第4話 「いい加減本性見せたら?」


「今日からマネージャーになる姫島優衣子です。宜しく」

『マネージャー?なんや、跡部が誘ったんか?』

『俺じゃねえ。監督からだそうだ』

『監督が…?なんでや?』

『知らねえよ』



嘘、知っている筈だよね?

マネージャーが一人減ったから、私が入ってあげたって。

亜美の事は、思い出したくもないって感じかな?



『あの、私小南愛理って言います。嬉しいな、仲間が増えて』



――出た。

亜美を虐めた、悲劇のお姫様が。



『愛理…無理すんなや?お前は病み上がりやねんから』

『私なら、もう大丈夫。それにみんなに迷惑掛けたくないし…』

『俺らはお前の体の方が心配だ。辛いなら無理すんな』

『跡部君…ありがとう』



…何?

この支持率の高さは。

どいつもこいつも、救いようのない馬鹿男達ってことか。



『姫島さん、ヨロシクね』

「…宜しく」



憎らしい、この笑顔。

自然な笑顔を演出してるつもりかもしれないけど、私からは凄い醜く見えるよ?



『姫島さんは良い人そうだから良かった』



姫島さんは?

…笑わせないでよ。

亜美だって良い子だった。


ただ一人、性悪だったのは…あなた。



『そうだな。少なくともアイツみたいなことは』

岳人…!

『っあ!悪りぃ…』

「アイツとは?」



私は何も知りません、と言わんばかりに質問する。

どうせ、亜美の事を言いたいんでしょ?



『お前は何も知らなくて良いんだ』

『せ、せや…知らん方がええ』



貴方達は亜美の存在を消すの?

それで、何もなかったことにでもする気?

何処までも最悪なんだね。


でもまぁその方が、落とし甲斐あるってもの――









『姫島、さん…?』

「何かしら?」

『あの、優衣子って呼んじゃ…駄目…かな?』



冗談じゃない。

何故呼び捨てにされなければいけないの?

しかも名前で?

ふざけんじゃないよ。



「生憎、私は自分の名前が嫌いなの」

『っあ、そうなの…?ごめんね…』

「いいえ」



私の前でも姫でいるのかな?

随分と、余裕なんだね。



『ぐす…ッ…』

『おい、大丈夫かよ?愛理』



それぐらいで泣くなんて、どれだけか細い神経なの?

ああ、そうか。

今までたくさん嘘泣きしてきたもんね?

涙腺が緩んでるのかな?

それとも、泣くのはもうお手の物ってことなのかな?



『オイ、姫島!』

「…何か用でも?」

『愛理泣いちまっただろ!?』

「それが?」

『っな!お前最悪な奴だな!!』



最悪…?

最悪なのはどっち?


亜美に傷を付けてきたのは、貴方達でしょ?

亜美だってきっとたくさん泣いた。

それでも亜美を見ようとしなかった貴方達に、そんなことを言われたくはない。



『岳人、気にしないで』

『けど…愛理…』

『私が姫島さんの気にしてること言っちゃったの…。私が悪いの…』



出た、"全て私が悪いんです"作戦。

それを言えばみんな同情してくれるんだもんね?

全てお姫様の思い通りってことか。


なんとなく、亜美が虐められてた状況が掴めてきた。









『えっと、ここでドリンクを作るの』

もうやめなさいよ

『…え?』

「二人っきりになったんだから、いい加減本性見せたら?」



私の前で猫被る必要ないじゃない。

さっきから、笑顔が不自然で醜いの。



『――フッ…そうね。それにしても貴方、扱いやすくて笑えちゃう』



やっぱり、これが本性なんだね。

芝居が上手いと言うより、騙す相手が単純過ぎるって感じかな?



『そんな性格だと、誰も信じてくれないでしょ?』

「信じてくれる人なんて、いらないわ」

『強がっちゃって』



…強がってる?私が?

私の覚悟は…そんなに甘いものじゃないの。




『にしてもマネージャーなんて一人で十分なのにね〜。余計な事してくれたよ、榊監督』



榊先生は同情で入れてくれたんだよ。

両親のいない私の唯一の生きがいが立海でマネージャーしてたことだったから。

まぁ、こんな小娘に騙されるようなテニス部と、私の大事な立海テニス部を同じにされちゃ堪らないけどね。



「貴方だけじゃ頼りないからじゃない?榊先生はよく分かっていらっしゃるのね」

『…チッ。良いから、アンタは仕事だけやってれば良いんだよ』

「そうやって、今まで誰かに押し付けて来たの?」

『そうよ。アンタが来る前に清水亜美って女がいたんだけど、アイツも私にとって都合の良い女だったわ』

「そんなこと、ベラベラ話しちゃって良いのかしら?みんなは思い出したくない様だったけど?」

『そりゃ、みんなの中ではアイツは私を肉体的にも精神的にも追い詰めた、悪者だからね

「…まるで悲劇のお姫様ね」

『姫?アハッ、そうね。みんなにとって私はお姫様』

「私にはネズミを食べ尽くす野良猫にしか見えないけど」

『……ッ…、なんですって?』



その怒った顔、最上級に醜い。

正に野良猫だよ。



『アンタ…いちいちムカツクんだよ。気に入らない…!』

「貴方に気に入られたくもないわ」

『……フッ、アハハ!

「………」

『アンタも、自殺に追い込んであげようか?』



そう言って彼女はカッターナイフを取り出した。

そして











――ガッ。



自分の手に向けて刺した。



キャァァアアア…!!!

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