第18話 壊さないで、私の決意を…。



『この子、貰って良いかな?』



な、何を言っているの?精市…。

私は氷帝テニス部のマネージャーなの。

もう…貴方達のマネージャーではないの。



『良いぜ。ただし役に立つかは保証できねえけどな』

『いないよりかは良いだろ?』

『ククッ、そうでもねえと思うが』

『それは俺達が決める事だ』

『そーかいそーかい、なら勝手にしな』



そう言って跡部はテニスコートに向かう。



『なあ、侑士!俺達も早く行こうぜ!』

『せやな』

『ちょ、ちょっと待って!』

『なんや愛理?』

『良いの?姫島さん渡しちゃって…』

『ええやん。元々役に立てへんかったし丁度ええわ。それに俺らには愛理がおるしな』

『だよな!ヨロシクな、愛理!』

『…う、うん…』



焦ってるねぇ、小南愛理。

今まで仕事は私や亜美がやってきたんだもん。

自分は何も出来ない。

いなくなられたら…困るよね?


貴方の困った顔見れたのは、ラッキーだった。


でも…

困った顔をしているのは私も同じ事か…。



『じゃ、俺達も行こうか』

「あ…」



精市に手を引っ張られる。



『君、名前なんて言うの?』



知っているくせにわざと言う。

流石は精市。

アイツ等は全く気付いてない。



「姫島優衣子…」

『そう、宜しくね。優衣子ちゃん』



そんな会話を交わしつつ、コートへ向かう私達。

コートは5面ずつ、少し離れた所にある。

しかしそれは見えない距離ではなく、かと言ってハッキリ見える距離でもない。

闘争心を向上させるには持ってこいの距離だ。


特にこのおセンチさんの闘争心を、ね――



『俺マジでぶん殴ってやろうかと思ったッスよ!!』



そう言うのは赤也。

熱い所は全然変わってないんだね。

まぁ、こんな短期間で変わるのはおかしいけれど。



『優衣子を何だと思ってるんだよ、アイツ等』

『ジャッカル…いつになく熱いのう』

『仁王くん、貴方こそ空き缶握り潰してたじゃないですか』

『そう言う柳生こそ今日は口数少ねえじゃねえか』

『丸井くん、私はいつもそこまで喋っていませんが』

『俺長々とお前にお説教された覚えあるぜ?』

『…それとこれとは別の話です』

『同じだろい!』



みんな、変わってない。

私が大好きだったあの頃のみんなと…同じ。





変わってしまったのはきっと




私だけ――








『どうした、優衣子?』



柳が私の様子に気付き、問いかける。



「別に、何でもない」

『…俺達の前で演技するのはやめろ』

「してない。これが本当の私なの」



気を緩めてはいけない。

貴方達を巻き込んではいけない。



これは私の戦いなの…――



『なあ、優衣子。もうやめろよ』

「…何を?」

『自分を犠牲にしてまで復讐なんて…やめろよ』

「なっ…、なんで…知ってるの…?」



誰にも言ってないのに…

気付かれる筈ないのに…

なんで貴方達が知っているの…?



『俺、病院で聞いちまったんだ』

「病院…」



ああ、そうか。

そう言えばあの日…ブン太も同じ病院に居たんだ…。

なんで気付かなかったんだろう…――。



「そっか、聞いちゃったんだ…」

『俺らお前の傷付く姿は見たくねえんだよ!そんなに傷作って…なんでもっと自分を大切にしねえんだよ!?』

「私の事は放っておいて!」

『優衣子…』

「私がどんな想いで氷帝に行ったのかも知らないくせに…」



大切な仲間と離れる辛さも


大切な親友を傷付けられた苦しみも


貴方達には伝わらないのに…。





止めないで、私を。



壊さないで、私の決意を…。





『優衣子、俺達には優衣子の気持ち…わかるよ?』

「精市…。わかるわけ、ない…」

『優衣子が教えてくれたんだろ?』

「…え?」

『俺達が優衣子と離れる辛さも、優衣子を傷付けられる苦しみも…全部優衣子が教えてくれたんだろ?』

「…あ…」



私は、この人達を自分と同じ目に…遭わせてたの…?

私と同じ想いに、させてたの?



『優衣子の事だから、俺達を巻き込まないように隠してたんだろうけど…俺達にとってそれがどれだけ悲しい事だったかわかる?』

「…ごめん…なさ…」



自分がどれだけ無責任な行動をしてたのか、思い知らされる。

大切な人を守る為だと思って隠していたことが…逆にみんなを苦しめてたの…?

なら私はどうすれば良いの?

氷帝テニス部に復讐するって誓った。

その想いは今も崩れない。

でも、氷帝に居る事で大切な人が苦しむなんて…私には耐えられない。



ねえ…どうすれば良い…?



『幸村くん、悪いのは優衣子じゃねえよ!元はと言えばアイツらが…!』

『そう、悪いのは優衣子じゃない。氷帝陣だよ』

『じゃあなんで…』

『だから、間接的とは言え俺達も氷帝陣に傷を付けられたんだ。…ねえ、優衣子』

「…何?」







『俺達にも、復讐する権利はあるよね?』

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