第44話 「ジ・エンドって事」



【ねえ、この傷で…私が何をしたいか、わかる?】



今度は合宿編の映像をスクリーンが映す。

宍戸と小南愛理が木陰で何かをしている。

小南愛理が忍足と宍戸に隠れて顔に傷を作っているのは、カメラにはバッチリと映ってたんだよ?



【傷?お前さっきまで傷なんか…】



宍戸の声が聞こえると、全員が宍戸の方を見る。

自分に隠れて小南愛理がメイクをしていた事実を知り、宍戸は唖然としていた。

そんな宍戸を見て、一同は視線をスクリーンに戻す。



【私が自分で殴って付いた傷…痛々しいでしょ?】

【なんでそんな事…】

【なんで…?アンタが裏切ったからじゃない】

【お前…本当に…愛理、なのか?】

【何、その質問。私は私】

【おとなしく私の味方をしてれば良かったのに、馬鹿な男】

【それが…お前の本性かよ…。今まで俺達を騙してたんだな】

【騙す?変な事言わないで。アンタ達が勝手に信じ込んでるだけ】

【テメェ…】

【アンタも清水亜美のように、死ねば?】

【っざけんなよ!!】

【やだっ!やめて…!!】

【は?】



【…お前も…そうゆうヤツやったんやな…】




『――ッ…!!』



忍足が反応した所で、透かさず停止ボタンを押す。

すると彼らの目線は一気に私の方に集中した。



「忍足侑士。君がこの後宍戸に言った言葉…覚えてる?」

『わから…へん…』

「そう、なら教えてあげる」



私はもう一度再生ボタンを押す。

するとスクリーンの中の忍足が宍戸に向かって一言、




【お前はもう…仲間ちゃう】



そう言った。

忍足は青ざめた表情で宍戸を見る。

自分の目に映る宍戸は傷だらけだった。

それは紛れもなく、自分が付けた傷。



『――ッ…』



忍足は居た堪れなくなって、部室を飛び出した。

そんなことを気にする必要も無いので、私は続きをスクリーンに映す。


この続きは、忍足は見ない方が良い。


だから出ていってくれた方が好都合だった。

敵に情けをかけるような事はしたくないのだけど、仲間に裏切られる辛さは…よく分かるから…。


きっとこうしてスクリーンを見ていても、彼らには小南愛理の言葉しか頭の中に入って来ないだろう。

小南愛理がスクリーンの中で喋る時、誰もが不安そうな顔をする。





【アンタ達も姫島優衣子も清水亜美も…仲間仲間って、馬鹿みたい】



【私は…仲間なんて信じた事も無いし、信じようとも思わない】



【仲間じゃないよ、彼らは】




手駒







最後の言葉には、誰もが絶句した。


そして跡部はニヒルな笑顔を浮かべる。





『意味のねえ事をして来たんだな、俺達』




そう言うと跡部は頭を抱え込む。



そしてスクリーンにある文字が浮かぶ。

その文字は…







"THE END"――






『THE END…?どうゆう意味だよ…?』



一番最初に気付いた向日が私に問いかける。

どうゆう意味も何も…そのまんまの意味。



「ジ・エンドって事」

『だから、何が』

アンタ達と下らない遊びをするのはもう終わりって事



そう言って私はユニフォームを脱ぐ。

そして下に着ていた白いワンピースをひらつかせる。



「跡部くん、私の名前を言ってみて」

『はぁ?何言って』

良いから、言ってみてって言ってるの

『…姫島優衣子だろーが』

「そう、姫島優衣子。その名前に…聞き覚えは無いかしら?」

『あぁ?姫島優衣子なんて名前……』



跡部が少し詰まった。

目を何処か一点に集中させ、眉間にしわを寄せる。


その表情は、何かを思いだそうとしているような…そんな表情だ。



『待て、姫島優衣子って…まさか…』

『な、何なんだよ?跡部…』



ハッとしたように跡部が私の方を見ると、向日が目を丸くして跡部を見る。



『跡部財閥と契約している姫島財閥の娘が、優衣子だ』



蓮二がみんなに説明するように言った。

これには立海のみんなも驚いていた。



『だが優衣子の父親は現在行方不明の為、姫島財閥は今優衣子が指揮している』

『あー!だからお前、時々しか学校に顔出さなかったのか!』

『えっ!優衣子先輩学校来てなかったんッスか!?』



ブン太が私を指差してそう言うと、赤也が目を丸くして驚いた。

部活だけは毎日きちんと行っていたから、赤也が驚くのも無理はない。

まぁ、部活に来れたのもお父様と叔母様の支えがあったからなんだけど。



『ならもう、契約は打ち切りッスよ!ねっ、優衣子先輩!?』

『………チッ』



赤也の言葉に跡部は舌打ちをする。

契約の打ち切り、つい最近の私ならそう言ってたかもしれない。



でも、言えないよね…――。






「このビデオ、小南愛理の父親が関係している会社全てに送り付けるつもり」

『…それを俺に言ってどうすんだ。脅しかよ?』

「跡部景吾…本当は貴方達にも小南愛理と同様に、最悪なエンディングを迎えて貰うつもりだった」



でもね、これを見てしまったら…出来なかった。



私は亜美の携帯電話を跡部に手渡す。

黙ってそれを受け取る跡部。



『何だ、コレは…』

「亜美の携帯。送信メールを見てみると、アンタ達が亜美にやったこと…たくさん書いてあった」

『………』



跡部は携帯を操作して、送信メールを開く。

一通目を開いた時点で、跡部の目は携帯の画面に釘付けになった。



「送信メールに入っているのが全てだと思った。だけど…」



他にあったんだよね、亜美のメッセージが。

それを見たら、小南愛理のような結末にする事は出来なかった。



『だけど、何なんだよ…?』

「送りきったメールが全てじゃないの。保存メールにも、亜美が送り損ねたメールがあった」



跡部はすぐに保存メールを開いて、それを読む。

その内容を読んでいる内に、跡部の顔は段々と険しくなって行く。



『…………』



亜美のメールを見て、言葉に出来ないような感情に襲われた跡部は、私の肩を強く掴んだ。




『頼む、亜美の居場所を教えてくれ…ッ』


そしてそう頼んだ。






亜美、



契約の打ち切りを無くすよりも、亜美に会う事を望んだ跡部に…










希望を持って良いのかな――?

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