第36話 結局はみんな自分が一番なの。


<愛理side>


これほど人を憎んだ事は無かった。


欲しい物は大抵手に入ったし、思い通りにならないことなんて無かった。


みんな私の言うことを聞いて、私を信じて、そうやって手に入れてきたの。



それなのにあの女は…私から幸村くんを奪った。


私はこんなにも幸村くんの事を愛してたのに…。




一目見て彼のことを好きになった。


あんなに綺麗な男の子初めて見たんだもの。


跡部くんとは違う系統の、綺麗な男の子。



手に入ったと…思ったのに。





『君の事…大嫌いなんだ』





ねぇ、嘘だよね…?

あの女にそう言えって、言われただけなんでしょ?

あの女に騙されてるだけなんでしょ?



お願い、私を嫌わないで…――





『ちょ…何処行くの!?』



何やら向こうが騒がしい。

この声は…今私が最も憎んでいる…アイツの声。


どうやらタイミングを見計る必要も無かったみたい。

傷付けられた分だけ…傷付けてやる。

私はわざわざ自宅から呼び寄せたボディーガード達と、目を合わせる。

"今しかない"、彼らも私もそう思った。



ゆっくりと扉を開けると、そこには丁度良くメンバーが揃っていた。

幸村くんが居なかったのは本当に都合が良かった。

今度こそ、貴方は私の物になって貰うんだからね。



『て…テメェ…!!』



一番最初に声を荒げたのは、やっぱり彼。

切原赤也くん…だったっけな?



「どうも、こんにちは」

『何しに来たんだよ!まさかまた優衣子先輩を…!!』

「うるっさいな、違うっつーの」



寧ろあの女がいない時を狙ってたの。

だってアイツ、女のくせにわけがわからないくらい強いでしょ?

目障りなの、本当に。



『出てけよ!テメェの顔なんて見たくもねぇんだよ!』



あらら。見事に嫌われちゃってるね、私。

ま、何でも良いや。

とにかく今は時間がない。


手っ取り早く事を済まさせて貰うからね?





「やっちゃって」


私がそう声をかけ、合図を送ると、ボディーガード達は一斉に部屋の中へ入る。

6人相手に10人は多かったかな?

こっちは人を殴るのが仕事みたいな人ばかりだもんね。


貴方達は絶対に敵わない。




『クソッ…!!離せ、ッ…グハッ!!



そうそう、やられて。

ボコボコに傷付けば良いの。


そしたら姫島優衣子だって傷付くんでしょ――?



















『アイツ化け物やで?絶対敵えへんわ』

『あぁ。あんな女初めて見たぜ』

『立海の奴らか清水亜美が傷付かな、アイツに傷は与えられへん』

『清水亜美の面なんざ見たくもねぇよ』

『せやったら…立海の奴らを傷付けるしか方法はないで?』

『アイツらは…あの女の魔法に掛かってるだけだ。元は悪い奴らじゃねえ』

『…せやな。なら俺らにはもう勝ち目は無いっちゅーことか』

『――チッ…』












叶えてあげるよ、跡部くんと侑士の願い。

姫島優衣子をズタズタに傷付ける事、それが貴方達の願いでしょ?


尤も…私の願いでもあるのだけれど。











「宍戸くんや芥川くんまで騙して…私もう許せない!」

『愛理、落ち着け。アイツらは裏切り者やから仕方ないんや』

「でも…仲間なんだもん!私…私も姫島さんに復讐する!!」

『何を言うてんねん…!』

「悔しいの!私の事は嘘吐きだってなんだって罵れば良い!けど侑士達が悪く言われるのは…嫌なの…ッ」

『愛理…』

「お願い、侑士。力を貸して」

『………、…わかった』







本当は侑士達がアンタを何処かに閉じ込めてくれれば良かったんだけど、その必要も無かった。

神様まで味方に付けちゃったみたいだね、私。



「アンタ達も姫島優衣子も清水亜美も…仲間仲間って、馬鹿みたい」



仲間なんて、この世に居ると思う?


結局はみんな自分が一番なの。

信頼なんて、崩れる為にあるような物なんだから。



氷帝テニス部が、良い例でしょ?



「私は…仲間なんて信じた事も無いし、信じようとも思わない」

『アイツらは…跡部達は…仲間じゃねぇのかよ…ッ…っぐ…!!』



殴られながらも必死に言葉を発している君は…ジャッカル桑原くん?

良い質問をするね、君。



「仲間じゃないよ、彼らは」

『じゃ…あ…ッ…なん…ッ、グハッ…!』

手駒

『――ッ…!』



そんなに驚いた顔する事ないでしょ?

"手駒"、彼らにピッタリの言葉じゃない。



『最悪…です、ね…ッ…』

「アンタ…柳生比呂士、だっけ?あの女もきっとアンタ達の事そう思ってるよ?」

『…優衣子と…お前を、一緒にするんじゃなか…ッ!』

「はぁ?」

『…ッ、まったく、だ…』



何言ってるの、コイツら。

まさかこんな事されてまで、あの女を信じるって言うの?


とんだお人好しだね。

アンタ達みたいなのを偽善者って言うんだよ。








『フッ…』

「何がおかしいの?」



柳蓮二のこの冷たい目が…何だか姫島優衣子と被る。

思い出したくもないのに、あんな奴…!



『精市の言う通り、まさに野良猫だな』



その言葉にハッとする私。

それと同時に、私の脳裏に浮かんできたある光景。




『私にはネズミを食い尽くす野良猫にしか見えないけど』




以前あの女が私に言った言葉。


ムカツク…ムカツク…消えれば良いのに…ッ。

幸村くんは私の物なの。

アンタなんかに渡さないんだから…!






『精市の言う通り、まさに野良猫ね』








あの女にそう…言われてる気がした。

憎い、その一心だった。

私は直ぐ近くにあるノートパソコンを手に取り、柳蓮二の頭に振り落とした。





――ガッ…!!!




良い音を立てたその直後、柳蓮二は倒れ込む。

頭にはじわりと血が滲んでいた。

そして私はパソコンを地面に投げ付けて、壊した。





「みんな…っ!!!」



タイミング良く、姫島優衣子が駆け込んできた。

残念、悲惨なエンディングを迎えた後でした。

アンタの大事な物も、このデータも…全部、壊れちゃったよ?



良い気味。



アンタには不幸が似合うんだから、おとなしく不幸になりなよ。


そして、ボロボロになって消えれば良い。

バイバイ、姫島優衣子…。


- 36 -

*前次#


ページ: