第20話 本番はここからだぜ?


<ブン太side>


何だか物凄く気分が乗らねえぜ。

なんて思っているのは俺だけでなく、多分みんなも。


優衣子の奴、何を考えてんだよ…――











『小南愛理の味方をして欲しいの』

『「――…っは?」』

『あ、ついでに氷帝陣の味方もしといて』

『じょ、冗談じゃないッスよ!優衣子先輩!』

「そうだぜ、何で俺等がアイツの味方なんて…!」

『協力してくれるって、言ったよね?』

「言ったけど…それは…」

『なら、文句言わないの』







どーゆう事なんだよ。

幸村くんも柳もなんも言わねえし。

なんかすっげえムカムカするぜ。



だぁぁぁあああ!レーザービーム!!





――パコォオンッ!



俺が全力で打った球はバウンドした直後、フェンスを通り越して何処かへ飛んで行った。

人間、本気になれば何でも出来ると思う。



『ま…丸井くん、それは私の技です』

「うっせぇ。こーなったら人の技とか関係ねえんだよ」

『何をムシャクシャしているのですか?』

「別に、してねえよ」



このイライラ、誰に向ければ良いんだよ。

優衣子か?柳か?幸村くんか?

…違え、それは違うんだよ。

氷帝…悪いのは全てアイツらだ。

優衣子を虐めたアイツら。

なのに優衣子はその憎い氷帝陣の味方をしろと言うのか?

出来るわけねえだろ!





『丸井先輩、ちょっと殴らせて貰って良いッスか?

いや良くねえよ

『俺このままじゃストレス死しそうなんッスよ』

「お前ストレスなんか抱えるような奴じゃないだろぃ。つーか俺だって今ムカついてんだよ、話しかけんな」

『なんで優衣子先輩はアイツ等の味方しろなんて…』

「それ知ってたらこんなにイライラしてねえっつの」



今日の練習を終えた俺は赤也とこんな会話をしていた。

そんなただでさえ苛ついている俺達に仁王が一言。



『そう言えば優衣子が自分の悪口を言う様、頼んどったぜよ』


『「はあ!?」』



んだよ、それ。無理だっつの!

悪口っつーのは気に入らねえ奴に言うもんだぜ?

優衣子の悪口なんて言えねえよ!

お前だって分かってんだろ!?



『あーもう、みんな揃ってなんなんッスか!納得いかねえッスよ!』

『そんな事を俺に言われてものぅ』

「お前は分かってんだろ?優衣子の目的が」

『何となくじゃが』

『なら教えて下さいよ!優衣子先輩の目的って何なんですか!?』

『…例えば、の話なんじゃがのぅ…、もしお前等が優衣子に裏切られたらどうする?』

「あぁ?んなことあるわけ『じゃけぇ例えばの話だって言っとるじゃろ

『ショック…ッスね、物凄く…』



有りもしねえ話だけど、もしそうなったとしたら…。

俺はきっと一生立ち直れねえし、絶望感でいっぱいになるだろうな。


…考えたくもねえ。



『じゃろ?優衣子はソレを狙っとるんじゃ』

『それは…つまり、絶望感を与えるって事ッスか?』

『まぁ、そうゆう事になるかのぅ』

「絶望感…ねぇ。復讐としてはちょっと甘いんじゃねえか?」

『そうッスよ。もっとこう、ボコボコにするとか!』

馬鹿か、暴力で解決する問題じゃなか』



でも俺達小南愛理(だったっけか?)に絶望感を与えられる程ソイツと仲良くねえし。

俺達に裏切られたくらいじゃショックだって受けねえだろ。



「なぁ、仁王。出来ねえとは思うけど、もし俺達が小南愛理に絶望感を与えたとしても、アイツには氷帝軍団がいんだぜ?そっちに逃げれば良い話じゃねえか」

『丸井…、俺達はただ優衣子の悪口を言って、小南愛理を騙せば良いってわけじゃなか』

「…どーゆう事だ?」

『俺達が小南愛理を騙しているその間、氷帝陣の目を覚まさせるのも俺達の仕事じゃ』

「だけど…優衣子は氷帝陣を恨んでるんだぜ?傷だって付けられてるし…。ソイツ等は許しちまうのかよ?」

『許しはせん。罪を償わせるんじゃ』

「アイツ等がそう簡単に自分の罪を認めっかよ」

『じゃけぇそれを認めさせるのが、俺達の仕事。みんな分かっとぉよ』

「俺達の…仕事」



…そっか、だから誰も何も言わなかったんだ。

みんな優衣子の考えてる事を理解してたから、黙って受け入れたのか。



『そうゆう事だ』

『ゆっ、幸村部長…!』



幸村くんの後ろには柳、柳生がいた。

いわゆる頭脳明晰トリオって感じだな。



『分かっていなかったのは、貴方達二人だけですよ?』

「う…俺、赤也と同じレベルって事かよ」

どうゆう意味ッスか、それ

「いや、別に」



先輩の面目丸潰れじゃねえか。

わかんねえんだよ、直球で言ってくれねえと。



『でも、割と面白かったぞ。お前達二人だけ苛々している所を見るのは』

『柳先輩、そりゃ無いッスよ〜。俺死にそうなくらいストレス溜まってたんですから』

「だからストレス溜めるようなキャラじゃねえだろぃ」



俺達二人だけって、恥ずかしいな…ソレ…。

つーかジャッカルは?

アイツは絶対ぇこっちに入るタイプだろい!



『そーだ!ジャッカル先輩は!?あの人も直球で言われなきゃわかんないタイプっしょ!』



代弁して聞いてくれてサンキュー赤也。

お前俺の心読めんのか、ってぐらいで怖ぇぜ。



『ジャッカルはちゃんと俺から説明したからな』

『って、なら俺達にも説明しといて下さいよ、幸村部長!』

『だって、近寄れるような状態じゃなかったじゃないか』

『うっ…すんません…』

『丸井なんて、スペシャルな球柳生にぶちかましてたしね』

「わ、悪りぃ…柳生…」



俺と赤也は比較的感情的なタイプだからな…。

みんなみたいに冷静な行動なんて…。



『良いかい、丸井…赤也。俺達は軽い気持ちで優衣子を助けに来たわけじゃないだろ?』

「当たり前だろぃ!」

『そうッスよ!俺達は本気で優衣子先輩を助けたいと思って…!』

『なら…これから何があろうと、感情的になってはいけない』

『「…え?」』

『今の優衣子を見ればわかるだろうけど、感情的になった方が負けだ』





『忍足先輩から聞いた通り、本当に鬱陶しい人だ』

『貴方達程ではないけれどね』






確かに…あの時の優衣子は冷静だった。

そうだよな、感情的になった相手を見る事程…楽しいものはねえもんな。



「わかった、感情的に行動する事はやめる」

『俺も…、優衣子先輩の為なら頑張れるッス!』

『約束だよ。破ったら帰って貰うからね』

『「了解!」』



大切なものを守る為に、犠牲は付き物なんだ。

だから、優衣子を守る為なら…俺達は我慢するぜ!



『ならまずは、優衣子の悪口でも…言っておこうか?』

「うぇっ…いきなりかよ?」

『敵陣のお見えだからね』

『「え…?」』



振り返ると、跡部を中心にゾロゾロと近付いて来る氷帝軍団。







さあ…





本番はここからだぜ?

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