第19話 『笑って欲しいんッスよ』



――復讐…?




駄目、そんなの駄目だよ!」



狙われるのは私だけで良い。

汚れるのは…私だけで良い。

貴方達に復讐なんて汚い言葉…似合わない…。



『俺達は、こんなにアザを作ってる優衣子を放ってはおけないんだ』



精市は私の腕を力強く掴む。

その拍子に袖が捲れ、痛々しいアザが見えた。



『まだまだ、傷はあるんだろ?』

「…こんな傷大したことない」

『でも、一歩間違えれば丸井みたいになってたんだよ?』

「えっ…」

『そーだぜ、特に鳳なんて何するかわかんねえんだから』

「あの時…気付いてたの?私に…」

『当たり前だろい?見ず知らずの人の為にあんな危険な事するかよ』



そっか。私だから助けてくれたんだ…。

自分を犠牲にしてまで、助けてくれたんだ。



「…ありがとう」



私は微笑む。

あの時言えなかった事、言えて良かった。

一体どれくらい久しぶりに…心から笑っただろう?



『やっぱお前は笑ってる方が可愛いぜ』

『フフッ、そうだな』



みんなといると和む。

私が大好きな空間がある。












――…和む?




何を言っているの?私は。


和んでる暇なんてないでしょう?


復讐しに来たんじゃないの?






亜美のあの顔…忘れたの…?





「ねぇ、何で此処に来たの?」

『優衣子…?』

「私に戸惑ってる時間はないの、お願い。邪魔…しないで」

『しないよ』

「えっ…?」

『俺達が優衣子の想いを止めることなんて出来ない』

「それなら」

『でも、優衣子に協力することは出来る』




私に…協力?

それがどうゆう意味か分かっているの?精市…。

私の味方をすると言うことは、跡部景吾を敵に回すこと。

あの男は敵に回してはいけないの。

何をされるのか…わからないんだよ?



『優衣子、此処が何処だか…お前には分かっているんだろう?』



蓮二の口が開く。

勿論分かっている…分かっていない筈がない。

此処は言わば私の、家みたいなもの。



『小さい頃、お前はここでテニスをしていたそうだな』

「…よく…知ってるね」



流石は蓮二。

何処からそんな情報を仕入れるんだか。



『ならば此処の設計は全て把握出来ているな?』

「え、まぁ…」



うろ覚えとは言え、全て覚えている。

と言っても、此処に来て殆ど思い出したのだけれど。



『実は俺達も、完璧に覚えて来た』

「…えっと…、それで?」



何が言いたいのか全くわからない。

流石の私も、この天才の考えている事は理解出来ないようだ。



『俺達が何かされるような事があっても、大丈夫だと言うことだ』

「…それって…」

『優衣子…俺達の覚悟も、そんなに甘いものじゃない

「………」



本当に、お人好しの馬鹿だよね。

私のことなんて放っておけば良かったのに。



『優衣子先輩、俺…アンタにもう一回、笑って欲しいんッスよ』

「赤也…」

『だから何でも一人で抱え込まないで下さい』



復讐、なんてやっぱりこの人達にはさせられない。

でも…協力なら、貴方達にも出来るかも知れない。



「わかった」



私のこの言葉に、みんなの笑みが漏れた。

貴方達には…負けた。

後で後悔してもしらないんだからね。





「で、この計画を立てたのは誰なの?」

『勿論、柳先輩ッスよ!』

…やっぱり…。本当に余計なことをしてくれたよね」

『それは悪かった』

「でも…助かった」

『…どうゆう事だ?』

「私、氷帝に来て…心まで醜くなってしまってたから」



目的を忘れて、小南愛理殺してしまおうかと思った。

財力で、跡部景吾を…テニス部を潰してしまおうかと思った。

でもそれでは何の意味も無い。

最後に残るのは、アイツ等よりも重い"罪"

亜美の為にも私の為にもならない。



『もう優衣子は自分を見失わんぜよ』

「仁王…」

『優衣子には、それがあるじゃき』



そう言って私の手を指差す。

その先には、みんなから貰った大切なブレスレットが光っていた。



「…そうだね」



氷帝に来てから肌身離さず付けていたブレスレット。

これがあったから私は頑張れたのかも知れない。



『俺が優衣子先輩の生徒手帳盗んだ甲斐あったッスね!』

「…そうだね。




って、ちょっと待って?

『あ、そう言えばまだ返してなかった』

「…赤也…、今すぐ返しなさい

『駄目駄目!これは優衣子先輩が立海に戻ってきてからッスよ!』

「えっ…?」



戻れるのかな?私…。

考えても無かった。

でも、復讐が終わったら…私の役目が終わったら…氷帝に居る意味はない。






もし帰れるのなら、貴方達の元へ…




もう一度




戻っても良いですか――?




















『それで、俺達は何をすれば良いのだ?』



真田が口を開く。



『そう言えばそれ聞いて無かったな』



ジャッカルも口を開く。


私が協力して欲しい事。それは、



「そうだね…」

『おう、何でも言ってくれい』

「なら…








小南愛理の味方をして欲しいの

- 19 -

*前次#


ページ: