02 母からの手紙


私の中で叫び続ける

この胸騒ぎの原因が明かされるのは、

翌朝になってからだった。








(Act.02 母からの手紙)









ある一通の手紙がポストの中に入っていた。



"玉城楓様"



差出人の住所も名前も書いてなくて、ただ私の住所と名前だけが書いてある封筒。

父親も母親も同居人も居ないただの殺風景な部屋の中で、私は手紙の封を開ける。

中には一枚の紙が折り曲げて入っていた。



「……!?」



その手紙の内容は、母と名乗る女からだった。

母なんて知らない。

気付けばこの家で一人だった私に、母なんていない。

ずっとそう信じてきた。


ただの、悪戯――



そう思いたかった。

けれど次の一文でその思いは掻き消された。



"家は売り払う事にしたから"



この家を売る事が出来るのは、この家の持ち主だけ。

悪戯でこんな事を言っても何の利点もない。

と言う事は、やっぱりお母さん…なの?



"その代わり、貴方には新しい家を用意するわ"



その文章に、何だか嫌な予感を感じた。

それでも私は続きを読む。



"沖縄に移動して、そこの学校に通って欲しいの"



沖縄…そんな遠い所に…。

私に、転校しろって言うの…?



"沖縄での生活費、学費は全てこちらが支払うわ"



こう書かれている以上、私に選択肢は無かった。

家中を探し回って集めたお金はもう底を突く所だったから。

殆どが生活費、学費に当てられていて、金銭的に余裕が無かったから正直言うとこの提案は助かる。

けど…私の中で騒いでいる不安と疑惑がどうしても消えない。

行ってはいけない。

そう呼びかけているように――



――ピンポーン…



突然インターフォンが鳴る。

警戒心も無くドアを開けると、



『お迎えに参りました』



スーツを着た人が立っていた。

迎えに着たと言っている所から、どうやらこの人は運転手らしい。


って、そんないきなり来られても。



「私、まだ用意してないですし、しかも荷物も…」

『大丈夫です。荷物はある程度あっちに用意されていますので』

「え、用意されてるって…」

『取り敢えず服などを用意して直ぐに乗って下さい。飛行機に遅れるといけないので』

飛行機!?



何それ、急すぎるでしょ。

初めから私に選択権なんて与えられて無いんだ。

ここで初めてその事実に気付く。

強制的に沖縄に連れて行く、それが目的なのでは…?

と思った時には手遅れで。

私は既に車の中だった。

握り締めた手紙を読むと、最後に一言



"直ぐにお迎え来ると思うから、宜しく"



と書いてあった。

直ぐって言うか、読んでる途中に来ましたけど。


結局急かされた私は、親友にサヨナラを告げる事も無く東京を離れた。



希美、今までありがとう――




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