第33話 「失って初めて気付くんだ」


<ブン太side>



隣の部屋で柳に手当して貰ってる優衣子を待つ俺と幸村くん。



「それにしても幸村くんのあの一言、最高だったぜ!」



なんて今日のことを振り返ってる俺。

まさかあそこで幸村くんが"大嫌い"発言をするなんて思ってもなかった。

ホント、期待を裏切らないっつーか、なんつーか。



『優衣子を虐める奴らは誰でも大嫌いだよ。勿論、彼らもね』



そう言った幸村くんの眼差しが真剣で…、俺は何も言えなかった。

しばらく沈黙があった後、幸村くんは俺に言う。



『なんで優衣子は泣かないんだろう?』



この質問には少し戸惑った。


優衣子が泣かなくなったのは、多分俺のせいだから…――



「泣かねえよ、アイツは。…何があっても」



優衣子をそんな風にしたのは、俺。

全ては俺が原因なんだ。

だから俺は、何が何でも優衣子を守らなければならない。


自分が犯した過ちを、償う為にも…。






『丸井、全部…俺に話してくれないか?』

「えっ…」



どうして幸村くんは俺に隠し事をさせてくれないのか。

俺も上手く誤魔化せば良いんだけど…幸村くんの目を見るとそれが出来ない。

真実だけを吸収していくような幸村くんの目には…勝てないんだ…。







「――優衣子…さ、小学校の時…虐められてたんだ」



俺がそう告げると、幸村くんは少し驚いたようだった。

今小南愛理に復讐を誓っている優衣子が過去に虐められてたなんて、誰も想像出来ねえよな…。

でも…それは紛れもない事実なんだ。



「あの頃の優衣子は、"周りは全て敵"って目をしてて」



でも、それでも…段々俺達に馴染んできた。

アイツも笑えるようになって、"友達"という存在を心で感じたある日…


事件は起こるんだ。












『ブン太、一緒に帰ろ』

「おう!」

『…お前らさ、ホント仲良いよな〜』

『まさか、付き合ってんじゃねえの!?』




よくあるガキのからかい。

付き合うとか、異性とか、そんな事に興味を持ち始めた子供達の会話。


軽く流しとけば良かったんだ。


それなのに俺は…――





「違えよ、うっせえな!俺はコイツのことなんか、大嫌いなんだよ!!

『えっ…』




そう言って、優衣子を傷付けてしまった。

今ならあの時の優衣子の表情が、俺に何を訴えていたのか…痛い程分かる。


それからというもの、優衣子はクラスでからかいの標的になってしまった。




『ブン太はお前の事何とも思ってねえんだってさ?』

『お前はどうなんだよ?』




優衣子に質問攻めするクラスメイト達。

次第に優衣子の友達の女の子達も便乗して、優衣子をからかうようになった。


そして、からかいは本格的な虐めに…。



『お嬢様のくせに、何でこんな所に居るの?』

『澄ました顔して、偉そうに』

『私達を馬鹿にしてんの?ウザイ

『もうこの学校から消えてよ

『いっそのこと、死ねばいいのに




"ウザイ""消えろ""死ね"は、当たり前の言葉になっていた。

優衣子は毎日毎日、必死に耐えて…頑張ってたんだ。

コイツは強いから大丈夫だ、俺はそう思ってた。



でもある日、見てしまったんだ。


優衣子が泣いている姿を…。





『――…ッ…っく…』



必死に声を殺して、誰もいなくなった教室で…一人、悲しげに。

声をかけてやるべきか、迷った。


でも、俺にそんな権利はなかったんだ。

自分が蒔いた種なのに、俺はアイツを助ける事が出来なくて。

どうする事も出来なくて…。

自分が情けない人間に思えて、悔しかった。

そんな時…俺に勇気を与えてくれたのが、清水だった。



『清水亜美です。ヨロシク!』



一目見て、独特なオーラを感じた。

清水には人を引き寄せる、そんな魅力があった。



『アンタ達そんな卑怯なやり方してないで、正々堂々と戦ったらどうなの!?』



清水はそう言った。

勇気のある奴だって、本当にそう思った。



『優衣子!私がアンタを守ってあげるからね!』



心底清水が羨ましかった。

俺にもそんな勇気があれば…、そう思ってる内に、俺の心の中でも変化が起きていた。






『お前なんか死ねよ』

『目障りなんだよ』




いつも通りの光景。

もう…我慢出来なかった、見ていられなかった。

そして俺は覚悟を決めたんだ。




「優衣子は…俺の大切な友達なんだよ!虐めんじゃねえ!!



俺がそう叫ぶと、教室は"シーン"と静まり返った。


それ以降今まで優衣子を率先して虐めてた奴等は、優衣子に手を出さなくなった。

勿論クラスの女子も、その他の奴等も。


その後清水が転校して、優衣子の周りにはまた、友達が集まるようになった。




『ブン太…ありがとう』



そう言って笑った優衣子の顔が、何よりも嬉しくて…。

その笑顔を守って行こう、って思った。






でも、そう誓った時には既に手遅れで。




優衣子は涙を流さなくなっていた。

どんなに苦しくても、どんなに辛くても。

そんな優衣子を見て、俺はようやく気付かされたんだ。



自分の犯した過ちに…。



俺があの時あんなことを言っていなければ…、何度も後悔した。



「幸村くん。人って言うのは…失って初めて気付くんだ」




大切なものに…――





「俺が、優衣子の涙を奪っちまった」

『…そう、だったんだ』



幸村くんはそう呟く。



『俺は、優衣子から"お嬢様ってことで虐められた"って聞いたけど』

「優衣子は勘違いしてるんだ。虐められ始めた時期と、お嬢様ってバレた時期が被ってたからな」

『どうしてバレたんだ?』

「あー…なんか先生がポロリと言っちまって、ぶわっと」




"優衣子ちゃんはお金持ちの子なのよ"なんて先生から告げられた時は俺だって驚いたぜ。

それがトラウマになったのか知らねえけど、優衣子は自分の地位を隠す事にしてたけどな。



『クスッ、丸井が俺達にポロリと言っちゃったのと同じだね』

「………」



そう、俺がバラしちまったんだよ…。

地獄耳の奴等には聞き流すなんて言葉はなくて…結局レギュラー全員に知られたんだよな。

重ね重ね、優衣子には悪い事したぜ…。



『丸井、俺達の役目はまだ終わりじゃない。寧ろ…始まったばかりだ

「わかってる」

『何が何でも、優衣子を守るんだろ?』



幸村くんは、俺に優しく微笑みかける。

俺は拳を握って答える。



勿論!



優衣子には指一本、触れさせない。


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