第6話 お前は何か勘違いしている。


<跡部side>



『姫島優衣子です。どうぞ宜しく』



綺麗な奴だと思った。

この俺様が目を奪われるくらいに。



『席は、跡部君の隣で』



そう言われた時、不覚にも運命と言うものを信じてしまった。

何者なんだ?コイツは…。



『宜しくね、跡部君?』

「…ああ」



急に声を掛けられたもんで、ちゃんとした言葉が出てこなかった。

上品に笑った姫島がどことなく愛理に似ている感じがしたのは…俺の見間違いか?





『跡部、今日転校してきた姫島優衣子さんだが…』



監督が姫島の名前を口にすると、俺の体が反応する。

悔しいが俺は姫島に深く興味を持ってしまったらしい。



『テニス部のマネージャーになって貰う』

「…え?」



姫島優衣子何処までも俺に関わってくる。

これは…偶然、なのか?



「何故姫島優衣子を…?」

『私からの推薦だ』

「監督からの?」

『詳しい事は知らなくて良い』

「俺は部長ですよ?知る権利はあると思いますが」

『なら私は監督だ。私が知らなくて良いと言っているのだから、知らなくて良いんだ』

「…わかりましたよ」



まぁ良い。

謎めいた女は嫌いじゃねえ。


姫島優衣子。

俺様にここまで興味を持たせるとは…大した女だ。



『強いて言うならば…』

「…?」

『清水亜美さんの代わりと言ったところか』

「清水、亜美の…?」

『何しろうちのテニス部は総勢200人。一人では大変だろう』

「…そうですね」



一人では大変?

何を言っているんだ監督。

今までマネージャーは実質一人だったんだ。

愛理一人で十分やっていける。


だが…

姫島優衣子がマネージャーになることには、大賛成だぜ?







『今日からマネージャーになる姫島優衣子です。宜しく』

『マネージャー?なんや、跡部が誘ったんか?』

「俺じゃねえ。監督からだそうだ」

『監督が…?なんでや?』

「知らねえよ」



監督の本当の意図は知らねえが、清水亜美の代わりだとかなんとか言ってたな。

だがそんなことはどうでも良い。

清水亜美の事は、もう思い出したくもねえ。

愛理に傷を付けたアイツを俺は許さねえ。



『あの、私小南愛理って言います。嬉しいな、仲間が増えて』



愛理…顔色が悪りぃ。

清水亜美に傷付けられたんであろう傷跡は、痛々しくて見ていられない。



『愛理…無理すんなや?お前は病み上がりやねんから』

『私なら、もう大丈夫。それにみんなに迷惑掛けたくないし…』



忍足が愛理の体を支える。

愛理の顔を見る限り、明らかに無理をしているのが分かる。

傷付いたのはお前だ。

頑張る必要なんてねえだろ?



「俺らはお前の体の方が心配だ。辛いなら無理すんな」

『跡部君…ありがとう』



愛理はおとなしい性格。

清水亜美とは正反対の性格だ。



『姫島さんは良い人そうだから良かった』

『そうだな。少なくともアイツみたいなことは』

『岳人…!』

『っあ!悪りぃ…』

『アイツとは?』



なんだか胸くそが悪りぃぜ。

何故今日はこんなに清水亜美の話題が出るんだ?

もうアイツのことは良いじゃねえか。



「お前は何も知らなくて良いんだ」



咄嗟に出た言葉だったが、その通りだ。

コイツは何も知らなくても良い。

俺達としてもいち早く清水亜美の存在を消したい。


それを願っていたと言うのに――









キャァァアアア…!!!!



休憩中の俺達の耳に聞こえてきたのは、愛理の叫び声。

…嫌な予感が俺の胸中でざわつく。



『なんや!?』

『どうした!』



忍足、岳人に続きぞろぞろと部室に入っていく。

そんな中俺は芝生に座ったまま。

スタートダッシュが遅れた…と言うよりは動けなかった。

また愛理に何かあったら…と言う思いと、姫島が何かしていたら…と言う思いが俺の中で渦巻いていた。



――それは思いだけでは終わらず、現実になっていたのだが。





『…やっぱり、噂に聞いた通り最悪な所ね。此処は…』

『なんだと…!?』

『亜美も可哀想。こんな所で扱かれて』



俺が部室に入って行った時はここまで話が進んでいた。

まさか姫島の口から亜美と言う単語が出てくるとは、思いもしなかった。

それはきっと、コイツらも…。



『私は絶対に、貴方達を許さない』



確かに姫島はそう言った。

聞き間違いなどではない。

俺の頭の中は混乱していて、何も考えることが出来なかった。

そんな俺の耳に入って来たこの言葉。



――復讐しに来たの



姫島の言葉に沈黙で包まれる部室。


何…ビビってんだ。

俺は急に苛立ちを覚えた。

傷付いたのは愛理だろ?

何故お前が俺達に復讐するんだ?




「復讐、だと?…亜美の知り合いだか何だか知らねえが、部外者が首を突っ込む問題じゃねえんだよ」

『あら?私は氷帝テニス部のマネージャーよ?部外者ではないわ』



厄介な奴が氷帝に来た。


お前は何か勘違いしている。

清水亜美は愛理を虐めた。

だから俺らが復讐したまでだ。



お前が俺達を、愛理を…許さないと言うならば


俺は清水亜美を許さない。




そして、お前もだ――

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