06 -突き付けられた現実-




人生って不思議だよね?


落ちている時は、とことん落ちていく…――











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『大海さん』



眠そうに欠伸をしていた私に、一人の女生徒が話しかけてきた。

私は、この子を知ってる。

この子は…赤也の、彼女…。



『私の事、知ってる?』



誰も通りそうにない廊下に連れて来られ、そう質問された。

知らない筈がない。

白井梨華さん…学年一の美少女と言われるくらいに、容姿端麗な彼女。

そんな人が、私に何の用なんだろう?



「白井さん、でしょ?赤也の彼女の」

『何だ、そこまで知ってるんじゃない』

「え…?」



彼女はいきなり壁に手を押しつける。

私の顔の横に伸びるスラッとした腕は、今にも怒り狂い出しそうな顔とは対照的だった。



『赤也くんは私の彼氏なの!』



じわっと目に涙を浮かべて、大声で言う彼女。

最初は彼女が何を訴えたいのか分からなかったけど、ふとある疑惑が浮かんだ。

もしかしたら、彼女は昨日の場面を見ていたんじゃないか、と。

確信に近い疑惑。

そうだとしたら、悪いのは完全に私。

私の弱さが、みんなを渦中に巻き込んでいるんだ。



『例え赤也くんが大海さんの事を好きでも、赤也くんは私の彼氏なんだから!近付かないでよ!』

「ちょ、落ち着いて。私は赤也を友達としか思ってないから」

だったら尚更よ!気のある振りをして赤也くんをその気にさせて…アナタは卑怯よ!』



返す言葉が見つからなかった。

私が赤也とこの人の幸せを邪魔してる、そう気付いたから。

…そうだよね。

いつまでも、赤也に頼ってばっかじゃ駄目だよね。



『分かったら、もう赤也くんとは』

俺が何だって?

『あっ、赤也くん…!』

「赤也…」



階段から下りてくる赤也。

目が半分寝ている事から、この階段で寝ていたと思われる。

確かに此処は人通りも少ないし、絶好のサボり場所と言えばそうなのかもしれない。



『俺が勝手にコイツを想ってるだけだし、コイツは何も悪くねぇよ。言うなら俺に言えば良いじゃん』

『…でも…!』

『コイツを巻き込むな』

『……ッ…!』



白井さんは悲しそうな顔をして、走り去った。



「自分の彼女なんでしょ?もっと大事にしなよ」

『お前が悲しんでるのに俺だけ浮かれてらんねぇだろ』

「…大きなお世話だよ」

『あぁ?』

「私のことはどうでも良いから!アンタは自分のことだけ考えてれば良いの!」

『んなこと…出来るわけねぇだろ。お前をほっとけるかよ!』



どうして…?

何でそんなに優しくするの?

赤也には彼女が居るのに、こんなの駄目だよ…。



「私…私は、赤也を友達としか思ってない!」

『関係ねぇよ!それでも俺は彩愛の事が好きだ!』

「…ッ、私の好きな人は赤也じゃない、精ちゃんなの!



ごめんね、赤也。

優しくしてくれてるのにごめん。

アンタは、自分の幸せだけを祈って。



「じゃあ…授業、始まるから…」



私は恩を仇で返してる。

でも…私には赤也の願いを叶えることは出来ない。


それがきっと、正しい道なんだ――。




『大海、赤也はどうした?』

「えっ…?し、知らないです」

『何か聞いていないのか?』

「いえ、何も…」

『そうか、ならば良い』



真田先輩がそう言った直後、私の目は衝撃的な物を捉えてしまった。

牧原先輩と、精ちゃん…。

何で二人で部活に来るの…?

何で私の前に現れるの…?



『みんな、聞いてくれ』



精ちゃんが手を叩いて、みんなが注目する。

嫌な予感が…した。



『今日からマネージャーになってもらう事になった牧原さんだ』

『宜しくお願いしまーす』



ちょっと待って…。

マネージャーは私でしょ?

私は…どうなるの…?



「せ、精ちゃ…」

部長って言って貰えないか、彩愛



精ちゃんのその一言に、私は勿論、全体が凍り付いた。

呆然と立ちつくす私に精ちゃんが言う。



『君はもう来なくて良い。彼女に全て任せる事にするよ』

「…え…?」



悲しみが込み上げて泣きそうになった。

先に此処にいたのは、私なのに。

どうして後から来た人に奪われなければならないの…?



「…なん、で…?」



そう言うのが精一杯だった。

これ以上言葉を発したら、私の想いが全て…涙となって溢れ出てしまうから。



『理由は簡単だよ。彼女の方が、やる気を感じられたんだ』

「……ッ…」



どうしてそんな事を言うの?

やる気なら、私だってある。

選手を思う気持ちなら、私の方があるのに…。

精ちゃんは、私の全てを…分かってくれてるんじゃなかったの…?



『随分と酷い扱いやの』



痺れを切らした雅治先輩が口を開いた。



『今まで三年間雑用をやらして、要らなくなったらポイか。都合が良すぎるんじゃなか?』

『酷い言い様だな、仁王。彩愛は自ら進んで雑用をやってくれていたんだ。俺はそれから解放するだけだよ』

『それを彩愛が望んでるならそうすればよか。じゃが、彩愛がそれを拒むなら…おまんらに彩愛を辞めさせる権利はなかよ』

『確かに…そうだね。彩愛の意見も聞いておいた方が良い』

『どうなんじゃ、彩愛?』



精ちゃんと雅治先輩が私をじっと見る。

私は涙を飲み込んだ。



「私…やめ」

今すぐ結論を出すことは無いだろう



答えようと思った決意が、蓮二先輩によって遮られる。



『彩愛も些か混乱している様だ。焦って答えを要求しなくても良いだろう』

『そうじゃな』



混乱…してるよ。

今も、心が折れてしまいそうなの。

このまま此処に居たら、私…悲しみでおかしくなりそう。

毎日牧原先輩と精ちゃんが一緒に居るのを、嫌でも見ないといけない。

そんな思いをするならいっそ、辞めた方が楽なんじゃないかって――。





――パコォオオン!


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