04 何処かで一度…
[side:平古場]
やっぱり、何処かで見たことあるさぁ。
わんはクニヒャー(コイツ)を何処で見た?
(Act.04 何処かで一度…)
あーっ、イライラすっさー!
名前でも聞けば思い出せるだろうか…?
「そーいえば、まだ名前……
って、顔青いさー。大丈夫か?」
クニヒャーはさっきとは裏腹な表情で、青ざめた顔をしている。
気分でも悪いのか?
『あっ…うん。何でも無いの。…何?』
「名前…聞いてなかったと、思ったんやしが…」
『名前…あぁ、名前ね!私、玉城楓!』
表情が、元に戻った。
玉城、楓…。
うーん…聞いたことあるような、ないような…。
『それで、そちらの名前は?』
「わん、平古場凛」
『なら凛って呼んで良い?そっちも楓って呼んで良いからさ』
「
いきなり呼び捨てかよ」
『良いじゃん、同い年なんだし』
…ふと我に返ってみた。
何故わんは見ず知らずの奴と仲良くしてるばぁ?
馴染みすぎやっしー。
「わん、帰る」
『え、ちょっと待ってよ!見知らぬ土地で迷い子となってる私を置いてくの!?』
「やーなら大丈夫だろ。図太そうだし」
『大丈夫じゃない!私帰り道知らないよー!』
「適当に歩いてれば帰れるさぁ」
『
んな投げ遣りな!』
「そんなことをわんに言われても、……あい?」
その時、校舎の陰から監督が覗いている姿が目に入った。
ヤバイ…テニスコート勝手に使ったのがバレた?
いや、アニヒャー(アイツ)はもう監督じゃないんだし…。
『おい、平古場ぁ』
色々と考えてる内に、いつの間にか監督がコート内に入っていた。
めんどくさい事は勘弁…。
『――ッ…!やっぱり…』
「…ん…?」
楓は俺の服を掴んで、異常なまでに震えていた。
"やっぱり"って…?
ちょっと待て。
この光景…確か前にも…。
「
あーっ!!思い出した!!やー、全国大会の時の…!!」
そうだ、監督に絡まれてた女の子!
わったー、監督の隠し子とか騒いでたっけ。
やっと思い出した、スッキリスッキリ。
って、なまそんな状況じゃないさぁ。
『おぉ、楓じゃねえか』
『……ッ…』
明らかに拒んでるだろ。
オッサン、何をやらかしたんだよ?
『お前、比嘉中に来るんだってなぁ。まぁ、此処はひとつヨロシクな』
楓はわんを盾にして隠れる。
わんだってこんなオッサン見たくない。
クニヒャーには酷い目に遭わされたからな。
『それより平古場。テメェ、誰の許可を得てこのコート使ってるんだ?』
「…やーはもう、テニス部の監督じゃないだろ」
『そうとも言い切れないんだなぁ』
「どうゆう事だよ?」
『確かテメェらは、自分達の時代を築くとかほざいてたよなぁ?』
「だったら何さー?」
『なら、出ねぇといけねえよなぁ。
…合宿』
「合宿…?」
『お前達三年も含めて、テニス部で合宿をするんだよ』
監督はニヤリと笑って、わんを見る。
わったーは引退して、もうクニヒャーと関わらなくて良いと思ってた。
それなのに…。
「そんな合宿に、わったーは出ない」
『あい?そんなこと言って良いのか?』
「ぬーやが?」
『合宿で良い成績を残せば、繰り上げでお前達はレギュラーになれるのにな』
「繰り上げ…?高校でもって事か?」
『そうだ。悪い話じゃねえだろ?』
厄介な計画を立てやがって。
断る事なんて出来るわけないやっし!
『そんでもって、マネージャーは楓にやってもらう事にした』
『えっ…!』
「はぁ?何を言ってるんばぁ。大体楓はまだ比嘉中に入るかも分からないんだぜ?」
『わかってんだよ、コイツは比嘉中に入る』
「なんでやーがそんなことわかるんばぁ?」
『楓の選択権は全て、俺にあるからなぁ。クックック…』
監督が薄気味悪い笑いをすると、楓の手に力が入るのが分かった。
何の関係も無い奴だけど、放っておくわけにはいかないだろ。
「やー、嫌なら嫌って言った方が良い」
『――…凛は?』
「わん?」
『凛は合宿に…参加、するの?』
「まぁ…監督の言ってる事が、本当なら」
『なら…私も、やる』
「え?やっ…ハッキリ言っといた方が良いぜ?」
『ううん、やる。頑張る』
そう言った楓に、溜め息をつく。
折角庇ってやったのに…。
『ハッハッハ!楓、お前は物分かりの良い奴だ』
『…ッ』
楓はまだ、監督に脅えている。
こんな様子で大丈夫なのか…?
『じゃ、せーぜーテニスの腕でも磨くんだな』
そう言って監督は去っていった。
相変わらず、気に入らない奴さー。
「やー、大丈夫か?」
『…うん』
そんな顔で言っても、説得力無いだろ。
取りあえず、確認しとかないといけない事が…
「聞いて良いか?」
『?うん』
「
やーは監督の隠し子だばぁ?」
『
…っは?』
「いや、何でも無い」
っは?って帰ってきたぜ?
この反応は絶対違う、って事だよな?
「それで…やー、いつから登校?」
『え、うーん…明日…かな?転入試験とか無かったから、結構早いんだよね』
「なら、明日早く起きれ」
『…何で?』
「わんの家に来たら、学校に連れていってやるさぁ」
『
ってか君の家知らない』
「帰りに教えてやるから、付いて来い」
そう言ってわんがコートから出ると、楓もその後に続いた。
なんか面倒な奴に関わってしまったのかも。
なんて思いながら、この近いようで遠い帰り道を歩いていた。
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