第31話 ムカついた、許せなかった。


<優衣子side>



「皆さん…うちの大事なマネージャーを虐めてくれて、どうもありがとう」




何だか凄い事になってしまった。


そんな事に今更気付く私だった…――

















#mtr11#

(第四章〜悪を示す証拠は十分〜)











誰が悪い?


それは勿論私しか居ないんだろうけど…こんな事って有りですか。

氷帝陣の目を覚まさせてからバラす予定だったのに。

計画が丸潰れになってしまった。


いや、嘆いたってもう後戻りなんて出来ない。

私がみんなを守るしかない!




『優衣子先輩、大丈夫ッスか?』

「うん、これくらい平気。それより、あの二人を…」



私は芥川と宍戸の方を見る。

それに釣られてみんなも同じ方向を見る。



『ひ、ひでぇ…』



思わず口に出すブン太。

二人はぐったりと倒れていて動かない。



『仲間なんだろ?よくこんな事が出来るぜ』

『貴方達には甚だ見損ないました』



ジャッカルと柳生も"信じられない"と、驚きを隠せないようだ。

仁王は何を考えているのかわからないけれど、倒れている二人をじっと見つめている。

真田は眉間にしわを寄せて、溜め息をひとつ。


それより怖いのがやっぱり…




『ねえ、ひとつ質問しても良いかい?』



精市だった。


心の奥を読ませないこの雰囲気。

笑っているのに黒いオーラが出ているこの笑顔。


私達でさえ怖いのにこの人達に耐えられる筈がない。




『…なんだよ…?』



流石の跡部景吾も精市の迫力には敵わない様だ。

足が後退りしている。



『優衣子も、芥川も、宍戸も怪我をしているのに、何故君達だけ無傷なんだい?』



それは素朴な疑問でもあり、複雑な質問でもあった。


芥川と宍戸は手を出さなかった。

いくら体格的に不利だと言っても、抵抗すれば少しくらい傷が付くはず。

それでも付いていないのは…仲間に対する芥川と宍戸の想い。

精市はそれをこの二人に気付かせたいのだと思う。



『コイツ等が弱ぇからだろ』

「…………」



この言葉に、物凄く腹が立った。









――バシッ。




私は跡部の頬を叩いた。

軽く叩いたつもりだったのだけれど、赤く腫れ上がってしまった。

それでも関係ない、と私は跡部の胸ぐらを掴む。



『何すんだよ』

「アンタ馬鹿じゃないの?」

『…アーン?』

弱いのはアンタ達でしょ?



私はこれでもか、と言わんばかりに跡部を睨む。



ムカついた、許せなかった。

コイツ等は今…歪みきった世界にいる。



「芥川と宍戸が手を出さなかったのは…アンタ達を信頼してたからでしょ?」

『信頼…?ハッ、コイツ等は裏切り者だぜ?』

裏切った奴が正々堂々とこんな所に来るか!



氷帝の生徒になって初めて、私は怒鳴った。

私の激変ぶりに周りは驚きを隠せないみたいだ。

特に氷帝陣達は言葉も出ないくらいビビっていた。



「伝われば良いのに、全部…」



亜美が受けた痛みも、此処に倒れている二人が受けた痛みも…全部…。

こんなに胸が苦しいのに、何で涙が出ないんだろう?

伝える術は涙しかないのに、何で…――











『優衣子、落ち着いて。俺達がきちんと、伝えてあげるから』

「精市…」



精市に微笑まれ、私は跡部から手を離す。

そして静かに精市が話し出す。



『まず優衣子と俺達の関係だけど、実は優衣子は俺達のマネージャーなんだ』

『…ッ!?』



その言葉に驚かない者はいなかった。

立海のみんなは頷いているだけだったけれど、氷帝陣は余計に頭が混乱したみたいだった。



『まぁ一言で言えば、大事な仲間…かな』

『仲間…だと?』

『そう、君達みたいに細い糸で結ばれてるような軽い関係じゃないってこと



精市は黒い笑顔で笑う。

それがカンに障ったのか、忍足が急に口を開きだした。



『お前らに俺達の何が分かるって言うんや?』

『分かるよ。だって俺達は、仲間をそんな簡単に殴れないからね』

『――ッ、これは…コイツ等が裏切ったから…』

本当に裏切ったのは君達の方だろ?



忍足が精市を睨み付ける。


精市もまた、忍足を睨む。



『俺達は何も裏切ってへん』

『これだけやっといて、よくそんな事が言えるな』



精市は忍足を睨んでいた目を倒れている二人に向け、また忍足に戻す。

それに気付き、忍足は倒れている二人を見つめる。


そして、精市は思い出した様にこう言った。



『あ、そうそう。うちの丸井もお世話になったようだね』



その言葉にいち早く反応したのは鳳。

目をブン太の方に向けると、ブン太はニヤリと笑った。



『アレは結構痛かったぜぃ。おかげで頭に包帯ぐるぐる巻き』

『中体連に訴えれば、このテニス部はどうなるかな?』



幸村の脅しに鳳は大きく震える。

それもその筈。

自分の行動のせいで、氷帝テニス部は出場停止になるかもしれない。

今までの自分達の努力は全て水の泡。


鳳は一番恐れていた事が起きそうな予感がした。



『じゃ…じゃぁ…姫島優衣子がやった事は、どうなるんですか…?』



絶体絶命の危機に立った鳳が、ニヒルな笑顔を浮かべて私を見る。



私のやった事?身に覚えがない。

ボディーガードをボコボコにしたのは正当防衛だし、氷帝の生徒に背負い投げをしたのも正当防衛。

それ以外は暴力を振るっていないし、思い当たるのは今さっき跡部を殴った事だけ。

しかしそんなのは暴力の内には入らない。



だったら、私のした事って一体…何なんだろう…?




『優衣子が何をしたんだい?』



精市は優しく鳳に問いかける。

しかし優しいのは顔と声だけで、心はドス黒い想いでいっぱいな筈。

そんな精市の想いを知ってか知らずか、鳳はとんでもない事を言い出した。



『愛理先輩に暴力を振るった事ですよ』

『はぁ?』



鳳の言葉に、思わず赤也の口が開く。

赤也は"ヤバイ"と言って口を塞いだが、私達も赤也と同じ思いだった。





鳳長太郎、私は今貴方に聞きたい。



小南愛理の何処が傷付いているの――?








『フフッ。その子の正体、教えてあげようか?』



精市が何かを伝えると、赤也とブン太は何処かへ走り出した。


何分か経って戻ってきた彼らの手には水を汲んだバケツ。



そしてそれを精市が受け取ると、

























――バシャッ!!








小南愛理にぶっかけた。

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