第35話 『俺達は…仲間じゃないの?』




「ちょっと、待ちなさいって!」



私は二人の後を追いかけながら、叫ぶ。

しかし相手はテニス部の男。

追いつける筈も、私の声が届く筈も無く、ただただ距離は遠ざかって行くばかり。

1号館の外に出てようやく…彼らの目的地が分かった。



氷帝テニス部が居る、2号館…――




駄目だ、止めなくては。

そう思い、ひたすら必死に走る。



足には自信があるのに…どうして、こんな時だけ遅く感じるんだろう?




「――ッ…!!」




彼らが2号館に入る。

ヤバイ、非常にヤバイ状態だ。


嫌な予感が胸の中で騒いでいる。

止まれ、止まれ…そう願っても止まらない。


まるで敵に向かって走っていく…彼らのように――





オイッ!愛理は何処だ!!



扉が乱暴に開く音と共に、宍戸の怒鳴り声が聞こえる。

此処で計画を無駄にしては駄目だって、どうしてわからないの…?

そして私も宍戸達が居る部屋へと辿り着く。




『裏切り者達がゾロゾロと、何の用だって言うんだ?』



跡部は冷静に言葉を発する。

今彼らを煽ってはいけない。

骨折どころじゃ…済まないかもしれないよ…?



『許せない…小南愛理が…どうしても…ッ!』



芥川のこんな怒り狂った姿は初めて見た。

目付きが物凄く…鋭い。



『どうしたんだよ…お前ら…』

『またこの女が何か吹き込んだんちゃう?』

『良いから愛理を出せってんだよ!!!』

だから落ち着きなさいって!!



聞かせるんじゃなかった、こいつ等に。

着火剤になれば…なんて思ってたけど…。

まさか燃え上がってしまうなんて。


私が思ってる以上に、

二人の亜美に対する想いは大きかった――




『愛理は此処にはいねぇぜ?』

『なら何処に居んだよ!?』



宍戸は跡部の飛び掛かり、胸ぐらを強く掴む。

人間とは、怒り狂うとこんなにも変わってしまうものなのか。


普段の冷静な宍戸は何処へ…?




『早く…早く教えろよ!!』

『宍戸、ちょっと冷静になれや』

『許せねえんだよ、アイツ…ッ!!』



宍戸は怒りか、悲しみか…どちらかなんて私には分からないけど、一筋、二筋…涙を流した。

無駄なのに…今の跡部景吾達にとって、貴方の涙の意味は"無"なのに…。

どんなに泣いたって伝わらないんだよ。



『なぁ、跡部…。そんなに愛理が大事か?』

『…アイツは俺らの仲間だからな』


その言葉が、芥川の何かを動かしたようだった。

芥川は跡部の胸ぐらを掴む宍戸の手を退け、今度は自分が跡部の胸ぐらを掴む。


そして芥川も、俯き…涙を流す。



『愛理ちゃんが仲間…だったら俺達は…?』

『アァ?』

『俺達は…仲間じゃないの?』



芥川が顔を上げて、悲しそうに跡部を見つめる。

跡部の目は芥川に釘付けで離れない。



『俺達が今まで一緒に戦って来た意味は…何処にも無いの?』

『………』

『俺達の絆って、こんなに脆かった?』



核心を突く芥川の言葉に、何も言えない面々。

そろそろ気付きかけてる…?

自分達が本当に信じなければいけないのは誰なのか。

どれだけ仲間を苦しめて来たのか。


口には出さないけど、気付いてる筈でしょ…?



『俺は…愛理を傷付ける奴が許せない、それだけだ』



いつもは自信満々に言っていた言葉も、今は何処か自信なさげだ。

表情も、余裕が無くて…私達を嘲笑う笑顔も無い。



『アカン…この女に惑わされたらアカンで』



忍足侑士が口を開く。

あの女に惑わされてるアンタが言う事じゃないでしょ?



『私を信じられないのなら、それでも良い』



だけどこの二人だけは…信じてあげて。

アンタ達を本当に信頼しているんだから…。



『お前が来てからおかしくなったんや、何もかも…!』



忍足侑士は私をこれでもか、と言うくらい睨む。



事の根源は、私じゃない。

おかしくなったのは、小南愛理が来てからでしょ?

亜美が貴方達に虐められたその時から…。




「ねぇ、私が此処に来た理由…覚えてる?」



私は忍足侑士に近付きながら問う。

忍足侑士は私を見下ろして、こう言った。



『そんな下らん事、もう覚えてへんわ』




…しっかりと覚えてるくせに。

まぁ、そんな事はどっちでも良い。




「もう一度、教えといてあげる。"復讐"しに来たの…貴方達に」



何が言いたいんだ?と、みんなの顔はそう訴える。

この意味が…わからない?




「貴方達が亜美を虐めなければ、私は此処には来なかった」

『だから、俺らは虐めたわけじゃねえって何回言えば』

亜美が虐められ始めたのは…誰が来てから?



その言葉にハッとする一同。

そろそろ誰が悪者か、分かったんじゃないの?



「小南愛理の正体に…早く気付いたら?」



返す言葉も無いようで、ひたすら頭を混乱させる。

そこで気付いた芥川が私に言う。



『…愛理ちゃんは…?』







そうだ、私達は小南愛理を捜しに来たんだ。

悲劇のお姫様の正体が、実は魔法使いだったってバレつつあるんだよ?


さぁ、出てきなさい。


もうすぐ、地獄に…突き落としてあげるから。




『だから、愛理は此処にはいねぇっつっただろ』



跡部はニヤリと笑う。

そして周りに居るみんなも。



どう、なってるの…?



『丁度良いくらいか』

『せやな。今頃アイツ等は…』



アイツ等?アイツ等って…まさか…。



『許せへん言うたやろ?愛理を虐める奴は』

『お前らが来てくれて、都合良く時間を潰せたぜ』

『お前は邪魔やったからなぁ』



忍足侑士は私にそう言った。

私は青ざめて…部屋を飛び出す。

そして猛ダッシュで1号館に向かう。




遅い…遅い…さっきよりも…。









お願い、やめて…








私の仲間を…























傷付けないで…――

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