45 -愛しい気持ち-
幼馴染みだった君を愛しく思い始めたのは
いつからだったかな…――
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(side:幸村)
『私、テニス部には戻れない』
テニス部には戻れない…。
『も、もしかして…俺達のせい、かよ?』
『違う』
気持ちを引きずってる訳でもない。
『じゃあなんでだよ…?』
『もうダメなの。……ごめんなさい…ッ…』
俺達には、言えない理由?
昔から彩愛はそうだ。
誰にも迷惑掛けまいと、何でも秘密にしたがる。
「蓮二、ちょっと良い?」
でも、これだけは覚えさせないといけないな。
君が秘密にしていることで、結局はみんなに迷惑を掛けてしまうと言うことを。
「彩愛は新テニス部に入らないらしい」
『…何故だ?』
「分からない。とにかく、“もうダメ”みたいだ」
『もうダメ?と言うことは、何かが手遅れなのか?』
何かが手遅れ?
そんな漠然としたことでは…。
『幸村くん。ちょっとお話があるの』
このタイミングで牧原が俺にお話、か…。
「何だい?俺としては、君に話すことはもうないけど」
『まぁまぁ、そう言わないで。…良いお知らせだから』
「君から良いお知らせなんて、不吉なことだな」
『フフッ、ホントに良いお知らせ』
この女の笑みが、少し引っかかった。
十中八九、彩愛のあの態度と関係があるな…。
『別れてあげるわ。…どう?良いお知らせでしょ?』
「…何を企んでいるんだい?」
『何も企んでないわ。もう…貴方を落とすことは不可能だと思ったの』
何も企んでない…?
そんなこと、信用出来るわけがないだろ。
「分かった。今までありがとう、それじゃ」
『はーい、サヨウナラ』
絶対に、この女だ。
彩愛に何を言ったかは分からないけど、思い通りにさせるわけにはいかない。
『…精市、何の話だったんだ?』
「俺と…別れるってさ。蓮二、牧原が原因であることは間違いないと考えて良い」
『そのようだな』
「とりあえず俺は、この入部届けを校長に持って行くよ」
『ああ、俺の方も情報収集をしておく』
「…宜しく」
レギュラー陣に、白井。
今のところ、部員はこれだけに留めておく。
彩愛のことをよく思っていない部員を入れても、信頼なんて生まれないからな。
『お願いです!親には内緒にしておいてください!』
――ん…?この声…。
『いや、そう言われてもね。何があったかは分からないけど、学校を辞めるには親の同意も必要だから』
学校を、辞める…?
一体何の話をしているんだ…?
『なら、休学を認めてくださ』
「失礼します」
『!せ…精ちゃ…』
『おぉ、幸村くん。部員は集まったかい?』
束になった入部届を、校長室の机に置いた。
学校を辞める?休学を認めて欲しい?
だから、何で君はそんな重要なことを一人で…――
「とりあえずは、俺の信用出来る部員を誘いました。このメンバーで、また優勝してみせますよ」
『頼もしい限りだね。君達には期待してるよ』
「ありがとうございます。……ところで」
目線を左下に移動した。
彩愛はすぐに俺から目を反らす。
変わったな、君は…。
変わらないようで、変わった。
「彩愛、退学の理由を親に話せないなんて…何をしようとしてるんだい?」
『おぉ、そうか。君達は確かご近所さんだったね。幸村くんからも言ってやって欲しいよ、まったく』
『…何でもない。とにかく、また改めて来ます…』
昔は何でも俺に相談してくれる、可愛い女の子だったのにな。
今じゃ重要なことは何でも隠す。
いつからだっけ…彩愛…。
俺達が、お互いに意識し始めたのは――
「彩愛…!」
『…ッ、離して…!!』
俺達は、いつの間にか…異性として惹かれてた。
お互いを守る癖が付き始めてたんだ。
『もう私のことなんか気にしないで…
忘れてよ!!』
彩愛の腕からは力が抜け、その場に座り込んだ。
とてもじゃないけど喋れそうにないので、彩愛が泣き止むまでとりあえず様子を見る。
『…お願、い…精ちゃん……』
両手で涙を拭いながら、彩愛は声を振り絞る。
『私の…ことは……ほっといて……忘れて……』
何の為に彩愛を忘れる必要があるのか…。
何を考えているのか分からない。
「牧原に何か言われたのか?」
『……やめて……違う…から……』
「彩愛、俺達がそんなに信用出来ない?」
『…関係、ないこと…だから……』
関係ないこと、か。
彩愛のことなのに、関係ないわけないだろ?
「俺が嫌い?」
『……嫌いなわけ、ない…でも…』
「でも?」
『好き……精ちゃんが…好き、だから……』
嫌いなわけがない、でも、俺が…好きだから…?
その暗号をどう解けば良いのか…。
「…彩愛。俺も…好きだよ」
『え…?』
「ずっと、大好きだった…――」