第29話 「…もう…、やめなさいよ!!」


<優衣子side>



キスを落とされて、思いっきり不機嫌になる私。

それを察した宍戸が私に言う。



『もう俺の為に我慢すんなよ!』

「…だから、私は貴方なんてどうでも良いの」



殴られたって、蹴られたって、そんなの平気。

貴方が気にすることなんて何も無いの。


ただ…キスされるのはもう御免だ。



『今土下座して謝れば許してやるぜ?』

冗談



アンタに土下座して謝るぐらいなら、私は死を選ぶね。

この勝ち誇った顔が憎い。

宍戸が居なければ今頃アンタ達ぐらい殴り殺してたのに。



『お前が愛理に手を出してなければ、俺のお気に入りに入ってたかもしれねえのにな』

「貴方のお気に入りなんて、こちらから願い下げよ」

『フンッ、強がり言ってる状況かよ』



強がってもないし、こんな状況ぐらいどってこと無い。

完全にこの人は私が氷帝に来た目的を忘れてる。


私は"復讐"を果たす為に氷帝に来た、そう言ったよね?



『ま、そんな仮の話はどうでも良い。愛理に手を出した時点で、お前は俺の敵なんだ』

「可哀想に、完全にあのお姫様のオモチャになっちゃってるのね?」

『ふざけた事ほざいてんじゃねえよ』





――ドスッ!!





お腹に鈍い痛みが走る。

流石、だてにテニスで腕鍛えて無いよね。



『やめろよ、跡部!殴るなら俺を殴れば良いから!』

『ちょっとは静かにせい』

『離せ忍足!!』



宍戸、アンタが傷付いてはいけないの。

亜美が目を覚ました時、隣にアンタが居なくて誰が居るの?

一番最初に、亜美に謝らなければいけないのはアンタなんだよ?



『何でこんな奴を守るのか、俺にはわからねえぜ』



そう言って跡部は私のお腹にもう一発。

跡部のパンチを連続で二発も食らえば流石の私もキツイ。



眉間にしわを寄せ、苦しんでいると






















『優衣子ちゃん!宍戸!』




また余計な奴が来た。


ちょっと意識が朦朧とするけど、芥川が何か反論している事だけは分かる。

私の味方をする気…?

改正したのか何なのか知らないけど、コイツ等に何を言っても無駄。

完全にお姫様の術に掛かってるんだから。









『違う…!だって、優衣子ちゃんは…武術習ってたんだよ?』



ようやく意識がハッキリとしてきた頃に聞こえてきた言葉がこれ。


何故芥川が知っているんだろう?

あ、亜美が教えたのか…。

芥川の前では私の話をたくさんしてたみたいだし。

一応、仮にも、友達だったみたいだしね?



『…さっきから、ふざけたこと抜かしやがって』

『え…?』

『愛理がコイツ等を虐めたってゆう証拠はあんのかよ?』

『…そ、それは…』

『うんちくばっか並べたって、証拠が無けりゃ何にもならねえんだよ』



馬鹿だな、この子は。

証拠も何も無しでこんな事を言うなんて…。

これが裁判だったら確実に負け、だね。



「…この男の、言う通りだわ…」



声を出すとまだ少しお腹が痛む。

口の中も血だらけで、喋ると鉄の味がして気持ち悪い。


それでも私は喋り続ける。



「実際、私の体の傷は…小南愛理の味方から受けたものもあるわ」

『…な、なんで…?だって優衣子ちゃんならそんな相手くらいどってこと』

「だから…そんな奴等に何されても、痛くもかゆくもないって事よ」

『え…』

「本当の痛みを知らない貴方達には、分からない事ね」



本当の痛み、それは私も亜美も受けた事のある痛み…。

半端なものじゃない。

毎日眠れなくて、毎日泣き腫らして…。

肉体的な痛みなんてどうってことない私達なのに、その痛みには負けた。


でも私は…亜美に、ブン太に、そして立海テニス部のみんなに助けて貰ったの。



今亜美を助けてくれる人は、一体何人居る…――?








『…オイ、コイツを離せ』

『え…あ、ハイ』



跡部がそう指示すると、ボディーガード達は私の手を解放する。


どうゆうつもり?

改正した、なんて…コイツに限ってそんな事あるわけ無い。



『跡部、何すんのや』

『コイツは痛みを感じねえんだろ?だったら何しても無駄じゃねえか』

『せ、せやけど解放したら…』

『だから代わりに、アイツ等をやれ



跡部は顔をクイッと、宍戸と芥川の居る方向に向ける。



「…仲間を殴る気?」

『だってそうでもしねえと、お前に傷は付けられねえだろ?』

「この人達を傷付けたからと言って、私が傷付くとでも思ってるの?」

『さぁな。でも宍戸は…清水亜美の彼氏なんだろ?』

「だから何だって言うの。宍戸は亜美を裏切ったの。…憎むべき人なのよ?」

『ククッ、そうであって欲しいよな?』

「――ッ…」



何が言いたいの?

私は宍戸が憎いの。

勿論芥川だって…。

だからこの人達がどうなろうと、私の知ったこっちゃ無い。


関係ないんだよ…!






『ほんなら、遠慮なくいかせて貰うで』



忍足は宍戸を殴る、蹴る。

その手足は止まる事なんてなく…。

芥川は止めに入るが振り払われてしまう。



『ジロー、お前は邪魔だ』



そう言って跡部は芥川に近付き、顔面にパンチを入れる。

芥川と宍戸はは抵抗する気を起こさない。

それが余計に見ていられなかった。




友達だから、仲間だから、手を出せないんでしょ…?




まだコイツ等を信頼してるから…


だから抵抗しないんでしょ?




そんな純粋な心を利用して何が楽しいの…?



貴方達が憎いのは私だけの筈…。


なら私だけを攻撃すれば良いじゃない…。












やめて…見たくない…。














仲間を傷付ける姿なんてもう





見たくない――

























「――…もう…、やめなさいよ!!




気付けば大声を出していた。

二人はピタッと止まって私の方を見る。



『まだまだ、こんなもんじゃねえぜ』

『愛理の気持ちを考えたら、こんな奴…』



忍足はまた一発宍戸を殴る。

それを見て私は忍足に近付こうと前進する。




――ガシッ!




しかしボディーガードの男が私を止めようと掴む。





けれど掴んだのは腕じゃなく…ブレスレット。


私は思いっきり目を見開いた。






「駄目…ッ」








と言いかけたその時…

















































――ブチッ…






































ブレスレットが切れて地面に落ちた。













『これ、やる』



「何コレ?」



『ブレスレット。部員みんなでお前の為に買って来たんじゃ』



「…私の、為に?」



『お前さんの誕生日、昨日じゃろ?』



「あ、そう言えば…























――ありがとう…













































――プツン…




ブレスレットが切れた様に、私の頭の中でも…何かが切れた。

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