07 -見透かされた心-
この痛みが…何処からくるかも、
忘れてしまいそうになるの――
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「痛っ…た!!」
腕に痛みが走った。
どうやらボールが当たったようで、私が左腕を押さえていると
『すまんの、彩愛。さ、保健室行くぜよ』
雅治先輩に無理矢理腕を引っ張られ、保健室に連行された。
「ちょ、雅治先輩…!」
『良いから、入りんしゃい』
雅治先輩はガラッとドアを開けて私を押し込む。
オイオイ、怪我人に対して随分手荒だなぁ。
『あら、どうしたの?』
『センセイ、俺達の事は気にしなさんな』
『…え?』
『取り敢えず、彩愛は此処に座るんじゃ』
目の前にあるパイプ椅子を指差す、雅治先輩。
自己中というかマイペースというか…とにかく掴めない人。
とりあえず、言われた通りに座った。
「一体、何なんですか?」
『彩愛』
「ん?」
――パチーンッ!
「
痛っっっっ…!」
さっきボールが当たった所を思いっきり叩かれ、涙目になった。
なにコレ、虐め?
『痛いじゃろ?』
「当たり前じゃないですか!」
『なら泣きんしゃい』
「…はい?」
雅治先輩って、実はただのサド?
既に傷付いてる私を痛め付けてボロボロにしてく気なんだ。
酷い…酷いよ、雅治先輩…。
「うっ…」
私の目から大粒の涙が次々と頬を伝って落下していく。
こうなると止まらなくて、今まで溜めていた思いも全て私の体外に出ていくように溢れ出す。
悲しいんじゃない、悔しいんじゃない。
雅治先輩が傷を叩いたから、言葉を失うくらい痛かったから…だから泣いてるの。
今はどうか…
そうゆう事にしておいて下さい。
『よしよし、辛かったのぅ。思う存分に泣いてもよか』
「…違っ、い、痛いん…です」
『ん?』
「雅治先輩、が…叩いたから…っ」
『…ククッ、それは悪い事をしたのぅ。お詫びにこの事は内緒にしとくけぇ、許してくんしゃい』
狡い…この人は狡い。
何もかも見透かして、何もかも理解して、私を苦しみから解放してくれる。
それも、私に気を遣わせないように。
『何があっても、俺はお前の味方しちゃるきに』
そう言って雅治先輩は、撫でていた私の頭を今度はポンッと叩いて笑う。
何で私の為にここまで…?
その理由が知りたかったけど…聞くのはやめた。
聞いてしまったら、雅治先輩が私から離れて行きそうで怖かったから…。
「雅治先輩…頭叩くの癖ですか?」
『失礼な。俺はそんなに暴力的な男じゃなかよ』
「
人の腕にボール当てといてよくそんな事が言えますよね」
『おまんも根に持つ奴やのぅ』
雅治先輩は苦笑する。
その表情が困ってる時の赤也とちょっと似てた。
でも、雅治先輩は赤也みたいに失言はしないけど。
『ま、俺がこうやって頭を撫でたり叩いたりするのは、彩愛だけじゃけぇ、安心しんしゃい』
「私だけ…?ターゲットが私だけって…
逆に危険じゃないですか」
と、私が笑うと、雅治先輩も釣られて優しく笑った。
分かってるよ、雅治先輩。
雅治先輩は、私の事を特別な存在だと思ってくれてるんでしょ?
ちょっと照れくさかったけど、本当は物凄く嬉しいよ。
『――…さ、彩愛の涙も止まった事やし、行くかのぅ』
「ご迷惑おかけしました」
『ほー。自覚はあるんやのう』
「…前言撤回。とゆうか、元はと言えば雅治先輩が私にボールぶつけたからこうなったんじゃないですか」
『ノーコンじゃき。悪かったのぅ』
とか言ってるけど、本当はめちゃくちゃピンポイントに当てたんですよね。
何気に急所外してるし。
でも痛かったのは痛かったんだから!
まぁ、逆にその痛みで、一瞬でも胸の痛みから解放されたから有り難いんだけど。
『彩愛』
いきなり雅治先輩が立ち止まって、後ろを振り向く。
『もし悲しくなったら、尻尾を探せ』
「…はい…?え、えーっと…私人間だからそんな物は存在しませんけど」
『知っとる』
とだけ言って雅治先輩はもう一度前を向き歩き出す。
何なんだこの人…変な人。
『尻尾を探すのに夢中になっちょれば、悲しみなんか忘れるけぇ』
「…は、はあ…」
意味が分からない、正直そう思ったけど、雅治先輩があまりにも真面目に話すもんで、私はただただ黙って聞くだけだった。
もしかして、動物が自分の尻尾を追いかけるアレのこと?
仮にも人間の脳みそを授かってるからそんな馬鹿なことはしないけど…。
まさか私、
馬鹿にされてる?
『今日は空、曇っとるのぅ』
「えっ?あっ、そうですね…」
何だか、今の私の心を表してるよう…なんて…。
駄目駄目っ…!
せっかく雅治先輩が励ましてくれたのに。
マイナス思考になっちゃ駄目。
って、私まだ雅治先輩にお礼言ってないんじゃ…。
「あのっ、雅治先輩」
『何じゃ?』
「ありがとうございました」
私は頭を下げてお礼を言う。
すると雅治先輩はまた立ち止まり、こちらを振り向いた。
『彩愛…』
「え?」
顔を上げると、予想外に驚いた雅治先輩の顔が見えた。
少々困惑していると、雅治先輩が一言
『
お前さん、マゾか』
と言って馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
『ボールぶつけて喜ばれるなんて、よっぽどのMやのぅ。よし、Ms.ドMの称号を与えよう』
「………」
その言葉に一瞬、雅治先輩と言う人が分からなくなってしまいました。
それどころか、頭にピキッと割れ目が入ったような感覚に襲われました。
まぁ、これがこの人のやり方なんだろうな…。
と、前を向いて微笑む雅治先輩の表情に、私は気付かないのであった。