第51話 「バイバイ、亮…」
殴られた傷跡はまだ残ってる。
裏切られた傷跡だって…消えてないんだよ…。
みんなに会えて嬉しい、心の何処かでそう思った。
憎しみなんて思いは私には無い。
でも…体が拒んでるの。
怖いって、訴えてるんだよ…。
#mtr11#
(最終章〜何よりも大切な日々だった〜)
『亜美!』
「離してよ…!」
私は亮の手を振り払った。
異常な程に震えが止まらない。
頭の中に駆け巡るのは昔の記憶。
『愛理先輩を虐めるなんて、最低です』
『愛理に謝れよ!』
『自分のやった事わかってるんか?』
『もう二度と、俺様の前に現れんじゃねえ』
『さようなら、清水亜美』
「――もう…嫌われたく、無いの…ッ」
私は立っていられなくなって、そのまましゃがみ込む。
もう、いらないの。
お願いだから…消えて。
過去も記憶も…消えて無くなれば良い。
そうすればまた…――
「怖いの、みんなの目が…声が…存在が…」
どうしたら元に戻れる?
どうしたらこの震えは消える?
どうしたら…
もう一度みんなと笑い合える…?
『俺だって、怖えよ』
「え…」
思わず顔を上げると、亮が悲しげに私を見ていた。
『俺は…亜美に嫌われるのが、一番怖えんだよ』
「――亮…」
亮の言葉に、少し胸がチクッと痛んだ。
私は、また傷付けられるのが怖くて…他人を傷付けてる。
自分を守る為に、亮を傷付けてるんだ…。
『正直言うと、部内で争いが起きるのを避けたくて…俺はお前の言葉に耳を傾けても無かった』
「………」
何処で間違ったんだろうね、私達。
あんな事が起きなければ…今頃笑ってたのかな?
笑って、毎日楽しいねって…言ってたのかな――?
『お前の気持ち、分かってやれなくて…悪かった』
シリアスな亮の顔を見て、何かを感じ取ってしまった。
私たち…このまま別れるの…?
『俺…最悪な彼氏だったよな…。だから』
「…ちょっと…、待って…ッ!」
気付けばそう叫んでた。
別れの言葉なんて聞きたくない。
私はまだ…亮の事が好きだから…。
『亜美…?』
…あ。
そっか、だから駄目なんだ…私。
怖いけど好き、なんて…
私の我が儘。
このまま付き合ってても、亮を傷付けるだけなのに。
結局…私は自分の事しか考えて無いんだ。
――あの時だって、そうだよね。
『初めまして、小南愛理です』
愛理ちゃんがテニス部に入って来て、みんなと仲良くなった。
私は自分の居場所が無くなるのが嫌で、愛理ちゃんを敵対心してたんだ。
愛理ちゃんも仲間だったのに、
愛理ちゃんも私と仲良くなろうとしてたかもしれないのに、
私が全て壊したんだ。
テニス部がこうなったのも、
優衣子が変わったのも、
ジローが悲しんだのも、
亮が傷付いたのも…
全て、私が我が儘だったから。
原因はいつだって私。
みんなを苦しめてたのは、全部…
私のせいだったんだ…。
「ごめんね、亮…」
『え…』
私は立ち上がって、亮を抱き締める。
『お、おい…亜美…』
「
別れよう…?」
『…なっ…』
好きだったの、本当に。
でも、私はもう…貴方を傷付けない自信が無い。
大切に出来る自信が無いの。
此処に来るべきじゃなかったんだよ、私…。
『待てよ、俺はまだ』
「バイバイ、亮…」
そう言って私は亮を解放した。
今、亮の言葉は聞きたくない。
聞いてしまうと、
私の決意が…壊れちゃうでしょ…?
「本当に大好きだったよ」
私は溢れそうになった涙をぐっと堪える。
最後は笑って、お別れ。
氷帝学園3年C組の清水亜美は…今日でサヨナラ。
私は今日で、氷帝学園を去る。
そう、決めたんだよ――
『亜美…』
部室に戻ると跡部くんが心配そうにこっちを見る。
優しい目が、私に向けられている。
『悪かった』
跡部くんは悲しそうな顔をしてそう言った。
謝らないで、お願い。
全部…私が悪かったの。
「私こそ、ごめんね」
『何でお前が謝るんだよ』
『そうだよ!亜美ちゃんは何も』
「
ううん、私のせいなの」
テニス部がごちゃごちゃになった一番の原因は私。
ジローの顔を傷だらけにしたのも私なの。
責任は、きちんと…
「私、テニス部を…
氷帝学園を、辞めます」
きちんと、とらせてもらうからね――
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