第41話 俺達が、馬鹿だったんだ。
<跡部side>
その日は全校生徒の集会があって、俺達は体育館に集まっていた。
合宿を終えたばかりでかったるいと思う気持ちを抑え、長々しい校長の話を聞く。
それから何分くらい経っただろうか?
いきなりパッと照明が消えた。
カーテンが引かれて暗くなる体育館で、ざわつく生徒達。
一体今から何が始まるのだろう?
誰もがそう思った、その時。
用意されていたスクリーンに映像が映し出された。
#mtr11#
(第五章〜そろそろ幕を下ろしましょう〜)
…これは、部室の外にある手洗い場?
確信は無かったが、画面に映し出された場所は確実に見た事がある所だった。
【えっと、ここでドリンクを作るの】
【もうやめなさいよ】
【…え?】
【二人っきりになったんだから、いい加減本性見せたら?】
そこで話している女生徒らしき二人は…姫島優衣子と愛理。
映像に映った人物は小さくてよく見えなかったが、この声は確かにあの二人だった。
やがて二人は部室に移動する。
【――フッ、そうね。それにしても貴方、扱いやすくて笑えちゃう】
その言葉に誰もが耳を疑う。
今の台詞は…愛理が言った言葉…なのか?
【そんな性格だと、誰も信じてくれないでしょ?】
【信じてくれる人なんて、いらないわ】
【強がっちゃって】
いつのまにか、俺達は画面に釘付けになっていた。
映し出された映像に目を背ける事が出来ずに、ひたすら目を凝らして画面を見る。
それは俺だけじゃなく、テニス部の人間…いや、全校生徒が同じ状況だった。
『こんなの…嘘!
止めてよ!早く!!』
そう叫ぶ愛理を、黒いスーツの男達が連れさらう。
助けなければ、そう思っていても…足が動かなかった。
【にしてもマネージャーなんて一人で十分なのにね〜。余計な事してくれたよ、榊監督】
そうこうしている内に画面の中の愛理が喋り出した為、俺の目はまた自然とそっちに行く。
離せない、離してはいけない気がする。
真実を語りかける、この画面から…。
【貴方だけじゃ頼りないからじゃない?榊先生はよく分かっていらっしゃるのね】
【…チッ。良いから、アンタは仕事だけやってれば良いんだよ】
【そうやって、今まで誰かに押し付けて来たの?】
【そうよ。アンタが来る前に清水亜美って女がいたんだけど、アイツも私にとって都合の良い女だったわ】
【そんなこと、ベラベラ話しちゃって良いのかしら?みんなは思い出したくない様だったけど?】
【そりゃ、みんなの中ではアイツは私を肉体的にも精神的にも追い詰めた、悪者だからね】
【…まるで悲劇のお姫様ね】
【姫?アハッ、そうね。みんなにとって私はお姫様】
【私にはネズミを食べ尽くす野良猫にしか見えないけど】
【……ッ…、なんですって?アンタ…いちいちムカツクんだよ。気に入らない…!】
【貴方に気に入られたくもないわ】
【……フッ、アハハ!アンタも、自殺に追い込んであげようか?】
何だ、この胸騒ぎは。
画面に映るコイツは一体、誰なんだ?
おとなしくて優しい…小南愛理…じゃ、ないのか?
そして愛理はカッターを持ち、信じられない行動に出る。
【
キャァァアアア…!!!!】
自分の手を自分で切って、叫んだ。
待て、このシーン…まさか…。
俺は記憶の片隅にあったこの場面を、必死に思い出す。
否、思い出す必要は無かった。
俺の記憶と同様の出来事が、このスクリーンにしっかりと映し出されていたから。
【なんや!?】
【どうした!】
忍足と岳人が部室に駆け込んで来たところを見て確信した。
これは、あの時の出来事。
俺達は一体…何を信じてきたんだ…?
…やめろ…止めろ…。
これ以上俺達の罪を…
映し出すんじゃねぇ…ッ――
【愛理に何したんや?】
【オイ、侑士!愛理の手から血が!】
【なんやて?】
【…結局コイツも同じなんだよ、清水亜美と!】
岳人がそう言った所で画面は変わり、今度は最初と同じくあの手洗い場の映像。
相変わらず二人の女生徒が何か話をしている。
先程と違うのは、顔がハッキリと映っている事。
姫島優衣子と愛理の顔が、ハッキリと…。
【ホラ、早くドリンク作ってよ。持ってけないでしょ?】
【こんなにたくさんのドリンクを一瞬で作れる程、私の手は多くないわ】
【あら?亜美は全てやってきたけど?】
【ああ、そうやってきたのね】
【今更分かったの?短期間であの男達の信頼を得るのは、難しいことじゃなかった】
【あんな馬鹿男達を騙して、楽しかった?】
【そりゃあもう。私のシナリオ通りになってくれるのよ?楽しくない筈ないじゃない】
【そう】
【明日は何処に傷増やそっかなぁ】
【いっそのこと顔面にしたら?】
【それも良いかもね】
【でも顔に傷付けるの結構時間掛かるんだよ?見える所だから、念入りに細工しなきゃいけなくて】
【そうやって今までみんなを騙してきたのね】
【そうよ?私にかかれば、顔色の悪さも、殴られたアザも、切られた傷を作るのも…簡単なこと】
【傷があるだけでみんなが心配してくれるものね?】
【よく分かってるじゃない。作った者勝ちよ】
【さ、出来たね!私が持ってくから、アンタもう帰って良いよ。てか帰れ】
【なんや、また愛理か】
【なんだか姫島さん、帰るみたいで…】
【またサボりかよ、アイツ】
自分達の言動に、忍足と岳人は声が出ない様子で唖然としている。
奴等の心情もきっと俺のものと似ているだろう。
俺達が今まで信じてきた"小南愛理"は誰だったのか…――?
【ねぇ、アンタって何でそんなに清水亜美に拘るわけ?】
【………】
【あんな馬鹿で偽善者な奴に、どんな思い入れがあるっていうの?】
【………】
【そう言えば、自殺未遂なんだって?いっそのこと死ねば良かったのに】
「――ッ…!」
俺はキツく、奥歯を噛み締めた。
酷い言葉を浴びせられても尚且つ俺達の事を信じていてくれた清水亜美。
そんな奴を俺達は殺してしまった。
清水亜美の肉体は生きているとしても、彼女の心は今…。
愛理への怒り、清水亜美への謝罪、色んな思いで溢れていた。
愛理が憎い、自分が憎い。
俺のしてきた事は、全て…
仲間を裏切っていた…。
【姫島さん?そろそろ弱音吐いたら?】
【別に、何とも思わない】
【ふーん。可哀想な子だね、アンタ。その性格が自分を苦しめてるんだ〜】
【貴方より可哀想な子はいないわね】
【ソレ、貸して】
【仕事の邪魔しないで】
【良いから、貸しなさい!】
もう良い、もう分かった。
【嫌っ!!やめて姫島さん!!!】
【なっ…!?どうしたんや、愛理!】
【ビショ濡れじゃねえか!】
【侑、士…岳人…。侑士の言う通りにしたら、姫島さんが怒って…っ】
【おい、姫島。お前いい加減にしろや】
俺達が、馬鹿だったんだ。
【いい加減にして欲しいのはこっちだわ。人が折角作ったドリンクを無駄にしないで欲しいわね】
【ふざけんな!テメェが愛理の作ったドリンクを無駄にしたんだろ!?】
頼むから、これ以上…後悔という念を…感じさせないでくれ。
【見てて笑えるわね、貴方達】
【なんやと?】
【亜美が何故この男達を信用していたか、理解出来ないわ】
「
止めろ…ッ――!!」
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