第48話 お願い、私じゃ止められない。

















暗い、怖い…












助けて…

























優衣子…ッ――!






























「――ッ…!」

『亜美…!良かった…気がついたのね』

「お母…さん」



夢、を…見ていたの…?




――…違う。


現実だったんだ、全て。

痛々しい腕を見て、そう感じる。



何処までが夢で、何処までが現実?



…なんて、優衣子が現実に現れるわけないよね。

夢で会えただけでも、幸せ。



『亜美、大変なの』



お母さんがあまりにも深刻そうに言うから、つい私の表情も険しくなる。

そして、私は凄い事を聞いてしまったんだ…。



『優衣子ちゃんが…氷帝学園に転校するんですって』

「…え…?」



優衣子が…氷帝学園に…?

それは、偶然?それとも…。



『亜美の…復讐を果たす為に…』

「――…!」



私の、復讐…?

じゃあ…さっきの優衣子は…夢じゃなかったんだ――。



『あら、柳さん』

『こんにちは』



柳…?誰、それ…。

一体…私が眠っている間に、何があったの…?



『――!』

「…こんにちは…」



立海の制服…。

優衣子の、お友達…かな?

でも…何でこんな所に…。



『目を…覚ましたのか?』

「…はい」

『そうか、優衣子もさぞ喜ぶだろう』



やっぱり…優衣子と関係があるんだ、この人。

ねぇ…お願い。

何が起こっているのか、説明して…――。




『そうだな、まずは何から話そうか』

「…あの、貴方は?」

『ああ、失礼。俺は立海大附属三年、柳蓮二だ』

「優衣子とは、どうゆう関係なんですか?」

『…同じ部、と言えば分かるか?』

「同じ部…ってことは、テニス部…?」

『そうだ』



テニス部、か。

何だか懐かしい響きだな…。



「でも、何で貴方が此処に?」

『まぁ待て。順序を追って説明して行く』



随分と大人びた人…。

氷帝にはまず居ないタイプの人だね。



『お前は手首を切って自殺を図った。そして病院に運ばれた。…此処までは理解出来るな?』

「…はい」

『そして、同じく優衣子も病院に運ばれた』

「えっ…!?優衣子は大丈夫なんですか!?」

『案ずるな、優衣子は気を失っただけだ。もう退院した』

「そっか…良かった…」

『そして、優衣子は復讐を誓った』

「………」



さっきお母さんが言ってたよね。

私の為に、優衣子が氷帝学園に転校したって。

何でそんな事…。



『何故復讐などするのか、そう思っているな?』

「え…!」



何、この人…凄い…。

私の心の中…見透かされたみたい。



『優衣子が何を考えているのか、俺でさえよく分からない。だが、確実に言えることは一つ』

「…なんですか…?」

『優衣子にとって清水亜美と言う人間は、何よりも大きい存在だと言う事だ

「……ッ、優衣子」



復讐なんていらないよ。



私だって優衣子が大切なんだから…。

優衣子に何かあるのが、一番怖いんだから…。



「…柳、さん」

『何だ…?』

「優衣子を…止めてください。復讐なんて、優衣子にさせる訳にはいかない…」




お願い、私じゃ止めれない。

喋ってるだけでも疲れるのに、優衣子の所に行って止めることなんて私には出来ない。

それに…まだ体力が回復しきってない弱った私が行っても、優衣子の感情を煽るだけ。



『…それは、無理だ』

「なっ…、何で…どうしてですか…!?」

『優衣子の決意は固い。それに、もう既に手遅れだ』

「何ソレ…。どうゆう事…?」

『優衣子は既に氷帝テニス部に入り、着実に計画を進めつつある』

「テニス部に、入った…?」



そこまで、事が進んでいるなんて。

私がもっと早く目を覚ましていれば…。



『そんなに不安そうな顔をするな』

「だって…きっと優衣子は今、一人で…」

『何故そんな事が分かる?』

「私も、同じだったから…。氷帝テニス部は今、もう一人のマネージャーが支配してるの…」

『やはり小南愛理か』

「…!なんで知って…」

『大丈夫だ、優衣子には俺達が付いている』

「付いてる、って…?」

『明日から氷帝と立海の合同合宿がある』



合同合宿…?


私の知らない所で、色んな計画が進んでる…。

色んな人が動いてる…。


私はもう、守れないんだ…優衣子を…。



「…なら、貴方達が優衣子を守ってあげて下さい」

『出来る限りの事はする。だが、現段階で優衣子は傷だらけだ』

「……ッ、そう…ですか」



優衣子は私の為に戦ってるのに、私は何も出来ないなんて…。





『駄目…!止めてっ…!』




優衣子を困らせる事しか、してないじゃない…。





『清水』

「…はい?」

『お前の母と俺以外が此処に来たら、目を覚ましていないフリをしろ。良いな』

「え、あ…分かりました」

『それと、俺が連絡したらすぐに来れるよう、体力もきちんと付けておけ』

「はい…」

『2週間で、きちんと元通りのお前になる事を期待している。俺はそれを伝えに来た』

「…任せて下さい」

『ではな』



そう言って柳さんは病室から出て行った。


何だかよく分からないけど、あの人にはあの人なりの考えがある。

そう感じた。

優衣子の事は心配だけど、今私がすべきことは、柳さんに言われた事をするということ。

それだけなんだ。


2週間、私が頑張れば…何かが起こりそうな気がする。

何かが変わる気がする。


そんな保証は無いのに、何故かそう思ってしまった。

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