第12話 お前はやっぱりお前なんだな。
計画を実施するのが一週間後なのは良いとしても、ちょっとでも良いから優衣子に会いたい。
と思うのは俺だけなんだろうか?
そうだ、病院に行く振りして行っちまえ!
「柳、今日病院行くから休むって真田に言っといてくれよ」
『と言って丸井が優衣子に会いに行く確率、
97%と言う所か』
「うっ…」
言う相手間違えた。
出来る事ならば数十秒前まで巻き戻ししたい。
『まぁ良い。今回だけは見逃してやろう』
「マジかよ!サンキュー柳!」
『だが、氷帝陣に会っても決して俺達の関係を言ってはいけないぞ』
「わかってるって!見るだけだから!」
ラッキー!言ったのが柳で良かった!
流石は柳だな、だてに参謀やってねえぜ!
そうして俺は東京へ旅立った。
と言っても立海と氷帝はそこまで遠くはない。
考え事をしている内に氷帝の前まで辿り着いた。
うわ〜、今更緊張して来たぜ。
優衣子は笑っているのだろうか?
それとも、泣いているのだろうか?
全く見当がつかなかった。
『それに本当に恥じるべき人は亜美先輩じゃないんですか?』
氷帝の入り口まで辿り着くと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
今の声…確か、鳳…。
『何故亜美が恥じなければいけないのかしら?』
――あっ…!
この声は…間違いなく、優衣子。
俺は声がする方を覗き込む。
勿論、本人達にはバレないように。
…ちょっと、待てよ。
あそこに立ってる長身の男は間違いなく鳳だけど…あれが、優衣子…?
随分と雰囲気が変わってんじゃねえか。
『おとなしい愛理先輩を虐めて、この部から追い出そうとしたんですよ?』
『だから証拠もないのにそんな事を言わないでくれる?』
『証拠なら愛理先輩が付けられた痛々しい傷跡があるじゃないですか』
『なら…亜美が付けられた痛々しい傷跡も、貴方が虐めた証拠よね?』
『何が言いたいんですか?』
『さあね』
なんだか話が掴めねえけど、優衣子が亜美の仲間で、鳳が愛理の仲間ってか?
――…ん?
亜美…って、あの時優衣子が言ってた奴じゃ…。
確かそいつの為に優衣子は復讐を決意したって言ってたよな。
じゃあ愛理っつーのは?誰の事だよ?
あー!もうわっかんねえ!
『忍足先輩から聞いた通り、本当に鬱陶しい人だ』
…ちょっと待て。
鳳、テメェ今なんて言いやがった?
優衣子が鬱陶しい…?
優衣子の悪口はこの俺が許さねえぜ!?
『貴方達程ではないけれどね』
――え…?
今優衣子が言ったのか?
かなり…口調が変わってんな…。
あそこに居るのは、本当に優衣子なのか?
段々わかんなくなってくるぜ。
『…どうやら貴方も制裁が必要な様ですね』
制裁?おい…何言ってんだよ、鳳…?
まさかそのラケットで…。
『可哀想なラケットね』
『フッ、俺の大事なラケットで殴られるんです。光栄に思って下さい』
優衣子…逃げろよ?
何してんだよ…、早く…逃げろ!
お前はもう――
傷付かなくて良い筈だろ――?
――ガッ…!
『『!?』』
「――…っ」
痛てえ…頭に激痛が走るぜ…。
なんか…冷たいものが流れて――。
「うげっ…血!?」
『丸井さん…此処で何してるんですか?』
「知らねえ、気付いたら動いてたんだよ…」
気がついたら、足が…此処へ向かっていた。
『失礼ですが、この人とはどうゆうご関係で?』
「…た、只の通りすがりだ」
『通りすがり?』
「そりゃラケットで殴られようとしてる奴がいたら、誰だろうと放っておけねえだろ」
…痛てえ…頭がクラクラして来やがった…。
見ず知らずの女の為に、ここまで自分を犠牲にするかっつーの。
「それより、お前何してんだよ?」
『何って、部外者の貴女にそんな事聞く権利ないでしょう?』
なんだコイツ…本当に鳳か?
性格かなり黒いじゃねえか。
うちの幸村くんみたいだ…。
いや、幸村くんは黒くても…こんな悪人にはなったりしねえか。
『早く…病院に行きなさいよ…』
「…え?」
『貴女みたいな他人が介入して良い事じゃないの。それよりも、早く手当てをしなければ…死ぬわよ?』
やっと口を開いたと思ったら…他人、か。
優衣子にそう言われんのはキツいな…。
優衣子なのに、優衣子じゃねえみたいだ…。
お前は本当に、変わっちまったのかよ…?
――ジャラ…
優衣子が手を挙げた拍子に見えたのは、ブレスレット。
俺達が誕生日プレゼントにあげた…あのブレスレットだ。
…なんだ、お前はやっぱりお前なんだな。
それが分かっただけでも、俺は満足だぜ。
「冗談抜きで死にそうだ。邪魔者は消えるとするぜ」
頭は痛いし、フラつくしで…意識が遠のきそうだ。
言い訳で病院っつったけど、本当に病院に行くハメになるとはな…。
さて、病院行ったら立海に戻るか。
お前らに、良い土産話が出来そうだぜ――
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