第2話 「私、氷帝学園に転入します」


「――ッ…!」



叔母との約束通り亜美の家に来た。

そこで私が見たものは、想像を絶する真実。


驚いた、なんてものじゃない。

ひたすら絶句。



「…亜美…!」




本当に?


本当にこの人は亜美…?

健康的だった体は痩せ衰え、艶々していた肌はボロボロ。

顔色なんて…今日の私の顔色の悪さぐらいじゃ比にならないくらい。




「どう、して…?」



彼女がこんな風になってしまったのは何故?

あの明るい彼女が…。


目の前の現実が信じられない。


この現実は…学生の私には残酷過ぎた。

受け止めるには重過ぎた。




『もう…やだ…私…死ぬ…死にたい…』

「…ッ…亜美…」



そう言うと彼女はカッターナイフを取り出す。



「駄目…!止めてっ!」

『私は…イラ、ナイ…』




――ガッ…!



止めに入ったのも虚しく、私は彼女を阻止することが出来なかった。

ナイフが刺さった手首からは、大量の血。

フラッと倒れ込む亜美。


何が何だか、わからなかった。

この状況で冷静でいられる程、私は大人じゃない。

パニック状態…というよりは、乱心。



嫌だ、死なないで…。


貴方は私の大切な……親、友―――



「いや…いやぁぁあああ!!!!


















――気付けば、そこは病院だった。




「……私…」

『気がついた?』

「叔母さ、ま…」

『心配したのよ、まったく』

「なんで…私が病院に…?」

『貴方が気絶した後に、亜美ちゃんのお母さんが駆けつけたのよ』



…亜美。


そうだ、亜美は…!?





――ガバッ。



勢い良く起き上がる私。



『あら、駄目よ。寝てなくちゃ』

「叔母様!亜美は!?」

『亜美ちゃんは無事よ』

「よかっ…たぁ…」

『ただし、寝たきり状態だけれど』

「……ッ…!」




寝たきり…?


目を覚まさないかもしれない、と言うこと?

そのまま死んでしまう可能性もあると…言うこと?


やだ…そんなの、嫌…。

起きて、目を覚ましてよ…お願い…――!





『…優衣子ちゃん?亜美ちゃんの事なんだけど』

「な、何…?」

『実は亜美ちゃん、虐めに合ってたらしいの』

「イジメ…」



私はその言葉に過剰反応した。

虐めのツラさは…他でもない、私が一番よく知っている。




『ええ。氷帝学園で…』

「氷帝、学園…?」

『何でもテニス部で、新しいマネージャーが入って来てかららしいの。それまでは、普通に明るく過ごしてたって』

「テニス部で…?」

『そう、らしいわ。水をかけられたり、殴られたり、蹴られたり…見るに耐えない酷さだったようね』





氷帝…学園、テニス部…。


…ッ…憎い…憎い…憎い…!!

亜美を殺したソイツ等が…憎い…!




――私が…。


私がソイツ等に…

亜美の明るい未来を殺したソイツ等に…











復 讐 す る 。




許さない…絶対に…!






「――叔母様、今すぐ転入手続きを済ませて下さい」

『…え?転入、って…』

「私、氷帝学園に転入します」

『え、ちょっと…優衣子ちゃん!?』




――ガバッ。




私はベッドから出て、亜美の病室に向かった。















『…優衣子、ちゃん…』



亜美のお母さんの目は相当腫れていた。

それを見ると胸が締め付けられるように熱くなった。



「…亜美…。辛かったよね?苦しかったよね?」



ベッドに眠る亜美の顔は…決して良好とは言えなかった。

寧ろ血が抜けていったせいか、顔色は前にも増して悪い。

その顔を、私は撫でる。




「でももう大丈夫だよ」



亜美の恨み…私が晴らしてあげる。

テニス部を、地獄に落とす。





『優衣子ちゃん…?大丈夫って…』

「おばさん。私…亜美の願い、叶える」

『…え?』

「私が、復讐する」

『ふ、復讐…ですって…?』

「そう。だから、私氷帝テニス部のマネージャーになる」

『そ、そんな事』

もう嫌なの!



これ以上悲しんでる亜美を見るのは…もう嫌なの。


アイツ等が傷を付けたのは亜美だけじゃない。


私の心にも、おばさんの心にも

一生消えない傷が残ってしまった――






私の大好きな、親友。


奪った奴等が許せない。





絶対に、復讐してやる。


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