第32話 私は貴方の事が好きなの。


<愛理side>



ねぇ、幸村くん…


貴方が姫島優衣子の仲間だなんて…嘘でしょ?


立海のみんなだって、あれだけ悪口言ってたじゃない?



この女は誰…?


私の仲間を奪ったこの女は…一体誰なの…――?












――バシャッ!!



「冷た…ッ!!」



まだ頭の整理が出来ていない私に冷たい水がかかった。

何が起きているのか全く分からない。



『愛理…!!』



侑士が私の所へ駆けてきてくれる。

良かった…貴方はずっと、私の味方だよね…?



『愛理に何するんや!?』

『ねぇ、おかしいよね?』

『おかしいんはお前やろ!?水なんてかけよって!』

『…ごめん、優衣子』





――バシャッ!!



そう言って幸村くんは姫島優衣子にも水をかける。

なんだ…やっぱり幸村くんは、姫島優衣子の敵なんだね。


やっぱり、私の味方なんだよね…?






『痛っ…!!痛い、痛い!傷に染みる!!』

『「…!!」』



姫島優衣子が急に痛み出した。


何で…?




「あ…」



その時私は気付いてしまった。



『本当に怪我してる人なら、こうゆう反応する筈だよね。でも…愛理ちゃん、君は"痛い"よりも"冷たい"って先に言っただろ?』

「違う…私は…」



崩さないで、私の証拠を。


壊さないで、私の信頼を…。



『愛理の傷は結構前に付いたもんや、痛みを感じひんかってもおかしくはない』

「侑士…」



貴方やっぱり最高だよ。

一生、私のオモチャでいてよね…?



『そうか、なら…』



そう言って幸村くんは私の頬に手を触れる。

そしてニコッと微笑む。

その行動に私は顔を背ける事も出来なかった。









き、消えた…!?

「え…?」



跡部くんの声でハッと我に返る。

私は思わず自分の顔に手を触れ、恐る恐るその手を目の前に持ってくる。



「…ッ!!」



すると手は青くなっていた。

今まで傷を作る為に使っていたメイクが…落ちた。


傷が偽物だと…みんなにバレた…。



『本物なら…。優衣子、手を』

『え…?痛っ…痛い痛い痛い!痛いってば!!

『ホラ、どれだけ擦っても落ちないだろう?』



やめて…もうやめて…。




『おい、鳳。優衣子先輩を虐めたら…俺が許さねえぜ』


『…切原…ッ』













どうして…?











『跡部。お前がこんな下らない事をして優衣子を虐めていたとはな。幻滅だ』


『だからいつまで経っても、俺達に勝てないのではないのか?』


『真田…柳…!』












どうしてみんなそんな女の味方をするの…?










『お前さんも、真実を見抜けないとは…呆れて物も言えんぜよ』


『忍足君、伊達眼鏡を掛けるのはもうやめたまえ』


『仁王…柳生…。クソッ…!!』














おかしい…














『どうした?向日。何も言えねえ、ってか』

『うるせえ、ジャッカル…!!!』













絶対におかしい…――
















「…ごめん…なさいっ…っく…」




私は得意の涙を流す戦法で、謝る。

この謝罪は、アンタに対してのものじゃないよ?

姫島優衣子…。




「確かに顔に付いた傷は偽物なの…、本当の傷は…全部お腹や太ももに付いているの…」

『…なら、見せてみなよ?』



姫島優衣子は勝ち誇った笑みで私を見下してそう言った。

悔しい…でも、私はまだ負けを認めたわけじゃない。



「…無理だよ、みんなの前で…」

『否定するって事は、それも嘘って事になるよ?』

「…そう、だね…。疑われても仕方ないと思ってる…」

『何言ってんだよ!俺達は愛理を疑ったりなんてしねえぜ!?』



岳人が乗ってきた。

まだ、私の思い通りになる。

そう確信したら笑みが零れそうになった。



『優衣子…今日はもう戻ろう。芥川や宍戸の手当もあるし、何より優衣子の手当もしなければいけないしね』

『……わかった』







幸村くんが私に背を向ける。







待って、行かないで…。









私は貴方の事が好きなの。









誰にも渡したくないの。









貴方だって、あんなに優しくしてくれたじゃない…?













私から、離れないで…――



















「幸村くん…!!」





幸村くんは私の方を見る。


良かった、私の声…届いてた。









「幸村くん…私、貴方のこと…」


『愛理ちゃん』









もっと、名前を呼んで。





私がドキドキするのは、貴方の声だけ。






貴方だけなの…。












『俺、君の事…












大嫌いなんだ























「――えっ…」






























一瞬、時間が止まった。






心臓が止まった。








そんな気がした。











私はその場に崩れ落ちる。


そして、泣き叫ぶ。



この涙は本物。



勿論、この憎しみも…。






姫島優衣子…絶対に、許せない。



どんな手を使ってでも、アンタを地獄に陥れる――

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