第43話 「真実から目を背けないで」
<優衣子side>
人がいなくなった体育館は、先程までのざわめきが嘘のように静まり返っていて。
体育館の真ん中にポツンと私達は立っていた。
『これで良いのか?』
「ありがとね、蓮二」
蓮二から隠しカメラの映像が入ったビデオを受け取る。
立海テニス部は今日までが合宿となっているため、今日は学校は自由参加らしい。
まぁ、アイツらが折角の休みを無駄にするとは思えないけどね。
『まだ合宿の映像は流して無いが』
「良いの。アレを流さなくてももう小南愛理の正体は十分伝わった筈だから」
『…そうだな』
蓮二の休みを無駄にした事は本当に申し訳ない。
それでも文句の一つも言わない蓮二はやっぱり大人だと思う。
『優衣子』
「んー…?」
名前を呼ばれたかと思うと、いきなり手を引かれる。
――ギュッ…
そして包み込まれるように、蓮二に抱き締められた。
そんな抱擁に動揺する事も無く、蓮二の胸に蹲る私。
この抱擁の意味は…何――?
『あまり無茶な事はしないで欲しい』
そう言った蓮二の声は、何処か悲しげな声色だった。
一人で突っ走っていたつもりでも、結局はみんなに支えられてた。
結局は…みんなに心配、かけてたんだね…。
「ごめん…」
私が謝ると、"お前は一応女なんだからな"と言った蓮二が何よりも心強く感じた。
蓮二の抱擁が私に力を与えてくれてるような、そんな感じがした。
『
柳ぃ!!いつまで優衣子の事抱いてんだよ!!』
後ろから物凄く聞き覚えのある声が聞こえて、思わずその方向を振り向く。
その時、蓮二が軽く溜め息をついたのが分かった。
『そうッスよ!優衣子先輩から離れてくださいよ!!』
こんなクソ生意気な喋り方をする奴なんて、私が知る限り一人しか居ない。
知らない訳がないよね。
いつだって私を助けてくれた仲間なんだから。
『最後まで見届けさせて貰うぜよ?』
「みんな…」
本当にこの人達はお人好しと言うか暇人と言うか…。
兎に角最高の奴らなんだ――。
『氷帝陣なら、部室の方に向かいましたよ』
「あ…、なら小南愛理を捕獲してるのバレたかも」
『お。ってことは、ボディーガード達役に立ったようッスね!』
「お陰様で」
あのボディーガード達は、あの部屋に居たみんなが仲間にしてくれたようで。
敵まで味方にしてしまうみんなは凄いと思う。
それはこの人達に人を惹き付けられる魅力があるからなのかな。
『優衣子、これ…着るかい?』
そう言って精市が差し出してくれたのは、立海のユニフォーム。
私がずっと着てきた、愛用のユニフォーム。
立海を離れてからそこまで時間は経っていないのに、何故か懐かしく感じた。
「ありがとう」
私は精市からユニフォームを受け取り、着ていた制服を脱いだ。
『ちょっ、優衣子先輩…ッ!何もこんな所で着替えなくても…!!』
「残念でした。下にワンピース着てますから」
そう言ってワンピースの裾をひらひらさせると、赤也は頬を赤く染めていた。
久々に来たユニフォームは、当たり前だけどピッタリで。
立海の一員に戻れたみたいで嬉しかった。
「どう、似合う?」
冗談っぽくそう言うと、みんなは笑みを零していた。
『さぁ、行こうか』
精市があまりにも自然に言うので、
「何処に?」
と聞き返してしまった。
呆れた顔をした精市を見てやっと気付く私。
危ない危ない。
まだ復讐は終わってないんだった。
立海のみんなと居ると、どうしても緩む気持ちを抑えられない。
居心地が良すぎて目的なんて忘れてしまう。
今の私にそんな気持ちは許されないのに。
『今までの事、無駄にすんなよな!』
「――当たり前…!」
犠牲にしたものを取り戻す為に、私は行く。
亜美、私は貴方が目を覚ますこと…
いつまでも待ってるからね…?
――ガチャ…。
私はゆっくりと部室のドアを開ける。
中には正レギュラーの皆さんが勢揃いしていた。
『お前ら…』
「皆さん、ごきげんよう」
随分と分の悪そうな顔が並んでいる。
どうやら私がやってきた事は、無駄じゃなかったようだね。
この真実、貴方達はどう受け止める?
『何しに来たんや?』
相変わらず忍足は、挑戦的な態度で私の方を睨む。
そんな忍足に微笑みを向けると、忍足は気に入らないように目を反らす。
私から目を反らしたって無駄だよ。
これからもう一度、目を反らしたくなるような映像を見せてあげるんだから。
「ちょっとスクリーン借りるね」
そう言って私はビデオを差し込む。
すると大きなスクリーンに先程の続きが映し出された。
『…ッ、やめろっつってんだろ』
跡部が停止ボタンを押す。
その顔にはいつもみたいな余裕は感じ取れなかった。
「真実から目を背けないで」
『別に…そうゆうわけじゃねーよ』
「そうやってアンタは、自分の罪から逃げてるだけでしょ」
これ以上自分が犯した罪が増えていくのが怖くて、だから真実を見ようとしない。
亜美に対しての罪悪感が増えるのが嫌で、だから何も無かった事にしようとしてる。
そんな事絶対にさせない。
言った筈でしょ?
私は"氷帝テニス部に復讐しに来た"って。
『………』
『跡部…、何で何も言わんのや?』
『…忍足…』
『愛理は俺らの仲間ちゃうんか?』
『…テメェも見ただろ、あの映像。俺達は愛理に騙されて』
『
そうやって清水亜美と同じように愛理を見捨てるんかい!』
忍足は跡部を思いっきり睨む。
忍足侑士…。
まさかアンタはまだ…小南愛理を信じてるの――?
『なぁ跡部…。それじゃまた…同じ事の繰り返しやんけ…』
…あぁ、違う。
分かってるんだ、小南愛理の本性を。
それでもまだ小南愛理の味方をしようとするのは、亜美に対する罪悪感があるから…。
『…そうだな。俺達は、愛理の味方…だ』
跡部は忍足にそう呟いた。
「そう、それが答えなら…答え合わせと行きましょうか?」
『答え合わせ…?』
跡部に向かってニッコリと微笑みかけると、私は再生のボタンを押した。
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