第1話 『よろしくお願いしますね』


小南愛理騒動から、約三年が経った。


あの後、何もかもが落ち着いて、順調にそれを保っていたある日…。

この立海テニス部にある人物がやってきた。
















#mtr11#

(番外編〜騒動は再び呼び起こされる〜)












『初めまして、栗原めぐみと言います。よろしくお願いします』



新マネージャーが入部した。

テニス部は非常に人気があった為、入れば虐められるのが確実で…入部する勇気のある人は誰も居なかった。

勿論私もたくさん虐められたりはしたが、特に辛くは無く。

襲われそうになった事も多々あったけれど、武術を習っていた私は簡単に逃れる事が出来た。


そんな危険なテニス部にマネージャー立候補者が一人。



『マネージャーなんて、優衣子一人で十分だろぃ』



と、真田に講義していたブン太だったが…。



『お、結構可愛い子じゃねえか!俺は大歓迎だぜぃ☆』

おいおいおい



栗原めぐみの可愛さにやられ承諾。

やれやれ、どうして男と言うものはこうなんだろうか。



『ふ〜ん』



と冷静に彼女を見る赤也だったが…少し口元がニヤけている。

コイツも彼女の可愛さに、落ちてるな。


あーもう、最低だ!

可愛けりゃ良いのか、君達は!



『優衣子、顔が強張っちょる』

「仁王…」



ヤバイヤバイ。顔に出てた。

だってマネージャーって言うと小南愛理しか思い出さないんだもの。

あの女は生涯私の記憶に残るだろう。

現に三年経った今だって私の記憶から抜けてくれる気配は無い。

本当に強烈なキャラだった。



『優衣子』

はい…!?



小南愛理の事を考えていると、真田に名前を呼ばれたので焦って返事する私。

真田と栗原さんが私をジーッと見る。



「な、何でしょう…?」

『栗原に色々と教えてやってくれ』

「あ…うん」



気分が乗らないまま返事をすると、栗原さんが可愛い笑顔を向けて私の方に寄ってくる。



『よろしくお願いしますね、先輩!』

「よ、宜しく…」



何故か一歩距離を置いてしまう。

これは一種の…トラウマってヤツ?



『先輩って本当に綺麗ですね!私、ずっと憧れてたんです!』

「そ…それはどうも」



悪い子では無い、と自分に言い聞かせてみるが、出てくるのはやっぱり小南愛理の醜い笑顔。

早く消え去ってくれ、昔の記憶…!



「それで、水を入れて…これでドリンクは完成」

『わぁ!先輩凄い!』

「…ま、まぁね」



あまりにも可愛らしい笑顔で誉められたので、調子に乗ってしまう私。

しかし彼女は…



『じゃ、これ私が持って行きますね!先輩はもう一つ作っておいて下さい!』



と言って部員のもとへ。


…え?

えぇええ!?


ちょっと待ってよ、このパターンって…。




『ホラ、早くドリンク作ってよ。持ってけないでしょ?』




完全に小南愛理のパターンでは…!?



「………」



か、考えすぎだよね…。

時間の短縮の為にやってるんだよ、彼女は。

きっとそうだ、うん。



私はそう自分に言い聞かせて、彼女の帰りを待つ。


…が。

彼女はいつまで経っても帰って来ない。

おかしいと思ってテニスコートの方に向かってみると…そこには部員と楽しく喋っている彼女が。



カッチーン。



完全に頭にきたぞ。

私は栗原めぐみの方に向かい、彼女を睨み付ける。



「ちょっと、何やってんの?」

『あっ…先輩…!』

「仕事やる気無いの?」

『ち、違…!お喋りが楽しくてつい…。ごめんなさい…ッ!』



そう言って彼女は頭を下げる。

私は溜め息をひとつ。

するとジャッカルが私に一言。



『お前、根気詰めすぎ』



この言葉にもカチンと来た。


"根気詰めすぎ"…?

私は貴方達の為に頑張ってるんじゃない!



物凄くイライラしたので、無言でその場を去る。



何で私、こんなに苛ついてるんだろう?

ああ…助けて、亜美…。



『優衣子、今日一緒に帰ろうか?』



部活が終わって部室から出ようとした時、精市がそう言ってくれた。

精市の優しい言葉に、何だか安心する。



『すぐに帰る用意するから、ちょっと待ってて』

「なら、外で待ってるね」



そう告げて、私は部室から出る。

栗原めぐみは相変わらず部員と喋っている。

部活中あんだけ喋ってたくせに、まだ喋り足りないのか…。

なんかもうやだよ。

どんどん醜い人間になってくよ…私…。



『お待たせ』

「精市…」

『どうしたの?』



泣きそうになっている私に、少し驚く精市。

そして精市に悩み事を打ち明けると、精市は優しく笑って、



『俺はいつでも優衣子の味方だから』



と、私の頭を撫でてくれた。

その言葉が今の私にとって何よりも嬉しくて…私の中から不安が消えて行った。


取り敢えず昨日の事を謝ろうと、栗原さんのいる教室に向かう私。

廊下に彼女の姿が見えたので呼ぼうと思ったが…


何だかいつもと感じが違う。


顔が…物凄く醜く歪んでいる。

まさかと思い、隠れて彼女の会話に耳を傾ける。



『レギュラー以外大したこと無いね』

『やっぱり、そうなんだ〜』



レギュラー…と言う事は、部活の話…?



『やっぱ初日からレギュラーと話してたらマネージャーの女に何か言われそうだから我慢してたんだけど…あの女レギュラー以外と喋ってても注意してくんの!』

『うっそ、ありえねー』

『なんか勝手にキレてさぁ、マジムカツクから。チョー説教くせぇし』

『めぐの可愛さ妬んでんじゃないの〜?』

『何ソレ、チョー迷惑!』

『美しいって罪だねぇ?』

『ハハ、そうだね〜。でも、この可愛さで、絶対レギュラーをあたしのモノにしてやんだから』

『うわ、悪女〜☆』

『だって、あの女よりあたしの方が絶対部員も楽しいって!』

『アハハハハ!まぁ頑張って〜!』










…ハイ、全て聞いてしまいました。


この女は間違いなく、プチ小南愛理です。

私のカンは全て…正しかったんです。



"レギュラーをあたしのモノにしてやる"?


やってみなよ、私負けないから。

私はみんなを、信じてるんだから。


私達の絆はそんなに脆くはない。



そう、思ってたんだ。

この時は…――

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