第13話 何で私なんて庇うの?


<優衣子side>




この上ない…驚きだった。




『うげっ…血!?』



目の前には、見たことのある赤髪。

聞いた事のある声。


声が出なかった…。


ねえ、何故貴方がこんな所に―――










『命拾い、しましたね』

「他の人を巻き込むなんて最低ね」



しかもよりによって私の大切な大切な友達を。

鳳長太郎…、絶対に許さない。

貴方が傷付けるのはいつだって私の大切な人なのね。



『知りませんよ。あの人が勝手に飛び出して来たんです』

「フッ、馬鹿な人よね」



本当、馬鹿だよ…。

何で私なんて庇うの?

私は何をされても平気なのに…。

貴方達が傷付く方が怖いのに…――










ブン太の傷、どうなったんだろう?

本当は付いて行きたかった。

でももしも私がブン太と友達だって知られたら、矛先は必ず貴方にも向かう。

折角立海から転校して来た事をアイツ等に隠してたのに…。

貴方達が傷付いたら意味がないじゃない。



『姫島さ〜ん』

「………」



今一番コイツの顔を見たくなかった。

その声…苛々する。



『あれ?どうしたの〜?その顔の傷』

「………」



ぶん殴られたんだよ、アンタのオモチャ達に。

知ってるくせに…わざとらしい。



『そう言えば姫島さんって、毎日新しい靴履いてるんだね?』



だから、それもアンタのせい。

あんな異臭放ってる下駄箱を開けるわけないじゃない。

教室に置いて帰ったら無くなってるし、部室に置いといたら土だらけ。


氷帝に転校してきてから、私が安らげる暇は一瞬たりともなかった。



『ねぇ、アンタって何でそんなに清水亜美に拘るわけ?』

「………」

『あんな馬鹿で偽善者な奴に、どんな思い入れがあるっていうの?』

「………」

『そう言えば、自殺未遂なんだって?いっそのこと



死ねば良かったのに














――ドクンッ…!















死ねば…良かった…?

















ドクンッ…!
















体が…動かない。








胸が熱くなる。













――怒りが込み上げる…












何故、亜美が苦しんでいるの?






何故、コイツが笑っているの?









何故…亜美が笑ってないの…?








許さない…











死ねば良いのは…アンタ…



















はぁ!?立海が!??





――ハッ。




部室の外から聞こえてきた立海と言う単語に我に返る。

もしかして鳳長太郎がブン太の事を言ったんじゃ…。

そう思った私は仕事を片付け、部室から出る。

どうせ後の事は小南愛理がやるだろうし。



『1ヶ月の長期合宿なんて、何を考えてるんや』



忍足侑士の声が聞こえた。

1ヶ月の合宿だなんて聞いた事もない。



『相変わらず王者の考えてる事はわっかんねえぜ』



…王者?

今のが私の聞き間違いでなければ、向日岳人は今…王者と言った?



『だが…願ってもない機会だ』

『ほんで、了承したんか?』

『当たり前だろ?立海とはゆっくり手合わせしたいと思っていたからな。監督は来れないみたいだが』

『まぁ、あの人は教師やもんな』

『でも俺達は良いとして…立海側は1ヶ月も休んで良いのかよ?』

『何しろ全国区だからな。学校側も黙認してんだろ』



決定的だね…。彼らは立海との合宿の話をしていた。

そしてそれを何の考えも無しにオッケーしたと。

何と言ったってあの跡部財閥のお坊ちゃまだもんね。

学校側もイエスとしか言い様がないんでしょ。


そして立海の方は恐らく…蓮二だね。

蓮二の口車に乗せられて許可を貰ったってところかな?

まぁ…テニス部に学校の名誉をあげて貰っているのだから、こっちもノーとは言えないんでしょ。


でも何故立海と合宿なんて…。

出来れば参加したくない。





『みんな、お疲れ。タオルとドリンク持ってきたよ』



後ろから先程とは全然違う口調の小南愛理の声が聞こえてきた。



『サンキュー愛理』

『なんや、愛理が一生懸命働いてるってゆうのに、お前はそんな所で仁王立ちかいな』

『侑士…!私が頑張るから、姫島さんを責めないで?』

『…チッ、愛理がそう言うんやったら…しゃーないな』



良かった、と小南愛理は笑う。

シンデレラの魔法にでも掛かったのかな?

何故この男達が小南愛理の醜い作り笑顔に気付かないのか、不思議で仕方がない。



『ところで、何の話してたの?』



小南愛理は少し首を傾げる。

此処にいる馬鹿なネズミ達の目からは可愛く写ってるのかね。



『あぁ、なんか一週間後に1ヶ月の長期合宿があるらしいで』

『えぇ?1ヶ月も…?』

『そうや』

『私も…行って良いの?』

『当たり前や。お前はマネージャーやろ?ただ…』



と言って忍足侑士がチラッと私の方を見る。

ああ…どうせ私を連れて行きたくないんでしょ?

生憎、私も行きたくないの。

私は勿論氷帝でお留守番してるから。



『駄目だよ、侑士。姫島さんもマネージャーなんだよ?一緒に行かなくちゃ』



何を言ってるのかな、この女は。

私は行きたくないの。

余計な事するんじゃないよ。



『せやけど…』

『私からのお願い』

『…わかった。役には立たへんと思うけどな』

『ありがとう』

『お前はほんまに優しい奴やな』



どいつもこいつも…まったく…。


こうして私は、嫌々合宿に参加する事になってしまった。

彼らにはもう、会う事はないと思っていたのに…――

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