第25話 『誤解してるのは、君の方だよ』
<宍戸side>
俺は今まで――何を見ていたんだ?
亜美が愛理を虐めていた?
そんな事あるわけねえだろ。
『私…何もやってない。信じてよ、亮!』
アイツは…俺に助けを求めてた。
信じて、って言ってたのに俺は…。
「悪い事は言わねえ、愛理に謝れよ」
――…ッ、情けねえ。
自分の彼女も信じてやれなかったのかよ、俺は…。
誰がなんて言おうと、アイツだけは…信じてやらなくちゃいけなかったんだ…。
今になって気付くなんて…何やってんだよ、俺…!
――バンッ!
俺は握り拳で壁を殴る。
手が痛い。
でも…亜美が受けてた痛みに比べたらこんな痛みどってことねえ痛みだ。
「…クソッ…」
あんな女に騙されるなんて、どうかしてる。
何で今まであんな奴を庇ってきたんだ。
『アンタも清水亜美のように、死ねば?』
『お前はもう…仲間ちゃう』
俺達が共に流してきた涙も、汗も…何の意味があるっつーんだ…。
信頼なんて言葉も、今じゃ意味を持たない。
でも…――
『ふざけんじゃないわよ。亜美がそんな事するわけないじゃない』
アイツは…姫島はいつでも亜美を信じていた。
何があっても亜美の味方だった。
亜美と姫島は…強い信頼で結ばれているんだろうな。
どっちにとっても、唯一無二の存在。
それなら…
俺が今亜美の為に出来る事はひとつしかねえ!
――ダッ…!
俺は走った。
まず最初にしなければいけない事、それは…
「
おい、立海!」
立海の奴等を姫島の味方にする、ということだ。
亜美の大切な姫島を…絶対ぇ守り抜く!
『宍戸…?何か用かい?』
「幸村…、俺は姫島の誤解を解きに来た」
『誤解?』
まずは何から話そうか…。
とりあえず姫島は悪い奴じゃねえって事を証明してえけど、何て言えば良いんだ?
あぁもう、煩わしい。
とにかく口に出さなければ伝わらねえ!
「姫島は…『
あーっ!』
何だよ、邪魔すんじゃねえよ!
『…丸井、どうしたんだ?』
『幸村くん、手に何持ってんだよ!』
『コレ?食べるかい?』
『マジかよ!やりぃ♪』
コイツのお気楽さには呆れるぜ。
つーかケーキワンホール全部食うのかよ…。
『で、優衣子ちゃんが何だって?』
「え、ああ…姫島は、悪い奴じゃねえと思う、んだ」
なかなか言葉が見つからねえ。
どうやったら伝わるんだ?
『ふうん…。でも、あの子仕事サボってるけど』
「それはきっと…愛理に何かされてんだよ!」
『何かって?』
「例えば…作ったドリンク捨てられてるとか、サボらなければ何かするって脅されてるとか…」
『
幸村くん』
『……、何だい?』
なんでこんな大事な話してる時に邪魔すんだ、お前は。
会話の途中に入られると、言いたい事忘れちまうんだっつーの。
『コレ…買って来たのか?』
『いや、野良猫さんに貰ったんだ』
『うげっ、アイツかよ』
『手作りとか言ってたっけ』
『それ絶対ぇ嘘だぜ、俺この味覚えてるし。だてにケーキバイキング巡ってねえよ』
『やっぱり…。ドリンクも作れない人がそんなの作れるわけないって思ってたんだ』
「ちょ…ちょっと待て。
野良猫さんって誰の事だよ?」
まさか姫島か…?
いや、アイツがそんな媚を売る様な事をするとは思えねえ。
じゃあ他の誰か?
つっても男だらけのこの合宿でそんな事する奴なんて…
「……愛理…?」
『………、宍戸。君は姫島の誤解を解きに来たとか言ってたよね?』
「ああ、確かに言った」
『クスッ、でもね。
優衣子の事をよく知らない人にそんな事は言われたくないんだ』
「えっ…?」
『誤解してるのは、君の方だよ』
『ホントホント。俺達の方がよっぽど優衣子の事理解してるぜ』
どう…なってんだ?
立海の奴等は…合宿で初めて姫島と出会ったんじゃねえのかよ?
これじゃまるで…前から知ってるみたいな…。
『お前さんさっき優衣子があの女にドリンクを捨てられとると言ったのぅ』
「言ったけど、それは例えばの話で…」
『惜しいのぅ。捨てられとるんではなく、
氷帝に送られとるんじゃ』
「どうゆう事だよ…?」
『優衣子の作ったドリンクを小南愛理に奪われていると言う事だ』
『なんじゃ、参謀。知っとったんか?』
『いつも優衣子がドリンクを作るのに時間がかかっているのは、その為だろう』
う…嘘、だろ?
と言うことは、姫島はいつも俺達の分のドリンクも…。
半端な量じゃねえだろ…!
『前々から思っていたのですが、何故貴方達は小南さんの味方をするんでしょうか?』
「それは多分…姫島が愛理の事を虐めてると思ってるからだろ」
『しかし虐めてる優衣子さんの傷の方が多いのは何故ですか?』
「いや、どう見たって愛理の方が多いじゃねえか」
『甘いッスね〜宍戸さん。俺よく怪我するんでわかるんスけど…アレ傷じゃないッスよ?』
「傷じゃない…だと?」
『なんつーかちょっと違うんだよなぁ〜。作ったモノっぽいってゆうか』
そう言えば俺が愛理に呼び出された時、アイツ木に隠れて何かしてたような…。
もし切原が言うようにあの傷が作り物だったら…。
『お前等テニス部の信頼は随分と脆いんだな』
『全くだ。我々はそのような奴には負けない』
「ジャッカル…真田…」
悔しいが…返す言葉が見つからない。
俺だってアイツ等を信頼していた。
今まで共に戦って来た仲間だから、簡単に崩れる事はないと思っていた。
それなのに…――
今のテニス部は大嫌いだ。
小南愛理が入ってきてから、大混乱じゃねえか。
もう元の俺達には…戻れねえのかよ…?
『優衣子は、俺達の大切な仲間だから。
何があっても優衣子を信じる』
そう言った幸村は…立海の奴等は…輝いているように見えた。
今の俺達に持っていないモノを持っている。
そんな気がした。
――羨ましいぜ、お前達が…
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