05 -すれ違う心-
弱ってる時に優しくしないで。
頼ってしまう、から――
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(side:彩愛)
今日は何事も無く一日が過ぎて、
勿論部活もいつも通りに終わって行くだろうと思ってた。
でもまさか…
『彩愛、あの話聞いたかよ!?』
丸井先輩のこの言葉が、私を悲しみの淵に落とす事になるなんて…
この時の私は知らなかった。
「あの話?何の話ですか?」
『まさか…お前まだ知らねえのか?』
「だから、何なんですか?」
この時、丸井先輩に聞かなければ良かったんだ。
そうすれば…
傷付く事なんて無かったのに。
『幸村くんと牧原亮子が付き合い始めたって!』
「――…えっ…」
言葉が出ない程の驚き、と…悲しみ。
突っ走る感情に頭が追いつかない。
でも、不思議だ。
体はちゃんと付いてきてる…。
溢れ出る涙が…止まらない。
『お、おい…彩愛』
「…ごめっ、なさ…い…」
『…悪りぃ。言うべきじゃ無かったな』
丸井先輩は私の頭を自分の胸に押し付ける。
そんな事されると…
余計涙が止まらない――。
『
丸井先輩、聞いて下さいよ!俺彼女が……って、アレ?何やってるんですか?』
『赤也…。
空気読んでさっさと消えろ』
『っな、酷いッスよ!』
『酷いのはお前だぜ。まさか"彼女が出来ました"とか
言う気じゃねえだろうな?』
『へへっ、当たりッス!』
『
一刻も早く消えろ』
私は本当に精ちゃんの事が好きなんだ。
だって、精ちゃんの事になるとこんなにも脆い。
こんなにも…苦しいの。
このままじゃ、崩れ落ちて行きそう…。
「丸井、先輩…。もう…大丈夫」
『彩愛…』
『え?彩愛?』
「でも…ごめんなさい。今日は、精ちゃんの顔…見れそうにないです…」
『なら、今日は休め。俺が幸村くんと真田に伝えとくから』
「…ごめんなさい…」
『おう、気を付けて帰れよ』
私は深々と頭を下げて、その場を去る。
歩く振動だけで零れ落ちてしまいそうなくらい、目に涙を溜めて。
『
彩愛…!』
いきなり名前を叫ばれたと思ったら、腕を掴まれた。
誰か、なんて…顔を見なくても声で分かる。
精ちゃんでないことは確か。
だとしたら…
「赤也…」
赤也しか居ないよね。
コイツが泣いてる私を放置出来ない事はよく知ってる。
でもね、お願い。
今だけは…放っておいて。
『彩愛、こっち向けよ』
「…いや…」
今、アンタの顔を見たら…
涙腺がおかしくなりそうだもん。
『俺、無神経で…悪かった。でもまさか幸村部長が』
「……っ…」
『…あ』
誰か、この人の電源を切って下さい。
私にどんな恨みがあるって言うの。
『あーもう、ほんっと悪りー!』
――ガバッ。
後ろから赤也に抱き締められた。
その拍子に、私の目からは涙が溢れる。
我慢してたのに…最悪。
首に巻き付けられた赤也の腕に、涙が落ちた。
『俺、お前が泣いてるとなんかツレェんだよ』
「赤也…」
やめて…そんな事言わないで。
弱ってる私に、優しい言葉をかけないで。
『俺がずっと側に居てやるから…お前はずっと笑ってろよ』
「何…言って…。アンタには…彼女が…」
『
お前が望むなら、別れる』
「――ッ…」
駄目なんだよ。
私は赤也を傷付ける事しか出来ないんだよ。
精ちゃんを忘れる事なんて…出来ないんだよ。
「お願い、赤也…やめて…」
『彩愛…』
そんな事言われたら、優しさに甘えてしまう。
赤也を利用したく無いの。
大切な、友達…だから。
『やめんしゃい、赤也』
――パシィッ!
『
痛っ、て…!』
『セクハラはいかんぜよ』
赤也はそっと私から離れて、頭を押さえる。
この声は、雅治先輩…?
『何言ってんッスか、仁王先輩!俺は…』
『お前には思いやりと言う心が無いんか。さ、行くぜよ?』
『ちょ、ちょっと…引っ張らないで下さい!』
『彩愛、悪かったのう。悪戯小僧は連れてくけぇ』
「は、はい…」
私が涙を拭いながらそう答えると、雅治先輩は優しく微笑んだ。
そしてこの時…
赤也の彼女が一部始終を見ていたということを、
私達が気付く筈も無かった。