第５０話 「怖いの…！不安なの…ッ！」


「何で復讐なんて危ない真似するの…？」



どうして"ありがとう"って言えないのだろう。

優衣子は私の為に体を張ってまで助けてくれたのに…。



「私、優衣子に復讐なんてして欲しかったわけじゃない」



でもねやっぱり、私が伝えたい事は"ありがとう"より…"ごめんね"なの…。

大切な親友に復讐させる奴なんて…世界できっと、私だけ。

何度謝っても足りないよね…。



「こんなに怪我して…死んだらどうするの…？」

『……ごめん』



優衣子に謝らせて…私って最悪な親友だよね。

悪いのはどう考えても、私。

謝らなければいけないのは私なの…。

でも…これだけは伝えておきたい。



「優衣子は掛け替えのない、たった一人の親友なのに」



優衣子が私にくれた気持ちは、私が優衣子に与える気持ちと全く同じという事を。




「優衣子…泣いてるの…？」



優衣子が鼻を啜る音が聞こえたので、優衣子の顔を見る。

頬に伝っているのは、間違いなく涙。

涙、出るようになったんだ…。



「良かった…」



嬉しくて、自然と優衣子を抱きしめる手に力が入る。


もう、何も心配いらないんだ…――





『何よ、全然元気じゃない…この女。自殺したとか言って、みんなに心配して欲しかっただけじゃないの？』



愛理ちゃんが余裕の無さそうな顔でそう言う。

いつも私の前では、嘲笑う笑顔があったのに…。

一体何がここまで彼女を追い詰めたんだろう…？




『アンタに何がわかんの？』



優衣子が愛理ちゃんを掴む。

その手は少し震えていて。

ここまでキレた優衣子を見るのは初めてだった。



『亜美がどれだけ辛い思いをしたかなんて、わからないでしょ…？』



悲しげな優衣子の表情が、私の心に響いてくる。



『たくさん傷付けられて、亜美がどんなに辛かったかなんて、アンタ達には一生わからない…ッ！』



傷付いたのはきっと、私じゃなくて優衣子なんだよね？

だから、私の気持ちが…分かるんだよね…？



『どうして傷付いたのが亜美なの…？どうしてアンタじゃないの…ッ？』



悲しい思いをさせてごめん。

辛い思いをさせてごめん。

私がもっと強ければ、こんな事になる事は無かった。

優衣子に復讐なんて、させる事は無かったんだ…。



『亜美は氷帝テニス部にとって、この程度の存在だったの？』

『優衣子…』



優衣子の言葉が胸に突き刺さる。



思い出が…蘇る。




「違う、私は何もやってない！」



何回も否定して、



『誰もお前の言う事なんか信じねえよ』



それでも信じて貰えなくて、



「お願い、信じて…！私は虐めなんてしない！」



一生懸命伝えても、



『嘘つきが、何を言うても嘘にしか聞こえへんわ』



何も変わらなくて…





『今まで亜美と過ごして来た日々は、こんな簡単に崩れるような信頼で出来てたの…！？』





『俺はお前なんか大嫌いだったぜ』

『俺はお前なんて大嫌いや』













私は…みんなにとって、どんな存在だったの――？










『…似てたんだよ』



そう言った景吾の声が、あの頃と同じで低くて。

恐怖で少し手が震えた。



『亜美と愛理の、発言が…似てたんだよ』



私と、愛理ちゃんが…似てる？


初めて見た景吾の悲しげな表情。

貴方は今、何を思っているの…？



『俺達にアドバイスする内容が、細かい所までそっくりで…』



景吾がそう言うと、愛理ちゃんの口元が少し釣り上がるのが分かった。



『アハハッ！教えてあげようか？私が何故清水亜美に似ていたか』



愛理ちゃんと似ているなんて、思った事も無かった。

もしかしてみんなは、私と愛理ちゃんをダブらせていたの…？



『清水亜美がずーっと付けてた部誌があるの』

『部誌…？』



景吾が眉を歪める。

そっか、気付いてたんだ…愛理ちゃんは。

私が毎日部誌を書いてた事…。



『私は毎日毎日、それをコッソリ盗み見してたってわけ』

『…通りで俺達の事をよく理解してたってことか…』



景吾は立ち上がって、私の目の前に。



『亜美、お前に言いたい事がある』



青い瞳が私に向く。



「…何？」



体が震える…足が、後退る。

染みついた記憶が、消えてくれない。





次に出る言葉は…"嫌い"…？






『俺は『ちょっと待て』




景吾の肩を掴み、亮が私の前に立つ。


私の愛しい人…。



『俺だって言いたい事、たくさんあんだよ』

『アーン…？次で良いだろうが』

『いや、俺が最初じゃなきゃ駄目なんだよ』



そう言った亮の眼差しが真剣で、思わず目を反らしたくなった。



亮が真っ直ぐ私を見つめる。

その瞳が私の動きを止める。






「私…何もやってない。信じてよ、亮！」


『悪い事は言わねえ、愛理に謝れよ』






嫌な事ばかり思い出す。


逃げ出したい。



怖い…ッ…










「――…ッ！」




私は部室から出て、全速力で走り出した。

宛ても無いのに、ただひたすら走る。

とにかくあの場から離れたかった。





もう嫌われるのは…嫌なの…！






『待てよ、亜美！』



亮にガッシリと腕を掴まれ、私の足は止まった。

逃げられない、それは分かってた。




でも…




「怖いの…！不安なの…ッ！」




動かずには居られなかった…。


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