54 -悲しみの連鎖-
辛く、切ない気持ちが
連鎖していく―――
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「………」
重たい足を、一歩、二歩…。
必死で歩いてたけど、重たすぎてついに止まってしまう。
『…好きだ』
まさか、このタイミングで蓮二先輩に告白されるとは…。
頭の中がごちゃごちゃで、何から考えるべきなのか。
冷静な判断を失ってしまってる…。
『俺は、お前が幸せなら、精市に任せていても良いと思っていた』
蓮二先輩…。
そんなに私のことを思ってくれてたんだ…。
『だが、お前はいつも精市のことで苦しんでいる。そんなお前を、俺は見ていたくない』
私は、精ちゃんを諦めるべきなのかな…。
恋ってもっと、ウキウキして、ワクワクして…ドキドキして。
そんな楽しいものだと思ってた。
胸が締め付けられる…。
痛いよ――
『おい、彩愛』
「!!」
校門のところで立ち止まっている私の背中を叩く、一人の男。
こんな荒っぽい奴、私が知る中で一人しかいない…。
「赤也…」
目に涙を溜めて振り向くと、赤也の顔があった。
お気楽なコイツの顔を見たら、何だか涙が止まらなかった。
『お…おいおい、どうしたんだよ?また部長か!?』
「赤也…赤也ぁぁあああ…」
思わず赤也により掛かってしまう。
赤也だけは、唯一このテニス部で私に近い奴だと思った。
仮にも立海のエースなのに。
――ギュッ…
でも、力強く私を抱き締める赤也に
やってしまった…と。
後悔せざるを得なかった。
「ご…ごめん……つい…」
と、赤也から離れようとするけど、さっき以上に強い力で赤也は私を抱き締めた。
「ちょっ…赤也…」
『なんでだよ…』
「えっ?」
『なんでお前、さっさと部長とくっつかねーんだよ…チクショー…!』
ズキッと、音を立てて私の胸に傷が付くのが分かった。
お気楽だと思ってたけど、赤也も赤也で…
『俺はお前の事がすっ』
「……す?」
『す…す、好きなんだよ…ッ!』
あの時から、ずっと苦しんでたんだ…――
『俺がずっと側に居てやるから…お前はずっと笑ってろよ』
『お前が望むなら、別れる』
『お前が悲しんでるのに俺だけ浮かれてらんねぇだろ』
『関係ねぇよ!それでも俺は彩愛の事が好きだ!』
「赤、也……ごめん…っ…」
私と同じ…いや、それ以上に苦しんでた赤也の心情を思うと、胸がまた締め付けられて…苦しい。
私が頼りないから、みんなを頼ってしまうから…
蓮二先輩にも赤也にも迷惑かけちゃうんだ…。
「ごめ、ん…ごめんね……っ」
『謝んなよ…お前のせいじゃねぇよ…』
「だって…」
『分かってたんだよ…お前が部長のこと好きだって。それでも、俺はお前を好きになっちまった…苦しみに自分から飛び込んだようなもんだろ…』
赤也も、きっと色々堪えてる。
ぶつけるところが見つからないまま…どうしようも出来ないままに…。
『どうせ一時的な気持ちだって思ってたんだよ。俺、熱くなりやすいから』
「うん…」
『でも、なかなかお前への気持ちが冷めねーんだよ…』
「……うん…」
私と同じ。
一度熱した恋って、何でこんなに冷めるのが遅いんだろうね…?
それどころか、どんどん想いは強くなってく…。
「多分今のお前に言うことじゃねーだろうけど…やっぱり俺、お前のことが好きだ」
私を抱き締める赤也の手に、力が入る。
涙で滲んでいた目を擦ると、私は急いで赤也から離れた。
「
赤也…!」
『あぁ?何だ…よ…』
校門の柱の影に隠れて、頭が見えた。
私達は嫌な予感を感じ取った。
「梨華…ちゃん…?」
名前を呼ぶと、ビクッとその頭は動いた。
やっぱり…なんでこんなタイミングで…。
『あ…ごめんね。聞くつもりはなかったの』
私達の顔を見て笑う梨華ちゃん。
だけど、明らかに笑顔が引きつっている。
『あの…赤也くんに…ノート貸す約束してたから…』
『あ、ああ…サンキュー』
ノートを受け取る赤也。
梨華ちゃんの態度を見れば、今の私達の会話を聞いていたことくらい簡単に読み取れる。
「『『…………』』」
私も赤也も梨華ちゃんも…焦りすぎてどう言葉を発すれば良いのか分からない状態だ。
『そ、それだけだから…邪魔してごめんね。じゃあ…』
この空気に耐えられなくなった梨華ちゃんが沈黙を破る。
「あ、梨華ちゃん…
待って!!!」
用事もないのに、いつの間にか梨華ちゃんを呼び止めていた。
もちろん言葉なんて考えてない。
「いや、えっと…その…さっきのは……別に……」
また赤也を傷付けるわけにもいかないから、必死で言葉を選ぶ。
そうなると言い訳なんて出てくるわけもなく…。
『いいよ、彩愛ちゃん』
「あ…ご、ごめん…」
結局梨華ちゃんに気を遣わせてしまった。
『私もね、赤也くんが彩愛ちゃんのことを好きだって…分かってる』
「梨華ちゃん…」
『でもね、やっぱり赤也くんが好きで…好きで…』
梨華ちゃんの大きな瞳から、涙がこぼれ落ちる。
私と赤也は、梨華ちゃんから目を離せずにいた。
『大好きなの…諦められない……。こんなの、赤也くんに迷惑かけちゃうだけなのに……』
赤也の顔をチラッと見ると、悲しそうな…悔しそうな顔をしていた。
もう…なんなの?
なんでこんな…悲しい思いをしなきゃいけないの…?
『ごめん…早く諦めるように……努力するから……。
ごめん…!』
「
梨華ちゃん…!」
梨華ちゃんは涙を拭いながら走り去った。
その後、
私と赤也は終始無言で帰り道を歩いた。