46 -特別な人-
失ってからしか気付けないのは
当たり前のように、
君が側に居てくれたから――
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『…精、ちゃん……』
最初は…近所の子。
次は友達。
その次は幼馴染み。
そして今…
「彩愛は、特別な人だよ」
『……っく…どうして……今更……』
今更か…確かに、今更こんなことを言える資格なんてない。
でも、俺じゃなきゃ…彩愛を幸せに出来ない。
彩愛を幸せに出来るのは、俺だけだ。
『牧原、さん…は…』
「ごめん、彩愛にはたくさん嘘を吐いた。彼女は…」
『……やっぱり、苦しんでたんだね……精、ちゃん……』
「え…?」
彩愛は俺の腕を振り払い、走り去った。
やっぱり苦しんでた?一体、何の話だ?
「蓮二」
『精市、話がある』
教室に戻ると、蓮二が待ち構えていた。
確か蓮二は情報収集するって言ってたな…。
「悪い話?それとも、良い話?」
『残念ながら、前者だ』
やっぱり…。
牧原から良いお知らせを聞いた後は、悪いことしか起きないな…。
『彩愛の叔父のことを知っているな?』
「うん、知ってるよ」
『なら、彩愛のいとこのことも知っているか?』
「…不思議なことだよな。知ったのは何年か前だけど」
『俺も驚かされた。彩愛のいとこが、跡部のことだったとは…』
隠してたからな、彩愛は。
俺が蓮二に“叔父が大富豪”なんて告げ口をしたことも、確実に嫌がるだろう。
「凄いな、蓮二は。そんなとこまで辿り着いたんだ」
『以前、彩愛と跡部が話しているのを見たことがあってな。偶然かと思っていたが、精市の話を聞いて確信した。そして、跡部本人にも確認した』
「跡部と連絡をとったのか?」
『…それが話なのだが…』
蓮二は携帯を取り出し、ディスプレイを俺の方に向けた。
なんだ…これは…掲示板?
『あくまで掲示板に書かれている噂だ。そこに信憑性は無いが…』
「“牧原は、人を売ってお金を手にしている”…?」
『牧原財閥、決して小さくは無い名前だ。そんな牧原財閥が、今掲示板でこんな噂をされている』
「…人を売るって…まさか…」
『牧原の父は、どうやら裏で金貸しをしているみたいだ。主に若い女性をターゲットに』
若い女性…ってことは…。
『お前の想像通りだ、精市。莫大な利子に返金出来なくなった女性は…』
「言いなりになるしかない、ってことか」
『そう言うことだ。煮るなり焼くなり好きにしてください状態だ』
「それと彩愛に何が…」
『お願いです!親には内緒にしておいてください!』
「!!」
まさか…あれは……
でも、なんで彩愛がそんなこと…。
『まだ確証はない。跡部に確認したところ、牧原の黒い噂は跡部も聞いたことがあると言っていた。だが、それと彩愛を繋げるものが』
「ある…それだ、蓮二…」
『…思い当たる節が、あるのか…』
「信じたくないけど、どうやら…間違いないよ」
『もう私のことなんか気にしないで…忘れてよ!!』
『私の…ことは……ほっといて……忘れて……』
『……っく…どうして……今更……』
何故…全てが、繋がってしまうのだろう…。
この話を聞いて、彩愛の言葉が…理解出来てしまうのが……悔しい…。
『何故だ…何故、彩愛は…』
『……やっぱり、苦しんでたんだね……精、ちゃん……』
「牧原に何か言いくるめられたんだろう」
牧原のことが話に出て、やっぱり苦しんでた…?
俺が、苦しんでたから…
「俺が嫌い?」
『……嫌いなわけ、ない…でも…』
「でも?」
『好き……精ちゃんが…好き、だから……』
「………」
俺が、嫌いなわけがない。
でも、俺が好き、だから…。
『…精市。俺は彩愛に嫌われる覚悟だ』
「…それしか方法が無いのなら、仕方ないな」
跡部の力を借りるしかない。
『きっと彩愛はもう向かった筈だ』
「気付くのが遅すぎたな。もっと早くに気付いていれば…」
『精市、後悔していても意味がない。今ならまだ間に合う』
「…そうだな。牧原のことはみんなに任せて、俺達は氷帝に」
説明している暇はない、俺達はすぐに駅に向かった。
その間に、蓮二はみんなにメールを送る。
『好き……精ちゃんが…好き、だから……』
俺が嫌いだから、忘れて欲しいわけじゃない…?
俺が…好きだから。
俺が、苦しんでたから…
「…!!」
俺の、ために…?
俺を助けるために、牧原の言うことを聞いた…――?