第30話 もう後戻りは出来ないな。


<幸村side>



朝から優衣子の姿が見当たらない。

おかしいな、いつもなら此処でドリンクを作っている筈なんだけど…。



「ねえ、みんな。優衣子見てない?」

『優衣子?まだ部屋で寝てんじゃねーの?』



丸井がそう言うので部屋を覗きに行ってみる。

コンコン、と軽くノックをしてみたり、"優衣子"と呼びかけてみたりするが、返事がない。



「入るよ?」



そう言って部屋を開けると、そこには大量の荷物のみ。

優衣子の姿は無かった。



「何処に行ったんだろ…」



そう呟いていると、前から蓮二が歩いてきた。



「蓮二、優衣子知らないかい?」

『優衣子?今朝早く部屋から出て行ったみたいだが…居ないのか?』

「うん、一応優衣子が居そうな所を全部調べてみたんだけどね…」

『なら一回コートに戻ってみるか。もしかしたら居るかもしれん』

「そうだな」






俺は蓮二とコートに向かう。

しかしそこにも優衣子の姿は無かった。




『優衣子がいない?』

「何処を探しても居ないんだ」



真田に相談してみても、仁王や丸井に聞いてみても、知らないと首を横に振る。



『あの、幸村部長』

「何だい、赤也?」

『敵陣に聞いてみたらどうッスか?』

「敵陣に…?」



もし敵陣が優衣子の居場所を知っていたら…それはきっと良くない事が起こっているだろうな。

だとしたら、今こうして優衣子を探している時間は無い。



『あのマネージャー(偽)に聞いてみたらどうじゃ?』

『それが一番良いと思うぜ?アイツ幸村くんにメロメロだしな』



正直野良猫さんには関わりたくないんだけれど…。

仕方ない、優衣子の為だ。


溜め息を飲み込んで、俺達は敵陣のコートへ向かった。





『あ、幸村くん』



早速ターゲットを見つけてしまった。

アレ?視力落ちたかな…、尻尾が見えるんだけど。



「ねえ、こっちのマネージャーさん知らない?」

『姫島さん?』

「そう。ちょっと話があるんだけど、なかなか見つからないんだ」



いつも仕事してる場所にいないから探してる、なんて言えないしね。

あくまで俺達は優衣子を毛嫌いしている設定。

自分達で勝手に設定を変えてはいけない。



『あ〜…えっと…』



野良猫さんは言葉に詰まっている。

今こそ、俺の出番かな?



「お願い、教えて?大事な話なんだ」



俺は真っ直ぐ野良猫さんを見る。

勿論焦点はいつも同様、微妙にずらしてるけどね。

でなければこんなことは絶対に出来ない。



『わかりました、貴方達は姫島優衣子の敵ですもんね』



敵なわけがない、寧ろ味方…なんて言ったら教えてくれないんだろうな。



「うん、そうだよ」



そう言わざるを得ない場面だった。

それから野良猫さんと共に優衣子の所へ向かおうとしている最中に、



『愛理先輩に何するんですか?』

『そうだぜ、愛理を離せ!』



と、さっきまでコートで打ち合いをしていた全員が俺達の後を追いかけてきた。

どうやら俺達が野良猫さんを何処かに連れて行こうと考えているように見えたらしい。

まぁ、大人数の男が女の子一人を連れて何処かへ行こうとしてるいるんだからな。

そう見えるのも可笑しくはない。


君達はいつも優衣子にしてきた事なんだろうけど、俺達はそんなことはしないよ。




『みんな、安心して。この人達は私の味方だから』

『味方?』

『うん。姫島さんの居場所を聞かれたから、教えてあげるだけ』

『でも今跡部先輩と忍足先輩が…』

『…大丈夫だよ。姫島さんが謝ってくれてたら何もしてないよ。だってそうゆう約束でしょ?』



優衣子が…謝る…?

そんな事する筈がないじゃないか。

忍足に跡部…何だか嫌な予感がするのは俺だけだろうか。



「とにかく、行こう。君達もこの子が心配なら付いてくれば良い」

『わかりました』

『俺も行くぜ!』



そう言って鳳・向日・樺地が俺達の後に付く。

優衣子に何かあったら…と言う焦りが、俺達の足を速くする。

それでもなかなか着かないことに、焦りを通り越して怒りを感じた。



早く、早く…優衣子が危ない。



みんなの想いは共通。

けれど此処で走ってしまえば心配していることが丸分かり。




走る事も出来ないまま、俺達は目的地へ…――





















『「――ッ…!?」』





きっと此処に来たみんなが驚き、言葉を失っただろう。

自分の身の安全の為にしか暴力を振るわない優衣子が…



死ね



黒のスーツを着た男の人達をボコボコに。

跡部と忍足も言葉を失い、呆然とそれを見ているだけだった。



『幸村、止めんと死ぬんじゃなか?』

「そうだね…。みんな、手を貸して」



そう言うと、俺達全員で優衣子を止める。

ハッキリ言って全員でもちょっとキツイくらい、優衣子の暴走は半端無かった。



『離して…離して!!

「それぐらいにしないと、この人達死ぬよ?」

『死ねば良いの…だってコイツ等、私のブレスレットを…!!』

「ブレスレット…?」



下を見て探すと、そこには千切れたブレスレットが落ちていた。

そのブレスレットは紛れもなく、俺達が優衣子の誕生日にあげたブレスレット。



『私の宝物を、コイツ等は壊したの…!!だから殺す!!』



このままでは俺達にも限界が来る。

また買ってあげる、そう言えば少しは落ち着くんだろうけど…。

此処で仲間だとバラして良いんだろうか?



…いや、今はそんな事なんて考えていられない…!






優衣子!そんなものまた買ってやるじゃき、少しは落ち着きんしゃい!!


『「…!!」』



俺が発言するよりも先に、仁王が優衣子にそう告げた。

それと同時に、周りに広がるこの沈黙。

その重い沈黙を破ったのは優衣子で。



『…ホン、ト…?』



今まで暴れていたのが嘘のようにピタッと止まる。

もう後戻りは出来ないな。

そう思った俺達は優衣子を解放し、敵を睨む。



『どうゆう…事だよ?』



跡部と忍足はまだ頭が混乱しているようだ。

勿論、他のみんなも。



「皆さん…うちの大事なマネージャーを虐めてくれて、どうもありがとう



俺のその言葉が、みんなの縛られた心を解放したみたいだ。



『うーっし!やっと終わりッスか!』

『ホントホント、疲れたぜぃ』

『よくも優衣子を虐めてくれたよな』



赤也、丸井、ジャッカル



『私も、このような事はもう懲り懲りです』

『しかし氷帝がこんな事をして遊んでいたとはな』

『氷帝たるんどる』



柳生、蓮二、真田


お疲れ様。




これでやっと、優衣子を守れるね?

- 30 -

*前次#


ページ: