第39話 いよいよ…全てが終わるんだ。


<優衣子side>


跡部を先頭に出て行く氷帝陣。

最後に残った小南愛理が私に向かって一言。



『アンタもコイツらも、学校から追い出してやる』



そんな捨て台詞を残してキメたは良いけど、まず無理だからね。

私はともかく、みんなを学校から追い出す事なんて不可能。


そんなこと絶対に…させない。



『優衣子、君も帰るんだろ?』

「精市、ごめん…。みんなの事よろしくね」



精市は少し微笑む。



『ヘリ呼んであるからそれ使って』

へ…?



精市の言葉に気の抜けた返事をする私。

隠しカメラを仕掛けた蓮二と言い、ヘリを用意した精市と言い…この人達はいつのまにそんな大富豪の息子みたいな事をするようになったのか。



『さっき俺がよんだんだぜ☆』



陽気にブン太はそう言ったけど…。

まさかヘリ呼んだのって、さっきの…。



「…救急車は?」

『救急車は呼んでねぇ』



呼んでねぇ、って…!!

じゃあみんなはどうなるの!?



『んな顔しなくても大丈夫だって。みんなちゃんと生きてるし。…な?』



ブン太が倒れているみんなに向かって呼びかけた。

返事なんて返ってくるわけない、と思っていたけど…。



『よっ…っと!こんなんじゃ俺は殺せないッスよ!』

「…え?」



赤也が起き上がる。

他のみんなも…蓮二まで。


『倒れとれば、気絶したように見えるじゃろ?』

『気絶した人間を攻撃する程、彼らは情けの無い人達じゃ無かったようですし』



仁王と柳生は不敵な笑みを向ける。



『だが暴力で解決しようと言うのは許せんな』

『急所を避けてはいたけど、結構痛かったぜ』



真田とジャッカルは少々怒り気味のようだ。



『まったくだ。最後にパソコンが来るとは思いもしなかった』



蓮二は頭を押さえながら、パソコンを見つめる。



『パソコンの中のデータが全て消えてしまったとは』



蓮二は溜め息をひとつ。

データは無事じゃなかったようだけど、みんなは無事で良かった。

自然と安堵の笑みが零れた。



『優衣子、叩きのめしてきんしゃい』



そう言って仁王は私に何かを投げた。

キャッチして見てみると、それは私の大切な大切な…



「ブレスレット…」

『壊れたの直しといたけぇ、今はそれで我慢しんしゃい』



嬉しくて嬉しくて、私はブレスレットを握り締めた。

そしてそれを付けようとするが、不器用な私にはやっぱり無理で。

ジャッカルの方をチラッと見ると、それに気付いてブレスレットを付けてくれた。


戻ってきた…私の、宝物が。



『ついでにこれも渡しておくか』



蓮二が、私に向けて手を差し出した。

その手から私の手に移ったのは…。



『パソコンの中に合宿中のデータは入っていない。本物は、コレだ』

「蓮二…」



蓮二が私に渡した物は、合宿で小南愛理が犯した数々の罪が映し出されている、データ。

私はそれを握り締めて、誓った。


"みんなの復讐も兼ねて、絶対小南愛理に仕返しする"と。


だとしたらモタモタしていられない。

アイツ等よりも早く戻って、色々と用意をしなければ…!



「精市、みんな…私もう行くね!本当にありがとう!」



そう言って私は部屋を飛び出す。



『ちょっと待って』



精市に呼び止められ後ろを向けば、精市も私に手を差し出す。

手と言うより、彼が差し出したのは…カメラ?



『こんな事もあろうかと、回収したカメラをまた仕掛けておいて良かったよ』

「精市…」

『さっきの映像、物凄く良い角度から撮れてるから。あ、勿論優衣子が暴れた所はカットで』



そう言って精市は笑う。

私は両手でカメラと精市の手を包み込む。

精市は優しく、頭を撫でてくれた。



「ありがとう」



私は精市に満面の笑みを向け、



「この復讐が終わったら、私…立海に戻るから!」



と言う言葉を残して合宿所を出た。

向かうは屋上。

テニスコートを上から見れるようにと、お父様が作ってくれたあの屋上。

精市は場所を言わなかったけど、そこにきっとヘリはある。



階段を上ってゆっくりとドアを開けると、凄い風が私に吹き付ける。

霞む視界で見えるのは、私を迎えに来ているヘリ。

私は風に吹かれながら、ヘリに近付く。



『乗って下さい』



操縦している人にそう言われ、乗り込む。

そしてヘリはゆっくりと空に近付き、合宿所から離れた。



『目的地は氷帝学園でよろしいですか?』

「あ、はい。よろしくお願いします」



少し年をとってはいるものの、カッコイイ大人な男性が操縦していた。

声は低いけれど口調は優しくて。

何だか安心させられるような、そんな雰囲気を放っていた。



『荷物はどうなされたのですか?』

「荷物は後々取りに来ますんで大丈夫です」



そうですか、とその操縦士さんはニッコリ微笑む。

とても感じの良い人で、私も自然と笑顔になる。

最近あんなの(氷帝陣)やこんなの(小南愛理)ばっかり相手にしていたから。

こうゆう人は体の保養になって良い。



『氷帝学園は楽しいですか?』

「…はい、とても」



楽しい筈がないんだけれど、わざわざ雰囲気を壊すような事をしたくないのでそう答えた。



「あの、年はおいくつなんですか?」



私から操縦士さんに質問する。

30代前半か半ばか…それぐらいだよね。



『33歳です』

「やっぱり!お若いんですね」



予想が当たって何だか嬉しくなった。


それから私の友達についての話や、家族についての話など。

色々な事について話した。



そんな事をしている内に、ヘリは東京都内へ。

流石に空を使って移動すると早いんだなぁ、なんて思いながら外を見つめる私。


いよいよ…全てが終わるんだ。

そう思っても、何故か嬉しい感じはしなかった。

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