第49話 全部、私のせいなんだよね…。



――グシャッ…





「リンゴ、握り潰せた…」

『凄い力ね…。元に戻るどころか、前より強くなったんじゃないかしら』



2週間、柳さんに言われた通りに鍛え続けた。

リンゴを握り潰すくらいは元から出来ていた事なのに、何故か嬉しかった。


私達は強くなくてはならない。

それくらいじゃなきゃ、裏組織は牛耳れないんだよ。



『亜美、組織の方がまた見舞いにいらっしゃったわよ?』

「悪いけど、帰して」



裏組織の奴等は怪しいのばかり。

そんな人がお見舞いに来て、もし誰かが此処に来たらどうするの。

一気に私の正体が広まってしまう。

優衣子しか知らない私の正体が…。



『じゃあ、一回お父さんの所に戻るから、安静にね』

「うん」



そう言ってお母さんは静かに病室を出る。

その時、





――ブーッブーッブーッ…




携帯のバイブが鳴る。

メールが一通、柳さんから届いていた。








From 柳さん
subject 無題
――――――――――――
至急、氷帝テニス部部室へ。

----END----








理由も何も書かずに、必要な情報だけしか書いていないメール。

柳さんらしいと言えば柳さんらしいけど…。

もうちょっと何か書いてくれないと、どれぐらい急げば良いのかが分からない。

でも、柳さんが至急と言うくらいなんだから至急なんだよね、きっと。

急いで着替えなきゃ。








――ガラッ!!




ベッドから立ち上がろうとした時、戸が開いた。

お母さんはこんな荒っぽい開け方はしない。


じゃあ…誰…?




『お前の母と俺以外が此処に来たら、目を覚ましていないフリをしろ。良いな』




柳さんの言葉を思い出し、私はベッドに入る。

そして目を瞑り、呼吸器を付ける。

目を覚ましてないフリって、結構難しいな…。



『フフッ…』



誰かが笑いながら近付いてくる。

気味が悪い…。



『そうよ、コイツが死ねば良いんだわ』



この声…まさか…愛理ちゃん?



『事故死って事にしてもらうわよ』



やっぱり、愛理ちゃんだ…。

私を殺しに来たの?



『バイバイ。姫島優衣子、私の勝ちね』





――ブチッ、ブチッ、ブチッ…。



愛理ちゃんが何かを抜いた。

でもそれ、あまり意味ないよ…?

全部ダミーの機械なんだもん。

柳さんに言われて用意したダミーなんだけど、用意しといて良かった。

まさか、柳さんはこうなる事を予測してたとか…?


まさか…ね。




『あとは、これをアイツに伝えに行くだけね。フフフ…』



不気味な笑いを残して、愛理ちゃんはこの場を立ち去った。


柳さんが私を呼んだのって、まさか…。


何もかもが、柳さんの計画通りに進められている気がする。

何者なの…?あの人…。




「私の勝ち…か」




残念ながら、愛理ちゃんの負けみたいだよ…――?
















『アドレス帳に入れるのも嫌なくらい、この女の事を嫌ってたんじゃないの?』

「……!」



部室に来てみたら、愛理ちゃんの声が聞こえた。

先を越されたか…。



『ふざけんなよ、テメェ』



あれ、丸井くん?

何で丸井くんが氷帝に…?



『清水がお前を嫌う理由はあっても、優衣子を嫌う理由はねえっつーの!』

『そんな事、本人じゃないと分かんないでしょ』



私が、優衣子を嫌う…?

どうしてそんな話になってるの?



『分かる!だってアイツは、何よりも優衣子の事を大事にして…!』

『もう良いよ、ブン太。私…プライベート用のメール確認してないの。だから、亜美に嫌われても…仕方ないんだよ』

『優衣子…』



メール…。

もしかして、私がずっと一方的に優衣子に送り続けてたメール?

見たんだ、優衣子…。



『優衣子ちゃん、亜美ちゃんが死んだかなんてまだ分からないよ』

『え…?』

『もし亜美ちゃんが生きてたら、俺はまたみんなで笑い合いたい』



ジロー…。

ジローはいつだって、私の味方をしてくれたよね。

いつだって、私の為に泣いてたよね…。


私、気付いてたんだよ…?




『"またみんなで笑い合う"…?本気でそんな事が出来るとでも思ってるのかい?』



立海の、部長…さん…?



『仲間を傷付けて、裏切って、全て元通りに出来るわけがないじゃないか』

「――…」

『形だけ戻る事が出来たとしても、心から君達を信じる事なんてきっと彼女にはもう出来ない。それくらい重い罪を犯したんだ、君達は』




…痛い所を突くね、この人。

確かに、もう心からみんなを信じる事なんて出来ないかもしれない。


今の私は、みんなが…怖い。


また嫌われたら…そんな事しか考えられなくて。

でも、これだけはどうしようも無いの。



体に埋められた恐怖心は、中々消えてくれないの…――。





『死ねば良いのよ、清水亜美の仲間なんて…!』

「――…!」



危ない、優衣子が…!


無我夢中で優衣子の前に飛びだそうとしたけど、間に合いそうに無かった。

咄嗟に私は右腕を出した。





――ガッ…!




切られた傷口からはぽたぽたと血が垂れる。

優衣子を助けられて、良かった…。



『アンタ…なん、で…?』



愛理ちゃんは化け物でも見たかのように驚いている。

良かったね、愛理ちゃん。

優衣子を切ってたら、私貴方を殺してたかもしれない。



「優衣子を傷付けたら許さない」



そう言って、横目で優衣子を見てみれば、いくつもの傷が付いていた。

ごめんね、優衣子。

全部、私のせいなんだよね…。



『亜美…』

「優衣子」



――パァァアアン…!



勢いよく叩いたのは、優衣子の無防備さを注意する為。


何でもっと、自分を大切にしないの…?


抱きしめた優衣子の体は傷だらけで。

自分の不甲斐なさ、優衣子を想う気持ち、色んな思いが混雑して…涙が出た。




でも何より、優衣子に会えて嬉しかったんだ…――

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