第21話 うん、よく知ってる。


<幸村side>



『おい、幸村。うちのマネージャーは役に立ったか?』



そう言って跡部は笑いながら問いかけてくる。

嘘とは言え、優衣子の悪口を言うのは気が進まないが…仕方ない。



「あの子を選んだ俺が間違いだったよ。本当にマネージャーなのかい?」

『ククッ、だから言っただろ?』

「忠告はきちんと聞いておくものだな。そっちのマネージャーさんにすれば良かった」

『えっ…』

『コイツはやらねぇぜ?』



――…いや、全くいらないけどね?

いらないどころか消えてしまえとさえ思うんだけどね?

俺はそんな事は言わないよ。



「そうか、なら俺達だけで頑張るしかないな…」

『マジかよ…幸村くん』

『なんであんな奴選んだんッスか?』



立海のヤング達、頑張ってるね。

君達の心境はヒシヒシと俺に伝わってくるよ。

今は怒りでいっぱいだろうけど、我慢してね?



「悪かったね、みんな。だがどんなマネージャーでも、俺達が負ける事はないよ



フフッ、俺も全然平気ってわけじゃないからね。

これくらいは言わせて貰うよ。



『随分と自信満々だな』

「勿論」



だって優秀なマネージャーが付いているんだから。

そっちの猫を二匹くらい被った野良猫さんとは違うしね?



『あの…皆さんごめんなさい』



目が合ってしまった。

物凄く顔を背けたいんだけど…どうしようか?


その上目遣いやめて欲しいな。


そうだなぁ…君が俺達を見上げるなら、俺は君を見下してやりたいよ。



「なんで君が謝るんだい?」

『そうや、お前が謝る事なんてないで?』



君はちょっと黙っててくれるかな?

この野良猫さんが謝る事なんてたくさんありすぎて分からないんだ。

それを聞いていると言うのに、余計な解釈はしないでくれる?

そして…時に、忍足侑士くん。

君は何故そんな野良猫さんを大切に守っているんだい?

君が守っているその女、微妙に口先が片方だけ上がっているよ?

そんな事にも気付かないなんて…その伊達眼鏡取った方が良いんじゃない?



『私がもっと頑張れれば、皆さんのお手伝いも出来るのに…』



しなくて良いから。

寧ろ邪魔になるからして欲しくないんだ。

馬鹿馬鹿しすぎてコメントを返す気にもならない。



『そんなに気にしなくても良いですよ』

『そうだ。一生懸命仕事をしているのなら、謝る事など無い』



助かったよ、流石マスターとジェントルマン。

でも、柳のその言葉…奥が深いね。

"一生懸命仕事をしているのなら"…か。

要するに柳は仕事をサボっていた癖に綺麗事を言うではないって言いたいんだよね?

フフッ、腹黒い奴だ。



『皆さんお優しいんですね』

『いえ…貴方こそ、こちらの心配をして下さるなんて優しい方です』



柳生、少し…顔が引きつってるかな。

まぁ無理もないね。

そんな偽物の笑顔を向けられたら、俺なら耐えられないな。

実は俺、顔だけは一応この野良猫さんに向けてるけど…焦点合ってないんだ。

直視出来ないからさ(悪い意味で)。



『あの…幸村、さん?』


な ま え を よ ば れ た 。

誰が呼んで良いって言ったのかな?

とゆうか何で俺の名前を知っているのかな?



「フフッ、なんだい?」

『綺麗なお顔をしているんですね。驚きました』

「そう?ありがとう」



君は大分醜い顔をしているみたいだけどね。


…ちょっと、そこ5名様?


笑うのを我慢するのはやめて貰える?

口元が明らかに不自然だから。



「君?名前はなんて?」

『小南愛理です』



うん、よく知ってる。

俺の大切なお姫様を虐めた小南愛理だよね?



「宜しくね、小南さん」

『あ、愛理って呼んで下さい』

『『ぶっ…』』



切原赤也くんに、丸井ブン太くん?

俺知らないからね。

自分達でどうにかしてよね、この状況を。



『あの…どうかしたんですか?』

『いきなり吹き出すなんて、自分ら失敬なやっちゃなぁ』

『…悪り、なんつーか…アレだ。このドリンクが激マズで…

『ほ、ホントに不味いッスね…!あのマネージャーが何か入れたんじゃないッスか?』

『ホンマかいな。そりゃ災難やったな』

『ちょ、俺コレ捨ててくるわ!こんな不味いの飲んでらんねえ』

『俺も行きます…!』



ほーう、なかなか上手いテクニックでこの場を去ったな。

悪知恵だけは付いてきたか。

なら、俺達もとっととこの場を離れるか。

とゆうか離れたいんだ。



『精市、俺達も早くいかなければ、弦一郎に怒られるぞ』

「そうだな、行こうか」


柳、今心から君に感謝したよ。

これから行動するときは君と行動を共にすることにしよう。



「なら、氷帝御一行様。また明日会おうじゃないか」

『ああ。部屋は分かってんのか?』

『俺達が1号館で、お前さん等が2号館…じゃの?』

『そうゆう事だ』

『では、失礼します』

『ほなな』



そう言って俺達は別れた。

今頃ドッとストレスと疲労が襲ってくる。

こんな事で大丈夫なのだろうか?










『あ〜、疲れた。やってらんねえ』

『なんなんッスかね、あの女。嘔吐が出ますよ』



少し進んだ所で丸井と赤也の姿。

君達、少しは危機感と言うものを持てないの?



『あ、先輩達…お疲れッス』

「二人とも、此処に居るのが俺達で良かったね?



そうして俺は微笑む。

勿論、憎しみたっぷりの笑みで。



『すんません…もうこんな所で悪口は言いません…』

『次からは部屋の中で小声で言います…』

「分かれば良いんだよ」



まぁ、実際俺もそう思っていたのだけれど。



『それにしても…疲れたな』

『まったくです。愛想笑いは、精神的に体力を消耗します』

『ストレスが溜まりそうじゃ』

『俺なんか今ストレスタンク満タンッスよ』

『なら俺はストレスタンクからストレスが溢れ出てるぜぃ…』

「協力って言ったけど、本当に復讐してあげたいよね



みんなは静かに頷いて、その後は一言も話さなかった。

そしてその日、1号館は溜め息で溢れていた。



明日はもっと…過酷なのだろうか?

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