第42話 勝った…私の勝ち。


<愛理side>



「何これ…信じられない」



そこには大きなスクリーンに映し出された私がいた。

そしてそれを見る私。

柳蓮二のパソコンは壊した筈なのに、何故?

いや、私が壊したデータは合宿の時のだけ。

と言うことは…これは姫島優衣子が隠し撮りした映像…。


そうだ、あの女は清水亜美の復讐の為に此処へ来たんだ。

それぐらいやっていてもおかしくは無いんだ――。




「こんなの…嘘!止めてよ!早く!!」




そう叫んだ後、背後から口を塞がれるのが分かった。

両腕を掴まれズルズルと体育館から強制退出させられる。


やめて…止めないといけないの。

こんな事バレたら…全てお終いなの!


焦りと恐怖で、混乱する頭は益々ぐちゃぐちゃになった。




――どうして?なんでこんな事になってるの?



何故あの女は無事なの?

あの女を学園から追い出すように仕向けても、あの女を襲うように依頼しても、全て上手くいかない。

昨日だって立海テニス部を退学させるように頼んだ筈なのに、断られた。


この私がだよ?

小南財閥の娘のこの私の頼みなのに、なんで?

何が起きてるの?


わかんない、わかんない、わかんない。






何処デ計画ガ狂ッタ――?











『此処でおとなしくしてろ』




両手両足を縄で縛られ、部室に投げ入れられる。

無駄な抵抗をしようと、その男達を睨めば



「――ッ…!」



言葉を失った。


そこにいた男達は正真正銘、私のボディーガード。

そう、合宿で立海の奴らを襲った…あのボディーガード達…。



「アンタ達…私にこんなことして良いと思ってるの?」

『俺達が、いつまでもアンタの味方をするとでも思ったか?』

「どうゆう意味…?」

『俺達は優衣子様の味方。だからお前は敵だ』




優衣子…

あの女…私のボディーガードまで奪うの…?

何処までも…憎い女…。



「アンタ達全員クビにするわよ?」

『勝手にしろ。もうお前には世話にならねえよ』



その強気な態度は何?

今まで私にペコペコ頭下げて来たくせに。



「寝返るなんて…最低」



私の物にならない奴は全て切り捨て。

私の物にならない奴は全て不幸になれ。

私の言うことを聞かない奴らに、幸せになる権利なんて無い。


コイツらも立海テニス部も、清水亜美も姫島優衣子も――





『最低は、アンタでしょ?』

「――ッ!?」



部室の扉に突っ立っていたのは…間違いなく、姫島優衣子。

見透かしたような目で私を見るこの女が気に入らない。



「殺してやる…」



私がそう呟けば、姫島優衣子を守るように前に立ちふさがる男達。

私を守ってきた奴らが、姫島優衣子を守っている。





私の手駒が…奪われた。





「この…ッ、泥棒!返してよ、私のボディーガードを!」

『…置き去りにしたくせに、よく言うよね』

「は?」

『自分の為に戦ってくれたボディーガード、私達の部屋に置き去りにしたじゃない?』

「当たり前でしょ?そんなデカい男達を運べるわけないし」

『アンタの元を離れて正解だったよね、この人達も』



違う、私のとこに居れば安全なの。

それなのに…どうして離れていくの?

離れないで…私から…。



「何でアンタは…私の物を奪うのよ!」



芥川も、宍戸も、幸村くんも…全部私の物だったのに。

氷帝学園にいるみんなも、私の物なのに…!

それさえアンタは奪おうとするの?



『奪ってるのは、アンタでしょ?』

「は…?何言って」

私の仲間を奪ってるのはアンタでしょ?



私を見下すこの女の目に恐怖を感じたのは、これが初めてだった。


怖い…次は、何をするの…?





『アンタの味方なんてもういないの』





姫島優衣子はそう言葉を吐いた。



悔しい、憎い。

怒り狂う感情を抑えられない。

まだ負けてない。


私はまだ負けを認めない。




『ここで一人で反省してなさい』



そんな言葉を残して姫島優衣子とボディーガードは出ていった。

反省なんて、するわけないじゃない。

私に逆らった奴らが悪い。

私を敵に回したアンタが悪い。


まだまだ…苦しんでもらわなきゃ。



「…フッ」



机の下に落ちているカッターを見て、自然と笑みが漏れた。

まだ、完全に見捨てられたわけじゃないって事ね。









「キャァァアアア…!!!!」

『なんや!?』

『どうした!』

『愛理に何したんや?』

『オイ、侑士!愛理の手から血が!』

『なんやて?』

『…結局コイツも同じなんだよ、清水亜美と!』




カッターを見てふと思い出した場面。

清水亜美…。

忘れてた、その存在を。

あの女が一番苦しむ方法…見つけた。



「…フッ、ハハッ…アハハハハ!!



どうしよう、笑いが止まらない。


あの女の苦しむ顔が目に浮かぶ。



勝った…私の勝ち。



高ぶる気持ちを抑え、机の下から器用にカッターを取り出す。

そして縄を一本一本、削っていく。


数分くらい苦戦して



――プツッ…



ついに手が縄から解放された。

私は思わずニヤリと笑う。


手が外れれば足は簡単。

ほんの数十秒で縄が切れた。



今まで抑えていた気持ちが一気に爆発した私は、部室を飛び出す。

この広い領地を一気に翔る。




向かうは清水亜美が眠っている病院。








大嫌いなお二人さん。


やっぱりアンタ達には、不幸がよく似合うよね――?



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