第10話 無邪気な顔してアイツは悪魔だ。


『ん…』

「あら、起きちゃった?」



あまりにも無防備だから、何かしてやろうと思ったのに。



『…誰?』

「私、姫島優衣子って言うの」

『あ〜…君が新しく入ったマネージャーさん…?』

「そうよ」

『亜美ちゃんの…友達…?』

「よく知ってるじゃない」

『俺、あの子と友達だったC』

「…亜美から直接聞いたの…?」

『うん。いつもいつも優衣子って言ってたから〜』



亜美が…自分から私の話をするなんて…。

よっぽど仲が良かったのかな?



『君なら知ってるかも』

「…何が?」

『亜美ちゃんの行方』

「貴方…知らないの…?」

『知らない。跡部達に聞いても答えてくれないC』

「じゃなくて、亜美が自殺したってこと」

『…え?』



一瞬、芥川慈郎の動きが止まった。


かと思ったら今度は



えぇぇえええ!??



叫び出していきなり私の肩を掴む。

痛いくらい強く。



マジで!!?

「自殺と言うか、自殺未遂だけれど」

『自殺、未遂…ってことは亜美ちゃん生きてるのかぁ…、良かった〜』

「死ぬのも…時間の問題かもしれないわ」

『…う、嘘だ…。あんなに元気だったのに…』



じわぁと涙を目に浮かべる芥川。

こんなに亜美の事を思っているのにどうして…。



「貴方は知っていたの?」

『何を?』

「亜美が、虐められていたこと」

『…話には、聞いてた』

「じゃあ何故、助けてあげなかったの?」

『俺、実際に見ることはなかったんだよね〜亜美ちゃんが虐められてる所』

「…それには理由があるのかしら?」

『俺、いつも此処でずっと寝てるから』

「…は?」



寝てるから…?

寝てて亜美を助けられなかったって事?



「寝ることと、亜美…どっちが大切なの?」

『そりゃ亜美ちゃんだよ〜?でも眠気には勝てなくて』



氷帝に来て一番の怒りが来た。


ふざけるな。


そんなんでよく亜美の友達を名乗れたもんだね。

コイツを友達と信じていた亜美が可哀想。


芥川慈郎だけは亜美の味方だと思っていたけど、そんなことはない。

ここに、例外はない。



『あれ、どうしたの〜?』

「今分かったわ」

『何が?』

「亜美が自殺を図ったのに、貴方も関わっていると言うことを」

『お、俺…?』

「アンタも亜美を殺した一人」

『俺が…亜美ちゃんを…?』

金輪際、亜美の友達だなんて名乗るな



私はその言葉を残して早々と去る。


苛々が消えない。

無邪気な顔してアイツは悪魔だ。


亜美がどれだけ貴方を信じていたか…。

見て見ぬ振りしていたのと同じ。

いや…それ以上に酷い。

亜美が虐められて苦しんでいる間、すやすやと寝ていたなんて…。


考えれば考える程…胸が痛い。


まるで亜美と以心伝心しているみたい。

ヒシヒシと伝わるわ。


コイツらに対しての憎しみが――











『………』

「…趣味悪いわね。ラケット持って私の後つけるなんて」

『……!』

「…鳳長太郎くん?こんな所で何をしているのかしら?」

『…勿論、貴方を傷付ける為に』



随分ストレートな子なんだね?

本当、憎い。



『愛理先輩を傷付けて楽しいですか?』

「何もしてないのに楽しい筈ないじゃない」

『そんな嘘、誰も信じないですよ?』

「そう、別に構わないわ。私は」



それほどこのテニス部には思い入れはないし、亜美と違って。



『いい加減清水亜美に騙されてるって気付いたらどうですか?』

「…どうゆう事かしら?」

『愛理先輩を虐めたのは清水亜美ですよ』

「証拠もないのによくそんなことが言えるのね」

『なら清水亜美が愛理先輩を虐めてないって言う証拠はあるんですか?』



小南愛理の本性を見ればわかるでしょ。

寧ろ虐められてたのは亜美の方だから。

それに気付けないなんて愚かだね?



「証拠は…ないわ」

『ならそんないい加減な事を言わないで欲しいですね』

「でも、貴方達が亜美を虐めたって言う証拠ならたくさんあるじゃない」

『やだなぁ。虐めただなんて人聞きの悪い。俺達は制裁を与えただけですよ』



制裁、ね。

そっちの方が聞こえは良いかもしれないけど、やっている事に変わりはない。



「いい男が女の子に暴力振るって、恥ずかしくないのかしら?」

『俺は恥ずかしい事をしたなんて思ってません。寧ろ自分のやった事は正しいと思ってますよ』



正しいわけないじゃない。

亜美の腕やお腹にあった傷は、きっとコイツがやったんだね。



『それに本当に恥じるべき人は亜美先輩じゃないんですか?』

「何故亜美が恥じなければいけないのかしら?」

『おとなしい愛理先輩を虐めて、この部から追い出そうとしたんですよ?』

「だから証拠もないのにそんな事を言わないでくれる?」

『証拠なら愛理先輩が付けられた痛々しい傷跡があるじゃないですか』

「なら…亜美が付けられた痛々しい傷跡も、貴方が虐めた証拠よね?」

『何が言いたいんですか?』

「さあね」

『忍足先輩から聞いた通り、本当に鬱陶しい人だ』

「貴方達程ではないけれどね」

『…どうやら貴方も制裁が必要な様ですね』



鳳長太郎はラケットを振り上げる。


この男達は、ラケットを何だと思っているんだろう?

テニス愛なんて微塵もないのかな?



「可哀想なラケットね」

『フッ、俺の大事なラケットで殴られるんです。光栄に思って下さい』



光栄なんて、笑っちゃう。




――私は避けない。


殴りたいのなら、殴れば良い。





――ガッ…!

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