタラと流れ落ちる血を見て…何だか悲しみが押し寄せた。
「…ホントに脆いんですね…」
『アァ!?』
「
私は…ッ、本気でみんなを信じてサポートしてきた…ッ!」
悲しみが、怒りになって…涙になる。
もう、どうすれば良いか分からないよ。
「丸井先輩…丸井先輩は…いつでも元気を与えてくれる先輩、だった…」
お互いにケーキを作ってきて食べ比べしたり
精ちゃんのことで茶化されて言い合いしたり
丸井先輩が落ち込んでる時は、何だか私も落ち込んだ。
『ま、辛いことあったら俺達に相談しろよ』
「でも…丸井先輩のことを信頼して、大好きだったのは…私だけ、だったんですね…」
『……!…』
「他の人もそう…。真田先輩、柳生先輩、ジャッカル先輩…部員全員…。本気で信頼してたのは…私の方だけ……」
自分で言っていて、何だか虚しくなって…思わず失笑してしまった。
「フッ…はははっ。だからこんな簡単に、トロフィーも壊れるんですね」
『…やっぱりお前が』
「
私じゃない!!……でも、信じるか信じないかなんて…もうどうでも良い…」
信頼するから信頼して…なんて意味が無い。
信頼してたから、信頼されてると思ってた。
だけど、全然違ってたんだね…。
「ただ、トロフィーが壊されて…私だって平気でいられるハズないじゃないですか…」
どうしてそれを理解出来ないのだろう…。
立海が優勝して、涙が出るほど喜んだ。
だから…
「みんなにだけは…責められたくなかった…」
私の必死の訴えは…みんなに届いているんだろうか…?
それぞれ何を考えているかは分からないけど、辺りは沈黙で囲まれる。
「もう、この部に未練はないよ…」
このことだけは、どうしても…――
私は、部室の扉を開いた。
「…!」
『
待ちんしゃい、彩愛』
「雅治先輩…蓮二先輩…」
盗み聞きしてたのか…扉の向こうには二人が立っていた。
相変わらず、趣味の悪いことを…。
『ホレ、真田』
『…!?』
雅治先輩は、真田先輩に何かを渡す。
何か紙を渡したらしい。
よーく見てみると、その紙には“退部届”と書いてあった。
「えっ…!?」
『弦一郎、俺のも受け取ってくれ』
『何…?』
『もし奴らが諸悪の根源に気付けなかったら、どうするんじゃ?』
『その時は、立海テニス部を去ろう』
ま、まさか…。
『じゃ、ヨロシクナリ』
そういうこと、だよね…――?