09 -連鎖する想い-




"好き"という感情が

こんなに厄介だとは


思いもしなかったんだ――











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そのまま赤也の方をジッと見ていると、赤也と目が合った。



『…何だよ』



赤也が照れ臭そうに口を尖らせて言った。

こんなことを本人に言ったらきっと怒るだろうけど、その表情がやけに可愛く思えた。



「あっち向いててよ。早く着替えたいんだから」

『!あっ、わっ…悪りぃ!』



私がジャージをピラピラさせると、慌てて後ろを向く赤也。

意外と純粋なんだな〜と思ったら、可笑しくて仕方なかった。







「――いいよ、こっち向いて」



私がそう言うと、赤也がゆっくり振り向く。

と同時に、あからさまに赤面するのが分かった。



「…何?」

『男の服を女が着るのって、やべー…。エロイ…』

何変なこと考えてんの



と、私は半ば呆れながら溜息をつく。

でも…確かに小柄な赤也でもやっぱ私よりは大きいんだなぁと実感。



「まぁ…取り敢えず、ありがと。明日洗って返すから」

『おう』



って、赤也が水を掛けなければジャージを借りる事も無かったんだけどさ。


…何か今日そんな出来事ばっかだなぁ。

雅治先輩だって、わざとボール当ててきたし。

まぁ、それがこの人達なりの優しさなんだろうから、多少やり方が荒いのは目を瞑るとしようか。



『…にしても、アイツありえねぇ』

「アイツ?…あぁ、牧原先輩?」

『人の気持ち何だと思ってんだよ』

「…………」



ちょっと待って…。

今思えば私…赤也と喧嘩してなかったっけ…?

何、この普通さは。

絶対怒ってるか落ち込んでるか、どっちかだろうと思ってたのに…かなりいつも通りなんですけど。





「私は…赤也を友達としか、思ってないんだから…!」

『関係ねぇよ!それでも俺は彩愛の事が好きだ!』

「…ッ、私の好きな人は赤也じゃない、精ちゃんなの!」





って、私ハッキリと…言っちゃいましたよね?

どう思ってんだろ、赤也は…。



『…彩愛?何だよ、急に黙り込んで』

「赤也…えーっと…その…」

『……もしかして、昼のこと気にしてんのか?』

「えっ!?…あっ、いや…まぁ…」



こうゆう時だけやけに鋭いんだから。

いや、私が分かりやすいだけか…。



『言ったじゃん。俺、お前が俺の事を好きじゃなくても関係ねぇって』

「でも…私が好きなのは精ちゃんであって…」

『…お前なぁ、俺だって結構傷付いてんだから、何回も言うんじゃねぇよ』

「ゴメン…」



私がしゅんとすると、赤也は溜息をひとつ。

もしかして…"アキレテル"のサイン?



『まー…それを承知で好きになったのは俺だけどな。お前が誰を好きでも、俺はお前のことが好きって事には変わりはねぇし』

「…赤也クン、それ彼女持ちの男が言う台詞じゃないですヨ

『アイツとは…別れる』

「えっ!?な、なんで!??」

『こんな中途半端な気持ちで付き合ってても、俺はアイツを傷付けるだけだし』



…確かに、それはそうだけど…。

でも、白井さんは赤也の事が本当に好きで…。



『俺はお前をほっとけねぇし、ほっとくつもりもねぇから』

「でっ、でもさ赤也!私は精ちゃんを好きなんだよ!?」

『…それさっき聞いた』

「だから、さ!私の為に別れるなんて、やめようよ!」

『別にお前の為じゃねぇよ。自分自身の為に別れるっつってんだよ』

「だけど私は赤也のことを好きにならないかもしれないよ!?」



って、こんなことを言いたいんじゃないのに…!



『何が言いたいわけ?』

「えっと、だから…もし私がこの先赤也のことを好きにならないとしたら、赤也の人生無駄になっちゃうよ、ってこと!」

『何だよ、それ。お前の話はお前が俺を好きにならない事が前提かよ』

「そっ、そーゆう事じゃなくて…!」

『ならどうゆう事だってんだよ』



いつもより低いトーンで、赤也は私を睨む。

まずい…完璧に怒ってる。

これじゃあ伝えたいことも伝えられないじゃん…。



「…白井さんの…」

『あ?』

「白井さんの気持ちはどうなるの…?」



本当に本当に好きなのに、振り向いて貰えないって、辛いんだよ?

付き合えたと思ったら、急に別れようなんて…ぬか喜びも良いとこじゃん。



「赤也…白井さんの気持ち考えたことある?白井さんは赤也の事しか見えないんだよ?赤也が本当に大好きで……それなのに赤也は今日みたいに突き放すの!?」

『………』



…って、ちょっと出しゃばり過ぎたかな?

でもホントのことだもん、赤也にはちゃんと分かって欲しい!



『じゃあさ…俺の気持ちはどうなんだよ?』

「…え」

『今お前が言ったこと、お前にだって当てはまるんだぜ?』

「わ、私…?」

『お前も俺の気持ち、考えたことあるわけ?どんなにお前を想ってても、お前は部長しか見えてねぇじゃねぇか』

「あ……」



そこで初めて私は気付かされた。

白井さんが赤也を好きな想いと、赤也が私を好きな想いは…同じだってこと。


そうだ、私も今…赤也を突き放してるんだ…。



「で…でも…私は誰とも付き合ってないもん」

『だから俺も別れるって言ってんだろ。それをお前が止める権利なんてねぇんだよ』

「そんな自分勝手な」

仕方ねぇだろ!!…好きなんだよ、お前が。俺だってどうすれば良いか、わかんねぇんだよ…』



そう言う赤也が物凄く苦しそうだったから…私は何も言えなかった。

恋愛って何?

苦しい思いするだけじゃない…。

それなら最初から…こんな感情なんていらない――。




『お前は…部長を、諦めるのかよ?』

「え…、私…私は…諦められないよ…」

『なら俺も諦めねぇ』

「え?ちょ、ちょっと…!」

『お前が何て言おうと、俺は俺が決めた道を行く』



と、宣戦布告のように私の方を指差して、赤也は部室から出ていった。

どうしてそうなるんだろう…と、困り果てた私だった。

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