第5話 「私は絶対に、貴方達を許さない」


『愛理の声…!』



――バンッ!



『なんや!?』

『どうした!』



彼女の叫び声を聞きつけ勢い良くドアを開けて部室に入ってくる部員達。

そして小南愛理を見るなり私を睨む。



『愛理に何したんや?』

「………」

『オイ、侑士!愛理の手から血が!』

『なんやて?』

『…結局コイツも同じなんだよ、清水亜美と!』







『私は…イラ、ナイ…』






…亜美…亜美…!



――血…カッターナイフ…

あの時と…同じ…。

亜美が、自殺を図った…あの時と…。









『姫島!!』

「……何か、用?」



怒りで、憎しみで…どうにかなりそう。

あの時の亜美は、何を思っていたの…?



『テメェ、愛理に何したんだよ!?』

「…何も?」

『何もじゃねーだろ!血出てんだろ!』

「何もしてないわよ。彼女が勝手にやったのよ」

『お前…最悪やな』

「貴方達に言われたくないわ」

『愛理に謝れや』



ああ、そうか。

こうやって傷付けられてきたんだね、亜美は。

私とは違って、テニス部を信じてきた亜美は…相当辛かったよね?


締め付けられるような胸の痛みが私に襲ってくる。




「…やっぱり、噂に聞いた通り最悪な所ね。此処は…」

『なんだと…!?』

「亜美も可哀想。こんな所で扱かれて」

『亜美…?』

『お前…亜美と知り合い…なのか?』

「…知り合い?そんな軽いものじゃないわよ」

『…亜美が言ってたのかよ?最悪って』

「亜美がそんなこと言うわけないじゃない」



きっとあの子はいつだって、この馬鹿みたいな男達を信じてた。


それなのに――

後から来たこんなふざけた小娘に、大切なもの全部…奪い取られた。


信じて貰えない、みんなから責められる。

さぞ、辛かったでしょうね?



「私は絶対に、貴方達を許さない」

『亜美の仕返しってことかよ?』

「仕返し?そんな甘いものだと思ってるの?」



このネズミ共は…自分達がやったことの重さを、わかっていないようだね。



「良い?よく聞きなさい。私は貴方達に






――復讐しに来たの





私のその言葉に辺りは沈黙。

静寂な部室でお互いを睨み合う私達。




『復讐、だと?』



沈黙を破ったのは跡部景吾。

そんな目で睨まれても、ちっとも怖くない。

寧ろ…憎しみが増すだけ。



『亜美の知り合いだか何だか知らねえが、部外者が首を突っ込む問題じゃねえんだよ』

「あら?私は氷帝テニス部のマネージャーよ?部外者ではないわ」



その為に此処へ来たんだから。

大切なものを、犠牲にしてまで…。



『大体、全て清水亜美が悪いんだろうが』

「何故そんなことが言い切れるの?」

『清水亜美が愛理を虐めたんだよ。そのせいで愛理はボロボロだ』

「亜美の方がもっとずっとボロボロじゃない」



ずっと亜美を見てきたんじゃないの?

アンタ達は、亜美の何を見てたの…?



『当然の報いだろ?愛理を虐めた分、ツケが返って来たんだよ』

「…もう、貴方達と話すのは時間の無駄だわ」

『そうみたいだな』



復讐以前の問題だね。

コイツらは、自分らが悪いなんて…微塵も思っていないんだ。

亜美があんなに苦しんでいたのに…。



『この傷やと、今日はもう仕事なんて出来ひんな』

『俺、コイツが作ったドリンクなんて飲みたくねーよ』

「あらそう?好都合だわ」

『もう帰れや。お前はテニス部にいらんねん』

「でも、辞めさせることなんて出来ないものね?」

『監督がお前をこの部に誘ったのも、なんかの間違いや』

「間違いなんかじゃないわよ?なんなら榊先生に聞いてみれば?」

『…ほんま、鬱陶しい女…』

『忍足、もう相手にすんじゃねえよ。さっさと帰れ』

「そうさせて貰うわ」



私は早々に氷帝学園を後にした。

そして私が向かった先は自宅ではなく…






「亜美…」



亜美が入院している病院だった。

亜美はまだ目を覚まさない。



『…誰?』

「おばさん…。私、優衣子」

『優衣子ちゃん…?随分雰囲気が変わったのね』

「そう?」



姿形は変わっても、亜美に対する想いは変わらない。

ねえ、亜美…


早く目を覚まして――?










『優衣子ちゃん、コレ…見て欲しいの』

「…携帯…?」

『亜美の送信メールを見たら…コレが』

「送信メール…?」



一体誰に送っていたの?



『貴方にも…見て欲しくて…』

「…………」











今日もまた殴られた。

私はもう、テニス部にはいらないの?

みんなと笑い合った日々に戻れないの?

なんで…誰も私を信じてくれないの?

私は何もしてない。

お願い、信じて。

私達の長年の付き合いって、そんなものだったの…?









そこには亜美の本音が書き綴られていた。

それを見て私は本当に…本当に辛かった。


何故彼女がこんなにも苦しんでいるのに、気付いてあげられなかったんだろう?

私が側にいれば、何かが変わっていたかもしれないと言うのに…。




――いや、嘆いていても仕方がない。

私が今亜美の為に出来る事はただひとつ。


その為には、負けちゃいけないんだ。


亜美を虐めたテニス部に…!

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