第26話 頼む、間に合ってくれ!


翌日、俺は何か練習の雰囲気が違う事に気付いた。


…人数が少ない?


と言うより、仕切る奴がいねえ。

跡部の奴一体何処に行ったんだ?


待て、忍足の姿も見当たらねえ。


まさかとは思うが…嫌な予感がするぜ。

一応立海の所に行って調べて来るか。


と思ってコートから出ようとしたその時、




――ガシッ。



長太郎に腕を掴まれた。



『宍戸さん、何処行くんですか?』



どうやら、俺の嫌な予感は当たってるらしいな。

長太郎の目を見ればわかる。

何を企んでるんだよ…アイツをどうする気なんだよ?



「離せ、長太郎」

『無理です。今貴方をコートから出すことは出来ません』

「長太郎…。俺達は仲間だろ?」

『先に裏切ったのは貴方でしょう?』

「俺を…信じてはくれねえのかよ…」

『……宍戸さん…』




――バッ!


長太郎の手が緩んだ隙に思いっきり手を振り払って、俺はコートから出た。



『…ッ、宍戸さん!もう遅いっすよ、あの女は今頃…』



長太郎のその言葉に、俺の足はピタッと止まる。

嫌な予感がどんどん現実になって行く、そんな感じだ。



「今頃…、何だってんだよ…?」

『それは言えません。でもきっともう手遅れです』

「何処に居るんだよ、アイツは…」

『そんな事、俺が教える筈ないでしょう?』

「…チッ!」



俺は再び走り出す。


立海の奴等を呼びに行ってる暇はねえ。

とにかく姫島を探さねえと!










――ガッ…!


足に何かが絡まって、そのまま俺は倒れ込む。





『zZZ…』



このいびきには物凄く聞き覚えがある。

つーか、こんな所で寝てる奴なんて一人しかいねえだろ…。



「…ジロー…」

『ん…、宍戸?何してんの〜?』

「お前には関係ねえよ」



いくら無害なジローだっつっても、今の俺にとってはみんな敵。


喋れば邪魔されるのがオチだ。

何でも容易に喋るのはやめておいた方が良い。



『跡部達探してんの〜?』

「…ち、違えよ!」

『じゃあどうしてそんなに急いでんの〜?』

「急いでなんてねえ…!」



本当はめちゃくちゃ急いでて、こうやって話してる時間も勿体なくて仕方ない、なんて言えねえよな。



『もしかして…優衣子ちゃんを探してたの?』



…なんでこうゆう時にだけ余計なカンが働くんだよ、コイツは。

いつもは頭働かせろっつっても働かせねえくせに。



「俺は別に…」

『…宍戸。俺は宍戸の邪魔はしないから』

「あぁ?」

『もう…同じ事は繰り返したくないんだ。優衣子ちゃんを、助けてあげて欲しい』



いつも陽気なジローが見せる落ち込んだ表情。

どんだけ試合で無様に負けても、どんだけ跡部に怒られても、決して落ち込む事のないあのジローが。




『亜美ちゃんを大切な仲間だと思ってるのは、みんなも同じだと思ってた。でも…――』



ジローは空を見上げて、言う。



『土壇場になると脆いんだよね〜信頼なんて』



ジローの目には…涙が滲んでいた。

やがてその涙は目から溢れて、頬を伝う。



『…ずっと考えてたんだ…、亜美ちゃんの心情を…』

「…………」

『そしたら胸が熱くなって…痛くて…』

「ジロー…」

『あの時…跡部を、みんなを殴ってでも止めておけば良かった…ッ』



そう言ってジローは涙を拭う。

ジローの泣き顔なんて初めて見た。

正直どう対処して良いか、わからなかった。

上手く慰められる言葉が出てこない。



けど…これだけは言える。


ジローは俺よりも、亜美を信じていた。

それどころか、亜美を疑う様なことは一瞬たりとも無かった。



亜美が居なくなって一番辛かったのは、お前なんだよな…――










『宍戸…、行かなくて良いの?』

「何処に」

『優衣子ちゃんの所に』

あっ…!



やべえ忘れてたぜ!

結構時間経っちまった、急がねえと!

でも…何処へ行けば良いかわかんねえ…!


何処にいんだよ、姫島!




『優衣子ちゃんは多分…2号館の裏の山奥にいると思うよ』

「えっ…」

『確かな情報だよ、さっき跡部達が話してるの聞いたC』

「なんでそんな所に…」

『詳しくはわからない』

「…サンキュー、ジロー。行ってみる」

『ごめん、俺が行ってれば…』

「気にすんな。アイツは俺がちゃんと助ける」

『うん』

「じゃ、もう行くぜ。急がねえとやべえっ!」



そう言って俺は2号館に向かう。

足の速さには結構自信があるが、2号館までの距離がとてつもなく長く感じる。


なかなか着かねえ…!











頼む、間に合ってくれ!















『――めて…』

















亜美の二の舞には、させたくねえんだ…。










アイツ等にも…





同じ過ちを繰り返して欲しくねえんだよ…。

















『――めて…やめて…!』


『愛理を虐めたお前が悪いんやろ』


『違う、私は何もやってない!』


『誰もお前の言う事なんか信じねえよ』


『お願い、信じて…!私は虐めなんてしない!』


『嘘つきが、何を言うても嘘にしか聞こえへんわ』


『何で…信じてくれないの…?』


『俺はお前なんて大嫌いや』


『侑、士…』


『さっさと辞めちまえよ、クズが』


『景…吾…』











――ガッ…!!























『――…ッ!』







ようやく目的地に着いた俺が目撃したものは…



信じられない光景だった…――

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