第22話 たくさん苦しんだ――?


<優衣子side>


みんなが練習している間にドリンクを作る私。

赤也とブン太のあの表情が頭から離れなかった。





『じょ、冗談じゃないッスよ!優衣子先輩!』

『そうだぜ、何で俺等がアイツの味方なんて…!』







二人にはちょっとキツかったかな…?


小南愛理の味方をして、最終的にあのお姫様に亜美が味わったような苦しみを与える。

なんてのは一番の目的ではない。

小南愛理の味方をしていれば誰も貴方達に被害は与えない。

それが私の本当の目的。


もう、大切な人には傷付いて欲しくないの。



『ねえ、姫島さん?』

「小南愛理、貴方の場所はあっちじゃないのかしら?」

『私ドリンク作れなくてさー、それ貸しなさい』



そう言って無理矢理ドリンクを奪う小南愛理。

代わりに渡されたのは空っぽのドリンクケース。



「…そんな事でよくマネージャーになったわね」

『私レギュラー目的で入っただけだから。そんな事はしなくても良いの』

「不純な動機」

『不純でも何でも残ったもの勝ちよ。じゃあ、貰ってくわね』



と、私に背を向け歩き出す。

しかし何歩か歩いてこっちを振り向く。



『私、幸村くん気に入っちゃったから。手出したら殴るわよ』



そんな捨て台詞を吐いて小南愛理は去って行った。



「精市はアンタなんか嫌いだと思うけどね」



思わずボソッとそう呟いてしまった。

立海のみんなに手出したら私だってアンタを殴るよ。



『アレがアイツの本性っちゅうわけか』

「仁王、聞いてたの?」

『後から来たんはアイツじゃ』



あんまり…お嬢様言葉を聞かれて欲しくなかった。

私なりに自分を隠すために使っているんだけど、自分が自分じゃないみたいで違和感を感じる。

それはきっとみんなも同じ筈。



『ドリンク強盗やのぅ』

「良いよ、また作るし」

『なんでお前さんが怒らんのか、俺には理解出来んぜよ』

「だって怒ったら…止まらなくなりそうだし」

『ストレス溜まらんのか?』

「フッ…、ストレスどころで済んだらどれだけ良いか



ストレスなんて言うレベルはもうとっくに通り越した。

アイツ等を憎まない日なんてない。

でも最後まで、私は怒ってはいけないんだ。



復讐を終えるまでは…絶対に――。







『それにしても、幸村も気の毒じゃのぅ』

「精市には絶対近付かせないから大丈夫だよ」

『いや…幸村にはアイツに気のある振りをして貰うぜよ?』

「そんなこと精市にさせられないよ」

フフッ、楽しそうじゃないか

「精市…」



何故君達は話を盗み聞きしてから出てくるんだろうか…。

そしてタイミングの良い所で出てこないで下さい。



『生憎、俺も大分ストレスが溜まっているんだ。良い発散方法を見つけて良かったよ』

「………はぁ…」



もう何でも勝手にして下さい。

氷帝テニス部を敵に回しさえしなければ、どうでも良いよ。









『宍戸さん、最近どうしたんですか?』



仕事を終えてサボろうとしている(とゆうかしなければいけない)私の耳に聞こえて来たこの声。

…鳳長太郎だ。



『何でもねえっつってんだろ』

『でも、ずっと上の空じゃないっすか』

『俺だって考え事することぐらいあるんだよ』

『何か…考えてる事でもあるんですか?』

『お前には関係ねえよ』

『…ッ…、ならもう良いっすよ。しつこくてすみませんでした!』



そう言って鳳長太郎は宍戸の元を離れる。

これは…チャンス

鳳の姿が見えなくなると、私は宍戸に近付いた。



「こんにちは、宍戸亮くん」

『――ッ、お前…!』








『もう、一生目を覚まさないかもしれないわ』






「私の言葉、そんなに効いたかしら?」

『うるせえよ…』



貴方は人一倍責任感が強いんだもんね?

自分達のせいで人が一人死ぬかも知れない。

それを聞いて、考えずにはいられない筈。


どう?たくさん苦しんだ――?







『…止めなきゃなんねえって…わかってたんだ』

「でも結局は止めなかったんでしょ?」

『亜美が…亜美が愛理を虐めたってゆう事実が…頭に回っちまって…動けなかった…ッ』

「………」




――グイッ


私は宍戸の胸ぐらを掴んで私の方へ引き寄せた。




「ふざけんじゃないわよ。亜美がそんな事するわけないじゃない」

『でも、証拠はたくさんあったんだぜ…?』

「じゃあ何?亜美が小南愛理を虐めてるその現場でも見たの?」

『…え?』

亜美が小南愛理を殴ってるその現場でも見たのかって聞いてるの

『…それは…』



いい加減、貴方達は小南愛理の罠に掛かってるって…気付きなよ。


貴方達の亜美への信頼は…アイツの下らないお遊びで壊れちゃうくらいのものだったの?










『優衣子っ!』










「特にアンタは亜美を信じてあげなければならなかったんじゃないの?」




















『私ね』













「自分を犠牲にしても、亜美を信じてあげなければいけなかった筈でしょ!?」






















『彼氏が出来たの!』














「アンタは…亜美の彼氏だったんでしょ!?



『……ッ…!』













『宍戸亮って言うんだけどね、とっても優しいんだ』


「へぇ、なら今度私にも会わせてよね」


『へへっ、わかった』














「――…ッ」



まさかこんな形で会うなんて思ってもなかった。


あの頃の亜美は生き生きしてて、楽しそうで…。


羨ましいって思うくらい笑ってた。


笑ってる亜美が好きだった。


亜美の笑顔はいつでも私に勇気を与えてくれた。






――それなのに…






「暫く経って私が見た亜美の顔に笑顔なんてなかった」




笑顔がないどころじゃない。


生気だってなかった。






「亜美はもう…死んだの




ううん、殺された。


貴方達に…。













――ぽたっ…



地面に一筋の水滴が落ちた。

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