第45話 また、守れなかった…――






殴られても、暴言を吐かれても

やっぱり私はテニス部のみんなが好き。


私が居なくなる事で

みんなが満足出来るなら…


私は自分が消える事を望む。



大好きなみんなが

私が居る事で嫌な顔をするのが

一番辛いの。


そんな顔をさせているのが

私、なんだ…。



もう、みんなにそんな顔

させたくないの。











今まで…ありがとう。















亜美は自分の幸せよりも、この人達の幸せを願った。


私が大切なものを失ってまでも亜美の為に復讐を誓ったように、

亜美には自分よりも大切な人がいたんだ。



亜美がそこまで大切にしていた人達を、不幸には出来なかった――





「亜美は、神奈川の病院に…」

『居ないわよ』

「――…ッ…!小南愛理…」



部室に入って来た小南愛理は、最高に醜い笑顔を見せながら私に近付く。



『愛理…テメェ何処に行ってたんだよ』



小南愛理を睨みながら言う跡部の言葉に、私は一瞬固まった。



「え…、アンタ達が逃がしたんじゃないの…?」

『逃がした…?俺達が此処に来た時には、誰も居なかったぜ?』



跡部がそう言った瞬間、私の心臓が騒ぎ出した。

私が此処を出て行ってから今までの時間、何をしていたの…?



『それより、亜美が病院にいねえって…どうゆう事だよ…?』



小南愛理の言葉に食い付いたのは、宍戸。

体は返事を欲しているのに、私の頭はそれを拒否している。

気になるのに…聞きたくない。






『清水亜美はね、』







やめて…






















私が殺したの
























ドクンッ…!






鼓動は大きく高鳴り、騒ぎ出す。






「嘘…だ」

『嘘じゃないわよ?ヘリでひとっ飛びすればここから神奈川なんて近いし』

「亜美の居場所、誰にも教えて無いのに…」

『私の情報網なめないでよ。第一私の叔父、その病院の院長だし』



そんなの、信じない。

でも…何でなんだろう?


体が、動かない…。



『生命維持装置抜いてきたし、死ぬのも時間の問題…って感じ?』

「…許せない…」



私は重い右手を頑張って振り上げ、彼女の左頬に向かって思いっきり振った。

しかしその手は、宍戸によって止められる。



「アンタは…何回私の邪魔をすれば気が済むの!?」



そう言って睨んでも、どれだけ手に力を入れても、宍戸は手を離してくれなかった。




『姫島』

「何…!?そんなことしても亜美は喜ばないとか言う気!?」

『…もうそれ以上お前の手を汚すな』

「…え…?」

俺がコイツをぶっ殺す



宍戸は私の手をそっと離し、その手で私を後ろに押す。

そしてもう片方の手で小南愛理の顔を掴み、壁に押し付ける。



『…ッ、何すんのよ…!』

『お前だけは…許せねえ…!



宍戸が小南愛理にそう言ったその時、












ピリリリリ…





プライベート用の携帯から、初期設定の着信音が流れた。

ディスプレイには"亜美のお母さん"と表示されていた。

このタイミングで亜美のお母さんから電話が掛かってくるなんて…

こうなるともう嫌な予感しかしなかった。



「…もしもし…?」



恐る恐る電話に出ると、亜美のお母さんの口から衝撃的な一言が。

その言葉を聞き、電話を持つ力が緩む。

そして電話はそのまま床に落下。



『おい、姫島…。どうしたんだよ…?』



宍戸がそう聞けば、小南愛理は微笑した。



『清水亜美、死んだって?』

『なっ…、テメェ…!』



嘲笑ってそう言った小南愛理に、宍戸の手は力が入る。



宍戸!



私は宍戸を止めるように、叫ぶ。

勿論小南愛理を助ける為じゃない。

いち早く、彼にこの謎を解き明かして欲しかったから――。



「亜美が…消えたって…!




私がそう言うと、この部室は物音一つも立つことが無く静まり返る。

重い沈黙が広がる。

その沈黙を破ったのは…小南愛理だった。



『邪魔者が消えて、せーせーした』



そう言って宍戸を突き飛ばす。



『邪魔者はお前だ、愛理』

『………、跡部くん』

『お前には今日限りで退部して貰う』



跡部にそう告げられると、小南愛理は凄い形相で私を睨む。



『隠しカメラ仕掛けるなんて卑怯なのよ、アンタ』



そう言われても、今の私には何も入ってこなかった。

亜美の行方の事ばかりが頭に駆け回る。

亜美は無事なのか、生きているのか…それだけが私の頭を占領していた。



ちょっと、聞いてるの!?

「――…!」



大声で言われて初めて小南愛理が私に話しかけていた事に気付く。

そんな私を見て、小南愛理はフッと笑う。



『清水亜美は死んだって言ってるでしょ?』



動揺を隠し切れない私の心を読まれたみたいだった。





私は何の為に立海を辞めて、此処に来たんだっけ?


何の為にコイツらに復讐を誓ったの?



他でも無い、大切な亜美の為じゃ…なかったの…?












また、守れなかった…――。














『もう…やだ…私…死ぬ…死にたい…』






あの時だって…止めようと思えば止めれた筈なのに…。

そうやっていつもいつも、後悔するんだ。


大切なモノを失ってからでしか、気付けないんだ…。






ごめんね、亜美。




今度こそ、私は貴方を失ってしまったんだね――。










――ポロッ…




その時、私の目から生暖かい涙が溢れ出た。

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