06 気付いた想い



『おい、凜』



後ろから声が聞こえて来たので振り返ってみると、



『やー、遅刻だばぁ?』



凜の友達と思われる男の子がいた。











(Act.06 気付いた想い)









私はこの子を全然知らない。


なのに――なんでなんだろう?


私の目は吸い込まれるように彼に向けられて、離れない…。



『うるさいんどー。裕次郎だって毎日遅刻してるだろ』

『やーは風紀委員なんだから、遅刻は駄目だぜ?』

『関係ないやっし』



その子は凜の肩に手を乗せ、笑う。

そして凜に向けられていた目が私に向く。



『…あい?この子は?』

「あ、あ…え…っと、玉城楓、です」



何だろう、この痛み…。

胸が…チクチクする…。



『へー』

『転校して来たんだってさ』

『転校ね、……ん?…待て、玉城…楓…?



彼は私の目をじっと見る。

不思議な事に、その目にドキドキする私がいる。

さっき感じたような…ときめき。

何なの、この感情。

おかしい…私今日、体調でも悪いのかな?



『裕次郎…?』

『…凜、やー…』

『何だよ?』

『…いや、何でもねぇ』



凜は頭にハテナを飛ばしながら、不思議そうな顔をする。



『わん、甲斐裕次郎』

「…甲斐、くん?」

『裕次郎で良いさぁ』

「うん、分かった。裕次郎ね!」

『ヨロシクな、楓』




――ドキッ。




…お、おいおいおいおい。


またかよ私!

何名前呼ばれただけで、ドキッとしてんだよ!

流石に二度目は異常だよ?



『楓、やー何組?』

「あ、えっと…わかんない」




でも、

裕次郎に名前を呼ばれたら

勝手に心臓が騒ぎ出しちゃうんだよ――



「何か…初めて呼ばれた気がしない」

『あい?』

「裕次郎に楓って呼ばれると、しっくりくる。…何でだろうね?」

『…さぁな。やーも、違和感ないさぁ』

「ホント?なら何回でも呼んであげるよ、裕次郎」

やめれ、恥ずかしいやっし』



裕次郎はそう言って目線を反らす。


ねぇ…裕次郎。

私達、本当に…今日初めて会ったの?

随分前から、知り合ってた感じがするのは…私の気のせい――?



『裕次郎。楓は、テニス部のマネージャーになったんだぜ』

『…しんけん?やめた方が良いさぁ、監督の扱きは半端ないからなぁ』

『監督が決めたんだよ』

『相変わらず自己中だな、あのオッサン』



違う…今日初めて…会ったんだ。


知ってる筈が無いの。

裕次郎も凜も、私の記憶には無い。

私は知らない。



『楓?』

――ッ…!



いきなり凜に顔を覗き込まれ、慌てる私。

顔が一気に熱くなった。

うるさいくらいに…心臓が高鳴る。



『顔赤いぜ?熱でもあるばぁ?』

「ち、違うよっ、だいじょー…」



大丈夫、と言い終わらないうちに凜が私のおでこに手を触れる。

触れられたその部分だけが、火傷しそうなくらい熱くなるのが分かった。




「…ッ…!」




そんな自分が耐えられなくなって凜を突き飛ばす。


『なっ、何すっさー!?』


そしてその場から、猛ダッシュ。




…もう、わかったよ。

認めるから、鳴りやんでよ!



『楓!?』



後ろから凜が私を呼ぶ。

そんな声にまでドキドキする。

こんな気持ちは始めてで…、どうして良いのか分からない。

この騒ぎ立てる気持ちを落ち着かせる術を、私は知らない。

でもひとつ…確かな事がある。



私は、

凛に恋してるんだ…――

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