第34話 『証拠は揃った』
<優衣子side>
「痛っ…つ…!」
『我慢しろ、優衣子』
体に付けられた傷を手当てしてくれる蓮二。
手当てしてくれるのは有り難いんだけど…
もうちょっと優しくは出来ないんだろうか…。
『まったく、何故此処まで無茶をするんだ』
「別に、痛くないもん。こんな傷」
なんて強がりを言ってみるが、やっぱり痛くて。
消毒される度に"痛い"と叫んでしまう。
それは勿論、私だけで無く…。
『痛い!痛い!
痛いーっ!!』
隣にいる芥川も、目に涙を浮かべながら叫ぶ。
その隣にいる宍戸も、叫びはしないものの、時々顔を歪ませる。
身も心もボロボロだろうに…よくやるよ。
『芥川くん、動かないで下さい』
『あぁ〜、ごめんごめん。でも痛くて』
「………」
そんな痛い思いをしてまで、どうして私を助けに来たの?
まぁ…助けられるどころかお荷物になったのだけど。
「何でわざわざ殴られに来たんだか」
私がそう呟くと、芥川も宍戸も、動きを止める。
そして芥川は私に言う。
『俺は、もう…誰も傷付いて欲しくなかったから』
いつもは見せない悲しげな表情で、私の顔を見つめる。
宍戸は傷付いた自分の腕を見ながら呟く。
『それに、姫島は亜美の大切な親友だしな』
小さな声だったけど、私にはちゃんと届いた。
亜美に対する想いも…。
私は貴方達を…信用しても良いんだね…?
「馬鹿だよね、ホント」
『お前さんが言える事じゃなか』
「アハハ…確かに」
立海のみんなの顔を見ると、何だか安心して…顔が緩む。
そんな私の顔を横からまじまじと見る芥川と宍戸。
『姫島って、そんな顔も出来んのかよ?』
宍戸が不思議そうに言う。
そんな顔も何も、氷帝に居る時の私が作った顔なんだけど。
『分かってないなぁ。これでこそ、優衣子先輩ッスよ!』
『そうですね、外見は少し変わりましたけど』
「いやぁ、中身も結構変わったよ?」
認めたくは無いけど、悪い方向に。
でも…まだ自然と笑える私がいる。
それは立海のみんなが居てくれたからなんだよ?
『あのよ、聞き忘れてたけど…お前らは姫島とはどうゆう関係なんだ?』
またまた宍戸が不思議そうに尋ねる。
真田は眉間にしわを寄せて一言。
『優衣子は我が立海テニス部のマネージャーだ』
その言葉がやけに嬉しく感じた。
仲間なんだ、私達。
そう思うと、心が軽くなった気がした。
それと同時に想うのは、やっぱり亜美の事。
もし私がこの人達に裏切られたら…?
そりゃ泣きたくもなるし、死にたくもなる。
今の私には、亜美の気持ちが痛いくらいに理解出来る。
自然と手に力が入り、顔が強張る。
『優衣子、お前の気持ちは分かるが…もう少し抑えろ』
私の変化に気付いた蓮二が言う。
まだ爆発させて良い時じゃない、蓮二の顔が私にそう言っているように感じた。
『合宿に来てからの小南愛理の悪事は、全て隠しカメラで録画してある』
蓮二はニヤリと私に笑いかける。
隠しカメラなんて、中学生のお小遣いで買える物じゃない。
増してや何台もとなると、テニス部全員からお金を集めたって買えない。
蓮二のやる事は半端じゃなく、凄い。
そう感じざるを得なかった。
『だがしかし…清水亜美を虐めたと言う決定的な証拠は無い』
蓮二はそう言って考え込む。
必要無いよ、そんな物。
実際小南愛理は亜美を虐めてたんだし。
でも…どうしても物的証拠が欲しいと言うのならば…
「あるよ、ここに」
私は隠しカメラの映像が入ったデータを鞄から取り出す。
氷帝に入学する前に予め仕掛けておいた隠しカメラの映像。
合宿に来る前にこっそり回収した。
だから入っているのは合宿まで。
だけど、蓮二が合宿から今までの事を撮っていたのなら…
繋がっちゃうね、全部。
『確認しても良いか?』
「どうぞ。そのファイルの4個目と13個目とか、特に分かり易いよ」
蓮二はパソコンにデータを差し込み、確認する。
そしてまず、私が指定した4個目のファイルを開く。
「貴方だけじゃ頼りないからじゃない?榊先生はよく分かっていらっしゃるのね」
『…チッ。良いから、アンタは仕事だけやってれば良いんだよ』
「そうやって、今まで誰かに押し付けて来たの?」
『そうよ。アンタが来る前に清水亜美って女がいたんだけど、アイツも私にとって都合の良い女だったわ』
「そんなこと、ベラベラ話しちゃって良いのかしら?みんなは思い出したくない様だったけど?」
『そりゃ、みんなの中ではアイツは私を肉体的にも精神的にも追い詰めた、悪者だからね』
「…まるで悲劇のお姫様ね」
『姫?アハッ、そうね。みんなにとって私はお姫様』
「私にはネズミを食べ尽くす野良猫にしか見えないけど」
『……ッ…、なんですって?』
そこで蓮二は停止ボタンを押す。
小さく頷くと、今度は13個目のファイルを開いた。
『ねぇ、アンタって何でそんなに清水亜美に拘るわけ?』
「………」
『あんな馬鹿で偽善者な奴に、どんな思い入れがあるっていうの?』
「………」
『そう言えば、自殺未遂なんだって?いっそのこと…死ねば良かったのに』
今度は停止するのが早かった。
"死ねば良かったのに"、この言葉で十分だと思ったのだろう。
蓮二はデータをパソコンに保存して、私に返す。
そして一言、
『
証拠は揃った』
そう、私に告げた。
もうすぐで…あのお姫様が演じていた劇が終わるんだ。
そう思ったその時。
『許せねえ…』
「…は?」
隣で怒り狂っている二人を見てしまった。
何だかヤバイんじゃないか?
そうは思っていても、むやみやたらに二人に触ると怪我が悪化してしまう。
なんて余計な事を考えてしまって、触れる事が出来なかった。
そして二人は部屋を飛び出る。
「ちょ…何処行くの!?」
と質問する私の声も届かなくて。
私は二人の後を追いかける。
この時、
立海のみんなから目を離した事を…
本当に後悔した――
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