第15話 『…許せねえ』


<ブン太said>


朝練に行く途中に、



「お、柳。昨日はサンキューな」

『丸井、その頭は…』



俺は柳と出逢った。

頭に包帯、柳が気付かない筈ねえよな。



『やはり優衣子が虐めに遭っていると言う噂は本当だったのか』



ホラ、柳の洞察力は半端じゃねえからな。

俺の頭の包帯を見ただけで気付きやがる。



『誰に殴られたんだ?』

「氷帝のレギュラーにいただろ?鳳って」

『まさか…あの鳳にやられたと言うのか?』

「ああ。アイツがラケットで優衣子を殴ろうとして、気付いたら俺が殴られてたっつーわけだ」

『助けに入ったのか』

「あ、いやでもっ…通りすがりって言っといたから大丈夫だぜ?」

『そうか』



そう言えば…優衣子が立海にいたと言う事を、鳳は知らなかったみたいだな。

優衣子の奴、言ってねえのか?







『丸井先輩!どうしたんスか!?その頭…』

「なんでもねえよ」

『まさか昨日部活に来なかった事と何か関係が』

「ねえって。お前は気にしなくて良いんだよ」



なんでいつも朝練に来ねえくせに、今日に限って来るんだよ…。

赤也に言ったら絶対ぇ今すぐ氷帝に乗り込むだろうからな。

コイツには何が何でも言えねえ。



『俺に言えない事でもあるんスか!』

「あぁ、あるぜ!だからもう聞くんじゃねえ!」

『クスッ、二人とも…サボりかい?』

『うげっ…!!』

「幸村君…っ!」



なんだよ、結局みんな集まって来やがって…。

俺には隠し事も出来ねえって事かよ。



『丸井、話しておいた方が良い』

「…わかった」

『なら、みんな。部室でゆっくり話でも聞こうか』



そう言って俺達は部室に移る。

そして俺は全てを話した。

優衣子が虐めを受けていた事、そしてその虐めに氷帝のレギュラーが関わっていると言う事、優衣子の変貌ぶり、など…知っている事は全て。



『…許せねえ』



赤也は怒りで満ち溢れているみたいで、強く握った拳が震えている。

でもそれは赤也だけじゃない。

みんな…顔が強張っている。

許せねえよな。

俺達…アイツを守ってやるって誓ったのに――




『俺今から氷帝行って来ま『やめろ、赤也

『幸村部長っ…、止めないで下さい!俺…アイツ等許せねえんスよ…!』

『そう思ってるのは赤也だけじゃない。俺も…みんなも、同じ気持ちなんだ』

『――ッ、でも…』

『今ここで赤也が氷帝に乗り込んで、どうなるんだ。計画を台無しにするつもりなのかい?』

『…計、画』



そうだぜ、赤也。

俺達は必ず優衣子を助けるんだ。

その時まで…その怒りは取っておけ。



『……わかりました』



そう言って赤也はトボトボと部室から出て行った。



『そろそろ授業が始まるよ。俺達も行こうか』

『うむ』



本当はみんな、お前と同じくらい怒りを感じてんだぜ?赤也。

だけど今下手に行動するわけにはいかねえんだよ。

確実に優衣子を助ける為には…――










『丸井』



部室を出ようとすると、柳に呼び止められた。



「何だよ?」

『お前は優衣子をお嬢様だと言っていたな』

「アイツんち、金持ちだからな。どれ程のものかは知らねえけど」

『調べてみたんだが、優衣子の家は…財界で知らない人はいないくらいの大富豪家だ』

………へ?

『おかしいと思っていた。この時期に転校して、こんなに早くマネージャーになれるものなのか、と』

「ちょ…ちょっと待てよ。それなら自分の手を汚してまで復讐なんてしねえで、金でどうにかすれば良いんじゃねえか!」



つーか俺なら迷わずそうするぜ!?

気に入らねえ奴みんな学校から追い出して、謝らせれば良いじゃねえか!

何でわざわざ…自分を犠牲にする必要があるんだよ?



『憎しみが、大き過ぎたんだろう』

「憎しみ…?」

『きっと氷帝陣が傷つけたモノは、優衣子が自分よりも大切にしていた親友』

「誰だよ、それ…」

『清水亜美だ』



清水…亜美…?

何処かで聞いた事ある名前だな。




「――ッ、…まさか…」

『お前も知っているだろう?短期間とは言え、同じ小学校だった筈だからな』



…忘れて、いた。

そうだ、アイツは…清水は…あの時唯一優衣子の味方をした清水亜美。

周りを敵にしてまで優衣子を守ったあの…清水亜美。

そこまで深い付き合いでもなかったから忘れてたぜ…。



「そりゃ憎む筈だよな…アイツ等を」

『優衣子はきっと…清水亜美を虐めた氷帝テニス部に、深い傷を付けたいのだろう』

「ちょっと待て。清水が…虐められた?」

『ああ。そして自殺を図った』

「自殺…!?」

『しかしそれは自殺未遂で終わったが』



あの時虐められてた優衣子を助けた清水が今度は虐めに遭っていたとはな。

しかも自殺まで…。

きっと優衣子は…復讐するなんて簡単な気持ちで言ってねえ。

自分を犠牲にしてでもやり遂げるだろうな…アイツは。



「なんか色々と教えてくれてサンキュー」



柳の情報収集力には驚くぜ、まったく。

なんて思いながら俺は部室から出ようとした。









『待て、丸井』



しかしそれは柳に止められた。

本日二度目だ。



「まだ何かあんのかよ?」



きっともう授業は始まっている。

俺は良いとして、柳が授業をサボるなんて珍しい。

授業をサボってまで何か聞きたい事でもあんのか?



『優衣子が清水に拘る理由は何となく分かる。だが…お前が優衣子に拘る理由は何だ?』



突然の柳の質問に俺は焦った。



「…っな、何言ってんだよ。優衣子は大切な仲間だろい?」

『それはそうだ。しかし丸井からは、優衣子に対する…何か強い想いを感じる』



何処まで見抜く気だよ、柳…。

それ以上詮索するのはやめてくれ。

思い出したくねえんだよ、俺は――




「…悪りぃ、言えねえ。……言いたく、ない」

『丸井…』



優衣子に対する俺の強い想いは多分…






罪 悪 感 ――





その想いは消える事がない。


俺は優衣子に一生償わなければならないんだ…――

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