第28話 俺は真実をみんなに伝えたい。


<慈郎side>



宍戸が優衣子ちゃんを助けに行った。

俺は、また…関わらずに逃げるだけ。




「亜美ちゃん、その傷どうしたの?」

『何でもないよ、ちょっと壁にぶつかっちゃって。…えへへ』

「ドジだなぁ〜亜美ちゃんは」





何も気付かずに人を傷付けて、




『忍足と跡部がやったんだよ…』

「…え…?」

『見たんだ、昨日…。俺、どうすれば…ッ』

「何で助けてあげないの!?」





全て人任せで、人のせいにして…




『私はみんなが好きだったのに…!』

『俺はお前なんか大嫌いだったぜ』





結局助けられずに、失った――








金輪際、亜美の友達だなんて名乗るな





冷たい目線を送られて、やっと気付いた。






「跡部、忍足…亜美ちゃんを殴るのはもうやめて」

『アーン?テメェはアイツの味方なのか、ジロー?』

「味方って言うか…俺ら仲間じゃん!」






どんだけ跡部を止めたって、どんだけ偉そうに言ったって





『やめて…!』

『お前が愛理を虐めたからやろ』

『だから、私はやってない!』






それは裏だけで、表では何も出来なかったと言うことを。



いつも芝生で寝転びながらその声を聞いているだけ。

助けてあげることなんて出来なかった。

亜美ちゃんが虐められる声を聞くだけで辛いのに、苦しいのに…。

現場になんていける筈がなかった。



結局俺はいつも、芝生で一人…涙を流すことしか出来なくて…。





『アハハッ、今日も私のオモチャ達にやられたの?』

『オモチャなんて言わないで!みんなは私の大切な仲間なの!』

『そう思ってるのはアンタだけだよ?みーんな、私の味方なの』

『私…みんなの事信じてるから!』

『馬鹿じゃないの。勝手にすれば?』






――夢の中で聞いた会話だと思った。


愛理ちゃんがそんな事を言うなんて、絶対に無いと思ってた。


でも優衣子ちゃんが氷帝に来て、それが現実だったと初めて知った。






『ちょっと、邪魔なんだよ』

『貴方こそ仕事の邪魔』

『アンタの存在より邪魔じゃないけどね?早くテニス部やめろよ』

『それは私が決める事だって、何回言えばわかるのかしら?』

『ウザイ。清水亜美よりウザイ』






亜美ちゃんの事を考えてて眠れない俺の耳に入ってきた、会話。

夢なんかじゃない、これが愛理ちゃんの本性なんだ。

そう確信した時には、もう何もかもが遅すぎて…。




今も、またこうやって後悔。


また…俺は同じように、見て見ぬ振りをするの?





『なぁ忍足。2号館の裏に呼び出さねえか?』

『そうやな、あっこなら邪魔者は来いひんし』

『…決まりだな。アイツには、痛い目にあってもらおうじゃねーか』

『当たり前や。愛理をあんな目に合わせたこと、後悔させてやるで』










…嫌だ…。







もう、同じ様な苦しみは…いらない…!


そう思ったら、足が勝手に2号館に向かってた。






















仲間が変わっていくのが怖くて、


仲間に傷付けられるのも怖くて、


それでも守りたいモノがあって、


もっと自分が勇気を出してたらって、


いつもいつも後悔するんだ。





傷付けてからじゃ遅い。


何かあってからじゃ遅い。


逃げて、逃げて、


それで失ったものは、


数え切れなくて。








俺自身、変わらなければ何も変わらない。










宍戸だって





俺と同じ気持ちなんでしょ――?






































「優衣子ちゃん!宍戸!」



勢い良く登場した俺の目に映ったもの。


それは、図体のデカイ男に両腕を掴まれている優衣子ちゃんと、片方だけ頬を赤くした宍戸。

それと…優衣子ちゃんの前に立っている跡部と…宍戸の隣でそれを見張ってる忍足。



よく見てみれば、優衣子ちゃんの顔は傷だらけで…。




「…ハッ…ハハッ、俺…また…同じ事繰り返しちゃったんだ…」

『…ジロー…』



そう思ったら涙が止まらなくて、悔しくて…。



『なんや、また裏切り者か』

『コイツは制裁を受けなきゃいけねえんだよ、邪魔すんな



跡部のその言葉に、我慢できなかった。

いつも傍観者でしかない俺が、初めて首を突っ込んだ。






「ねえ…いい加減気付きなよ?」

『アァン?』

「みんな愛理ちゃんに騙されてるんだよ!」

『ジロー、そんな事言ったってコイツ等が信じるわけ』

宍戸は黙ってて!



信じなくても良い。

俺は真実をみんなに伝えたい。


きちんとした言葉で…。



「優衣子ちゃんが…亜美ちゃんが…、今まで愛理ちゃんに何を言われてきたか、何をされてきたか、みんな知ってる…?」

『お前こそ今まで愛理が何されて来たか知ってるんか?』

「…知らないよ、何も」

『ほんならそんなこと』

「だって愛理ちゃんは何もされて無いんだから」

『………なんやと?』



傷付いてきたのは、愛理ちゃんじゃない。

彼女は無傷。

傷付いたフリが上手いだけ。


みんなは…彼女の罠に引っかかってただけなんだよ…――



「考えてみてよ。虐めてる人に、何で傷があるの?」

『それは愛理の味方が、コイツに制裁を与えたからやろ』

「違う…!だって、優衣子ちゃんは…武道習ってたんだよ?」

『――…!』



跡部と忍足は何かに気付いたような顔をする。

付け入るなら、今しかない。




「優衣子ちゃんは愛理ちゃんに、暴力を受けてたんだよ!」

『愛理がそんなことするわけ』

それは自分達で勝手に作ってるイメージでしょ!?



愛理ちゃんはおとなしいから虐められてる?

優衣子ちゃんは生意気だから虐めてる?


そんなのは跡部達が作った、ただの偏見。


真実はマニュアル通りにはいかない。









『…さっきから、ふざけたこと抜かしやがって』

「え…?」

『愛理がコイツ等を虐めたってゆう証拠はあんのかよ?』

「…そ、それは…」

『うんちくばっか並べたって、証拠が無けりゃ何にもならねえんだよ』





跡部の言葉に、俺は何も言えなかった。


俺の聞いたものが、全て伝われば良いのに。









悔しい、悔しい――






そんな想いだけが、俺の中でぐるぐると回っていた。

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